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027 移動中継車
しおりを挟む都市部内での配達業務。
外敵はいないと油断していたらところ、おもわぬ伏兵がいたるところに潜んでいた。
ときに親しげに、ときに探るように、こちらに話しかけてきては言いたいことだけを言って去ってゆくご夫人たち。
拡張能力を持ち、数々の対人戦を経てきたこの俺がかわしきれずに苦戦する口撃。
ひとりでも厄介だというのに、うっかり足止めを喰らうと続々と集結する敵の増援。ぺちゃらくちゃら、たちまち孤立無援となり怒涛の舌戦へと発展したが最後、あとは愛想笑いにてどうにか嵐の時が過ぎ去るのを待つしかない。
ぶっちゃけ軍人だった頃に氷点下の雪原にて吹雪の中を行軍させられたときよりもキツイ。
◇
初日には作業に不慣れということもあり、荷台の半分程度しか荷をさばけなかった。
しかし二日目、三日目と続けていくうちに要領がわかってくると、どうにか日が暮れる前には荷台を空にできる程度になる。
とてもではないがロギとアサヒたちみたいには動けない。
なので、うちはうちのやり方を導入した。
いささか禁じ手臭いが、もともと俺は配達業務で生計は立てていないので、これで採算をとろうだなんて考えていないからこそ可能な捨て身技。
緑のスーラが引く荷車が停車するなり、わっと駆け寄ってきたのは近所の子どもや手が空いている者たち。
群がる連中に俺は「おまえさんにはコレ」「そっちお姉さんはこいつを」「これはちょっと重いから、そこの腕っぷしが強そうな兄ちゃん頼む」と次々に割り振る。
すると荷物や手紙を受け取った面々が方々に散り、しばらく待っていると受け取り証を持ってあらわれるので、ソイツと報酬を引き換える。
俺が楽を出来て、みなはちょっとした小遣い稼ぎが出来るという寸法。
えっ、そんなことして荷物は大丈夫?
紛失したりネコババされたりしないの?
と心配されるかもしれないが、まぁ、大丈夫だろう。
いちおう俺も相手を見てまかせている。それにここ城塞都市ソーヌの治安はすこぶる良い。さすがに中央の王都ぐらいの規模になれば、きな臭い連中がたむろする区域や貧民窟などもあるが、地方都市にはそんなシロモノを抱えておく余裕なんぞはない。
なにより住民たちの間には相互補助や助け合いの精神が根付いている。
べつに義理人情に厚い下町というわけではなく、そうしなければあの地獄の大戦を生き残れなかったし、戦後の混沌期を乗り切ることも不可能であったからだ。
さすがに悪党がひとりもいないとまでは言わない。
だが他所よりもずっと少ないのだけはたしか。
もしも罪が露見したら守備隊にとっ捕まり、よくて強制労働、最悪、壁の外へと短刀一本で放り出される。そうなれば十中八九、野垂れ死ぬよりも先に野生の法則の餌食となるだろう。現状、外の世界はそれほどまでに過酷であり、だからこそ俺のような御者が必要とされている。
ちなみに持たされる短刀は戦い用じゃない。自決用だ。せめて人生最後の選択ぐらいは好きにさせてやるという、御上の慈悲である。
◇
本日の仕事を半ばほどまで進めたところで、荷車にサッと影がさす。
大猫にまたがったロギだ。最寄りの垣根から飛び降りて颯爽と登場。
はじめは俺のやり方に難色を示していたロギであったが、こちらが移動中継基地の役割も果たすと提案するなりたちまち手のひらを返して協力的になり、先々にて人集めの声かけなんぞをしてくれるようになる。
ロギとアサヒたちの最大の武器は、都市部を自在に動ける圧倒的な機動力。
弱点は一度に運べる荷物の量があまり多くないこと。
多くの仕事量をこなそうとすれば、どうしてもかさ張らない小荷物や手紙などに比重を置くことになる。だがそれでも一度に運べる量はしれている。だから配り終わるたびにいちいち支部にまで荷を取りに戻らねばならない。往復するだけでもけっこうな手間と時間が消費される。
その分を俺と相棒のメロウが肩代わり。
街中ゆえにたいして速度は出せぬが、こう見えて緑のスーラはけっこう力があるもので、一度にそこそこ多くの荷を運べる。
だからロギに割り振られている荷物もいっしょに積み込んでは、おっちら街中へとくり出す。途中、手持ちを配り終えたロギがこちらに合流、補充をすませてふたたび配達へと向かうという仕組み。
俺がとっている手法はどちらもその気になれば誰でも思いつく程度のこと。
なのにこれまで誰もやっていなかったのは、歩合制と採算の問題。あとは仕事に対する評価などのせい。
たいていの御者は上の等級を目指す。
上に行くほどに危険度は高まるが稼ぎがぐんと増える。
ゆえに第三等級の下積みである都市部での配達業務は、あくまで通過点に過ぎないと考えている者が大半。
それに他人と組むのは案外難しい。報酬の取り分で揉めることが多いのだ。
平等に分けるのがすっきりしていて良さそうだが、これがそう簡単な話ではない。
きっちり参加した人数で分けるとなれば、がんばった者もサボった者も、効率のいい者もどんくさい者も、等しく同額の報酬を受け取ることになる。残念ながら能力には個人差がある。ゆえに平等という名の不平等がどうしても自然発生する。
ならば働きの内容に応じて……。
となると、今度はそれをきちんと査定する信用のおける目を持つ人物が必要不可欠。
しかし第三等級にそんな人材が都合よくいるわけもなく。
駆け出し同士にてまだまだ鼻息荒く、競争相手でもある関係上、よほど気心の知れた者同士でないと十中八九揉める。
加えて若い身空で男女混合とかだと色恋沙汰が絡んで、よりややこしい事態に。
とどのつまり俺がとっている手法は、採算度外視にて業務を遂行する酔狂な第一等級の御者がいてこそ成り立つということ。
あとこれはあまり認めたくはないのだが、ロギのところとうちとの相性がおもいのほかにいい。
この調子ならば働き手が回復するまでのつなぎの役割は充分に果たせるだろう。
俺がそう考えていた矢先のことである。
ロギと相棒のアサヒが消えた。
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