御者のお仕事。

月芝

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016 集落奪還作戦・魔導兵

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 御者のダイアが賊の頭と殺り合っていた頃。
 倉庫の方でも衝突が勃発していた。
 ついに賊たちが集落の異変に気がついたのである。
 すぐに武力でもって反乱を鎮圧しようとした賊たち。
 しかし人質であった子どもたちはすでに奪還されており、籠城側の方が人数も多く、なおかつ団結しており意気も盛ん。そこには姦計にまんまと踊らされ、騙され消沈していた、あの情けない顔はどこにもない。辺境の民が持つ本来の面構えに戻っている。
 加えて緑のスーラがやっかいであった。
 半透明の体からにょきっと生えた筒状の突起物。そこから石ころを射出しては、倉庫に近づこうとする賊を手当たり次第に狙い撃ってくるではないか!
 当たりどころが悪いと致命傷になりかねない威力。これではうかつに近寄れない。
 よしんば近寄れたとて相手はあのスーラである。剣や槍の一撃がぷよんぽよんとし柔らかな体によりたやすく無効化されてしまい、矢の攻撃もまるで通らない。
 どうにか石礫をかいくぐって接近したところで、すかさず身よりにゅるんと伸びた触手にて張り倒される。

「くそっ、強え。なんなんだよ、あの緑のスーラ。どうしてあんなに戦える? っていうか、なんでスーラが率先して矢面に立ってるんだよ!」
「知るかっ、それよりもこのままだとマズイ。すぐに応援を、いいや、頭を呼んで来い」
「た、たいへんだ! あちこちで仲間が殺されているぞ」
「なっ!」

 住民たちの決起、仲間たちの死、不可解なスーラの活躍。
 次々と起こる出来事に賊たちは激しく狼狽する。
 呼べど叫べどちっとも集まらない味方。おもいのほかに勢力が削られていることを知り愕然となる賊たち。自分たちの旗色がかなり悪いことに気がついて、表情が引きつる。
 辺境で法はあってないようなもの。
 賊の類は基本的に縛り首と相場が決まっている。人流や物流がまともに回復していないのに、悪党をわざわざ遠くの中央に運んで国の裁きに委ねたりはしない。
 そのことをよく知っている賊たちは、みるみる傾いていく形勢を前にして次第におよび腰となっていき、じりじり後ずさり。
 もはや耐えきれずに逃げ出し、戦線が崩壊するのも時間の問題かと思われた。
 だがしかし、そんな不利な状況を打破する者があらわれる。

 騒動のさなかのこと。
 突如として熱気が起こり、轟っと唸ったのは渦巻く炎の風。
 直撃を喰らった緑のスーラがたちまち紅蓮の焔に包まれる。
 火炎攻撃を放ったのは陰気な顔をした痩せぎすの男。ダイアが賊の頭よりも危険だと注意していた者である。
 両の手のひらを緑のスーラへと向けながら陰気な男がぼそぼそ。

「この程度でなにをとり乱している。よもやとは思うが、逃げようなどとは……」

 ふだんはぼーっと焦点の合わない虚ろな双眸が、いまは妖しい光を宿している。
 そんな目でぎょろりとにらまれたとたんに、あわててかぶりを振った賊たち。もしも臆病風に吹かれて戦場より背を向けたらどうなるのかなんて考えるまでもないこと。
 進退窮まった賊たちは、遅まきながらここにきて覚悟を決めた。

  ◇

 疲れを知らぬ鋼の肉体、強力な銃火器類を自在に操り、遮る者すべてを薙ぎ倒す。
 大戦初期から中盤まで戦場にて猛威を振るった機械兵。
 しかし妖精の鱗粉の登場によって、彼らは鉄の案山子と成り果てた。
 これに取って代わるかのごとく登場したのが魔導兵である。
 体内に第二の心臓と呼ばれる器官を移植することで、さもおとぎ話に登場する魔法使いのごとき攻撃を可能とする。
 ただし誰も彼もが魔法使いになれたわけではない。
 移植に耐えられればの話であった。
 器官への適合率はけっして高くはなく、一説には百体の魔導兵を作るために、千以上もの素体が犠牲になったとも。
 そんな魔導兵も有用な人体兵器であるがゆえに、より熾烈となる戦局にともなって無茶な運用を強いられ、使いつぶされ、あるいはのちに台頭する生体兵器「慮骸」との激しい戦いにより、あらかたが死に絶えた。
 現在、数少ない生き残りは国の厳しい管理下におかれ、中央政府に仕えているはず。
 だが何ごとにも漏れはある。
 それがいまここに……。


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