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041 熟練者の勘
しおりを挟む亡都ツユクサにて探索を始めて、はや四日目に突入。
初日にいきなり東側に潜っていた第二班が地下蔵に隠し金庫を発見し、おおいに盛りあがるも丸二日かけてどうにか開錠してみると、中身は紙幣の束の山にてたいそう落胆する。
せめて宝石や貴金属類でもまぎれていればよかったのだが一切なし。
旧紙幣はいまではゴミくずにて、火種にするか、クソのあとに尻を拭くぐらいにしか使い道がない。金庫の扉そのものは資源として価値があるものの、こいつを取り外すには専用の工具と、相当数の人員が必要。
採算がとれるか微妙と判断した隊長モリブの判断により、回収はいったん保留とされた。
隠し金庫の開錠作業と平行して街中の探索も継続。
そちらはボチボチと成果をあげてゆく。
あいにくと図書館らしい建物は発見できていないが、個人宅であろう場所から少量ながらも書物を発掘するのに成功する。
料理本と小説が数点。
缶の箱に入れられていたおかげで状態はかなりよく、落丁や虫食いは見られない。これならきっといい値段がつくことであろう。
ある程度、亡都全体の概要を把握したところで隊長モリブは、探索に主軸を置く班と資源回収を担当する班とに分けた。
おそらく希少品はあまり期待できないと、早々に見切りをつけたのであろう。
再生可能な資源をせっせと拠点に運び込ませることにする。
次々と運ばれてくるそれらを、居残り組と御者らが分類し整頓しては、荷車に積み込んでいく。
ちゃんと重心を考えて片側に負担がかからないように、荷物の配置を考えながらの搬入作業。
いざというときに荷崩れを起こしたらたいへん。立ち往生することになれば死活問題なので、ここは絶対に手を抜けない。
三両編成の大型荷車を埋めていくうちについに四日目も終了。
驚くべきことに本日も死傷者はなし。探索屋トウカクの面々はそろって拠点に帰還する。
それを出迎えながら俺は内心で困惑していた。それは御者仲間のトパスも同様のはず。
何度も繰り返しになるが、探索屋という稼業は生還率六割ちょいが平均。
二十五名の隊員のうち、新人が八名も含まれており、なおかつ発見されたばかりの亡都への挑戦という状況を考えると、これは異常なことである。
そりゃあ死人なんぞは出ないのにこしたことはない。
とはいえ素直に喜べないというのが俺の本音。
そんな不安を密かに抱いていたのが自分だけではなかったことがわかるのは、その日の夕食後のことであった。
◇
俺が大型騎獣コクテイの背にて見張りをしていると姿をみせたモリブ、よじ登ってきて「ちょっといいか」
彼が持ちかけてきたのは相談事。
「いまの状況、どう思う? あとでトパスさんにも訊いてみるつもりなんだが、各地を巡ってきたあんたの、第一等級の御者であるダイアさんの率直な意見を教えて欲しい」
探索自体はとても順調、予定通りに日程を消化している。
成果もそこそこ挙がっている。
だがあまりにも順当すぎるのだ。戦闘らしい戦闘行為がほとんど発生していない。
危険な生物や慮骸ともいまのところ遭遇はしていないし、それらしい痕跡も見つかってはいない。
亡都ツユクサはほとんどもぬけの殻状態。
でもここは外地の緑迷海の奥である。人間なんぞは食い物としか見ていない存在がゴロゴロしているというのに、こんなことふつうはあり得ない。
「妖精の鱗粉濃度が低いせいかもしれないが、それにしたってここは平穏すぎる。あまりにも静かすぎるんだよ。こんなのははじめてだ」
場所そのものに違和感を感じているモリブは「いっそのこと被害が出る前に、予定を切りあげるべきか」とすらも口にする。
これを受けて俺はあくまで御者としての経験上から所見を述べる。
「そうだな。新入りどもが油断して緩んでいるみたいだし、とり返しがつかないことが起きる前に引きあげるのも正解かもしれん。ほら、嵐の前の静けさって言うだろう? アレと同じでさ。御者の仕事でもやたらと道行きが順調な時にかぎって、あとでドカンと特大の災難が襲ってくるんだよ。でもって、小物がちっとも見当たらないってことは、そいつらがこぞって逃げ出す、もしくはビビッて姿を隠すようなヤバいのが近くにいるってのが、まぁ、お約束だな」
「……そいつはまた、イヤなお約束だな」
「だろう? しかしこいつがけっこうな高確率で起こりやがる。今回はさいわい成果はほどほどに挙がっているみたいだし、稼ぎとしては充分だろう。あまり欲をかかずに適当なところで探索を切りあげるのが無難かな。根拠のない『だろう運転は事故のもと』ってのが御者の訓戒でね」
「そう……だな。うん、ありがとうダイアさん。参考になったよ。やはりみんなと一度話し合ってみようと思う」
モリブは礼を述べて自分が寝起きしている天幕へと戻っていった。
だがその話し合いの場が設けられることはなかった。
翌五日目、ある大発見にともない事件が勃発し、それどころではなくなったからである。
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