19 / 121
019 集落奪還作戦・ヒトデ
しおりを挟む煙る瓦礫の中、蠢いているのは賊の残党を貪っている異形。
大きさは四シーカ半(約四メートル五十センチぐらい)ほど。
まるで巨人の手のような形状から「ヒトデ」と呼ばれる慮骸。五指に似た部位にて蜘蛛のように地を這い、ときに跳ねては高所を移動したりもする。頑強なはずの集落を守る壁や門を破壊するほどの膂力を持ち、人体なんぞはヒトデにとっては紙細工みたいなもの。
くちゃくちゃくちゃ……。
不快な咀嚼音がしているのは、手のひらのような胴体にある大きな口。
なまじ歯並びが人間に準拠しているために、眺めていると怖気だけでなく嫌悪感がよりいっそう強くこみあげてくる。
◇
「ひぃいぃぃぃぃぃぃっ」
背後で起った金切り声は住人の誰かがあげたもの。
賊相手の勝利の余韻なんてものは一瞬で消し飛び、たちまち恐慌状態に陥る集落。
しかし周囲がざわつくことで逆に俺の意識は冷静さを取り戻す。
そしてはっと我に返ったことにより気がついてしまった。現在の状況がかなりマズイことに。
この辺境の集落は山間部に位置している。三方が高い岩肌に囲まれ、出入り口は正面にひとつきり。守りに固く攻めに難しい天然の要害。
けれども唯一外へと通じる場所に慮骸が居座った時点で、ここは要害でなく逃げ場のない檻となった。
生き残るにはこのヒトデをどうにかするしかない。
「ダヌさんたちは集落の奥へ避難してくれ。こいつは俺がなんとかする」
「しかし! いくらダイアさんでもひとりでは。ならば、いっそのことみんなで力を合わせて……」
この申し出に俺は首を横にふる。
「残念ながらそれは無理な相談だ。みんなのあの怯えっぷりを見ただろう? 辺境の民にとって、いや、大半の人間にとって慮骸は死と絶望にも等しい存在なんだ。恐怖のあまりろくに動けず、一方的に狩られるだけだ」
よってこの場にて慮骸を相手にしてまともに戦えるのは、第一等級御者である俺のみ。
心配してくれるのはありがたいが、この場に留まられるとかえって足手まといになる。
「みんなといっしょに隠れているように」
俺の言葉にダヌはしぶしぶうなづき、「どうかご武運を」と言い残し住人らの避難誘導を開始する。
集落の奥へと向かう人々。
その流れに逆らって姿をあらわしたのは相棒の緑のスーラ。
「やれやれ、ようやく防人に扮した賊を退治したとおもったら、お次は慮骸か。気合いを入れろよ、メロウ」
「ぴゅい」
御者と騎獣が覚悟を決めるのを待っていたかのように、のそりとこちらを向いたヒトデ。ぷっと大口から吐き出したのは、ぐにゃぐにゃになった鉄くず。
原型はとどめていないがもとは剣。賊の中にいたそこそこ遣えるヤツの持ち物。
集落奪還作戦にていち早く負け戦を悟り、とっとと逃げ出したところで慮骸に遭遇したのだろう。犯してきた罪をおもえば、まぁ、順当な末路ではあるが、それでも生きながらバケモノに喰われる最期にはいささか同情を禁じ得ない。
グググと五指を曲げて地に這いつくばる姿勢をとったかとおもったら、ヒトデの身がいきなり大きく跳ねた。
高さのある跳躍。
見上げていると勢いのままにこちらへと降ってくる。
巨体を活かした、のしかかり攻撃!
俺とメロウはあわてて左右に飛んでこいつをかわす。
かわしながら俺は短双剣の黒羽を抜き、すかさず拡張能力を発動。相手が慮骸とあっては出し惜しみをしている余裕はない。
緑のスーラは移動しながら筒状の突起物を生やしつつ、ヒトデの着地に合わせて「スーラ弾」による射撃を開始する。弾となる石くれは周囲にいくらでも転がっているので、滅多やたらと撃ちまくる。
しかし連射を優先するあまり空気圧の溜めが足りない。
軽い一撃では慮骸の強固な体をたいして傷つけられず、せいぜいが牽制ぐらいにしかならない。
だがヒトデの注意を引くのには充分。
緑のスーラに気取られたヤツの無防備な背に俺は斬りかかる。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
網野ホウ
ファンタジー
異世界で危機に陥ったある国にまつわる物語。
生まれながらにして嫌われ者となったギュールス=ボールド。
魔物の大軍と皇国の戦乱。冒険者となった彼もまた、その戦に駆り出される。
捨て石として扱われ続けるうちに、皇族の一人と戦場で知り合いいいように扱われていくが、戦功も上げ続けていく。
その大戦の行く末に彼に待ち受けたものは……。
風ノ旅人
東 村長
ファンタジー
風の神の寵愛『風の加護』を持った少年『ソラ』は、突然家から居なくなってしまった母の『フーシャ』を探しに旅に出る。文化も暮らす種族も違う、色んな国々を巡り、個性的な人達との『出会いと別れ』を繰り返して、世界を旅していく——
これは、主人公である『ソラ』の旅路を記す物語。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
亡国の草笛
うらたきよひこ
ファンタジー
兄を追い行き倒れた少年が拾われた先は……
大好きだった兄を追って家を出た少年エリッツは国の中心たる街につくや行き倒れてしまう。最後にすがりついた手は兄に似た大きな手のひらだった。その出会いからエリッツは国をゆるがす謀略に巻きこまれていく。
※BL要素を含むファンタジー小説です。苦手な方はご注意ください。
なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!
るっち
ファンタジー
土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる