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034 害虫駆除
しおりを挟む黒服の家令が操る三つに枝分かれした歪な剣。
一つの刃を受けたとたんに残りの刃が襲いかかってくるので、鍔迫り合いは危険。
ゆえにどうしても打ち合いに終始することになるのだが、手元の操作のみにて巧みに三つの刃を入れ替えることで攻撃の回転数を増しており、短剣一本のこちらは押され気味にて防戦一方となりがち。
「ほらほら、どうしました? その程度なのですか」
攻めながらの挑発。ムキになってこちらが突出した瞬間を狙っているのは見えみえ。
だが俺はあえてそれに乗ってやることにする。
「だったら、コイツでどうだ!」
わざと声に怒気をこめて大きく短双剣の一刀を振り抜く。
とたんに黒服の家令の身がサッと横へとのき、空ぶった俺はたたらを踏むはめになる。
やや前かがみとなり無防備にさらされた後頭部。
そこへとめがけて首を落とさん勢いにて振り下ろされる歪な剣。
が、その必殺の動作は途中で中断される。
歪な剣の柄頭に当たったのは革製の長靴の左カカト。
御者愛用のそれには底や先端に鉄板が仕込んでおりとても頑強。
柄頭を蹴飛ばされたせいで、すっぽ抜けた歪な剣が天井へと突き刺さる。
手の中から消えた得物。その行方を無意識に目で追った黒服の家令。
時間にすればほんのまばたき程度のこと。だが刹那の戦場では、たったそれだけのことがときに致命的な隙を産む。
左カカトを跳ね上げた勢いのままに身を捻りつつ、俺は手の中の刃をヤツの足下へと向けて投擲。
狙いあやまたず、深々と左足の甲へと刺さった黒羽の一刀。その切っ先はたやすく肉を突き破り、骨の合間を貫通し、そのまま床にまで到達する。
床に縫い留められて動けなくなった黒服の家令。もがく素振りをする間もなくその首筋を薙いだのは俺の右の蹴り。とっさに腕をあげて攻撃を防ごうとしたのはさすがだが、気づくのがいささか遅すぎた。
蹴撃をまともに喰らって黒服の家令は沈黙した。
◇
簡単な止血をしてから身中の虫を縛りあげ、猿ぐつわをかませる作業をこなしながら、俺はロギに告げる。
「おまえはこのまま今夜はこちらでお世話になって、明日になったら堂々とお暇をしてから、いつも通り支部に顔を出せ。きっとすぐに支部長のナクラに呼び出されるだろうから、細かいことはそのときに訊け。あと今回の件は他言無用だ、わかったな」
「あのぅ、ダイア師匠、もしも役所に訴えたりしたら……」
「いちおう受理はされるだろうな。けれどもたぶん城塞都市ソーヌから第三等級の御者とその相棒の騎獣が人知れず姿を消すことになる……かもしれない」
「うっ」
おおまかなところを察したロギが黙ったところで、俺は高官の妻へと声をかける。
「それから奥さまも、どうかご内密にお願いします。下手に騒ぎになりますと旦那さまにご迷惑がかかりますので。あとのことはこちらで処理しておきますから」
「………………はい。よろしくお願いします」
泣きはらした目にて消え入りそうに返事をする高官の妻。
すっかり憔悴して小刻みに震えており、ただでさえ希薄な気配がより薄くなっている。青白い顔色がいっそう血の気を失っている。
心神耗弱につけこまれたのであろうご夫人。おもえば哀れなものである。
身内を失くす辛さは俺にも覚えがある。だが、こればっかりは自分で乗り越えるしかない。なにか良いきっかけでもあればいいのだが……。
高官の妻のことはロギにまかせて、俺は拘束した黒服の家令を肩に担ぎ、屋敷をあとにする。もちろん侵入してきた時と同様にこっそりと。
表で待っていた相棒のメロウと合流。
いささか手間取ったが、どうにか仕事を終えた俺たちは支部へと帰還する。
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