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043 抜け駆け
しおりを挟む慎重派を出し抜いた急進派の集団、総勢十五名、うち新人八名もこれに参加していた。
彼らは早々に亡都を抜けて目指す横穴へと到着する。
夜明け前の薄暗い時間帯にもかかわらずそれが可能であったのは、亡都ツユクサに脅威となる敵影が見当たらないことがすでに判明していたから。
とはいえ装備を身に着けての駆け足の強行軍ゆえに、いささか息があがってしまっていた。集団を率いていた者もさすがにこの状態で突入はできないと考え、いったん小休止とした。
携帯食を胃に入れる者、水筒に口をつけノドを潤おす者、装備類の調子を確かめている者、近くの繁みで用を足す者などがいる一方で、顔を付き合わせてはひそひそ話をしている者たちもいる。
「……でも、本当によかったのかな。こんな真似をして」
「かまうもんか。あんな臆病者どものことなんて放っておけ」
「しかし戻ってから処罰されないかな? ゲンコツと罰金ぐらいですめばいいけど」
「そうだよなぁ、さすがに除名とか放逐処分は困る」
「なぁに心配はいらないさ。ちゃんとお宝を持って帰れば、誰にも文句なんて言わせやしねえよ」
「そうだ、そうだ。なんならそいつを元手にして新しく探索屋を立ち上げてもいいじゃねえか」
規律違反を犯したことに怖気づく者もいれば、不安がってはいまさら心配になる者もいる。だがそれでも全体の士気はかなり高い。なんだかんだで興奮と期待が勝っているのだ。
そんな様子を見て集団を率いている男はうなづきつつ、「さて、そろそろお宝を拝みに向かうとするか」とみなを促す。
◇
タイマツを手に横穴へと突入するも、拍子抜けするぐらいに内部は平穏そのもの。
ゆえに急進派の集団はすぐに鉄の大扉の前へと到着する。
問題はこいつをどうやって開けるのかということなのだが……。
「あった、あった。やはり緊急用の手動開閉装置が隠されてあったぞ」
扉の手前の壁や床をしらみつぶしに調べていた者が発見するも、すぐに難しい顔になる。
装置には数字が刻まれた円盤錠がついている。これを解除しないことには装置を動かせない仕組み。右へ左へと円盤を回し、正しい四桁の数字を入力しないと開かない。組み合わせは一万通りほどもある。まともに探っていたらいったいどれぐらい時間がかかることやら。
あんまりグズグズとしていたら、追手が来てつれ戻されてしまう。
だが、ここで彼らに幸運の女神が微笑む。
なんと! 円盤錠は開かれた状態であったのだ。
金庫などでも往々にしてあることなのだが、いちいち円盤をいじると開けるときが面倒になるので、ついそのままにしてしまう。
いささか本末転倒ではあるが、しょせんは人間のやることゆえに。
「おぉ! こいつはツイてるぞ。新人が八名もいるから女神さまが気を利かせてくれたらしい」
その言葉にどっと沸く一同。
さっそく円盤錠をはずし、取っ手を握ってはせっせと回し始める。
最初の方こそは固い手応えであったが、じきに軽くなっていき、途中からは苦もなく回せるようになる。
これにともなって少しずつ少しずつ、鉄の大扉が奥へと動きはじめた。
◇
とりあえず人が二人ほど肩を並べて通れるぐらいにまで大扉を開けたところで、一行は奥へと進むことにする。
一歩踏み込んで驚いたのは常夜灯ながらも照明が生きており、内部が植物に一切浸蝕されていないこと。機密性が尋常ではない。
埃こそは積もっており、空気も淀んで湿気がこもっているが、それ以外はかつての面影をそのままに残している。
ばかりか長らく外部との接触が完全に遮断されていたがゆえに、妖精の鱗粉の汚染をもまぬがれているらしい。
今どきそんな場所は王城の地下とか、世界中でも数えるほどしか残っていないはず。
もしも施設そのものが再利用可能だとすれば、失われた技術の数々が現代に蘇るやもしれない。
世紀の大発見である。それこそ後世に名を残すほどの。
問題はここが何を目的とした施設なのかということ。
それ次第では価値は数倍どころか数十、数百倍にも跳ね上がることであろう。
時に欲得は人の目を曇らせる。
急進派を率いる男とてそれなりに経験を積んできた探索屋。
なのに目の前に転がり込んできた、あまりにも大きな幸運にすっかり舞い上がってしまった。
それがけっして女神の恩恵なんぞではなく、冥府へと誘う死神の罠であったというのに……。
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