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013 集落奪還作戦・開始
しおりを挟む俺とダヌが集落を訪れてから、奪還作戦を決行するまでに要した時間はわずか二晩のみ。
賊どもは俺たちが薬で寝入っていると思い込んでいるせいか、ときおりちらりと様子を見に来るぐらいで見張りさえも立てていない。おかげで自由に動けるから助かる。
初日のうちに情報収集を終え、次の夜にはもう住人らとの打ち合わせをすませた。
決行は三日目の明け方と定める。
いささか早急だが、あまりモタモタしていたら連中に気取られる。
不思議と悪党ほどこういうことには目敏く、妙に鼻が効くからやっかいだ。
ゆえにこの手の作戦は緻密さよりも電光石火と勢いを重視。いっきにカタをつけるのにかぎる。
◇
作戦決行日。
時刻は夜明け前。
風はない。空気がとても澄んでおり、空を見上げると紫を帯びた濃い青が鮮明である。
この時間特有の美しい瑠璃色の景色。
しかしあの空や流れる雲も妖精の鱗粉に汚染されており、とっくに人類のものではなくなっている。
俺は単独にて集落内にある倉庫へと向かう。子どもたちはここの地下室にまとめて放り込まれている。
見張りは五人にて三交代制。
自分たちの生命線ともいえる人質なのでここだけは警戒を怠ることがない。夜通し篝火を焚き、建物の四方を囲み正面に二人を配置する念の入れよう。
徹夜組と後続が入れ替わり、各々が持ち場についたのを見届けてから俺は動き出す。
ただし最初に狩るのは新たに見張りに立った者たちではなくて、ひと仕事終えたばかりの徹夜組の方。一晩中、外で立っており、疲労と眠気を抱えている。弱っている獲物から狙うのは狩りの基本。
ぼんやりしているものだから注意力散漫。
背後からそっと近づき口元を押さえては、短双剣の一刀でもって仕留めるのは造作もない。
肩甲骨のすぐ下、肋骨の根元から骨に添うような形にて刃を突き入れ、心臓の上部にある大動脈を半分ほど切断する。
素早く刃を引き抜けばたちまち筋肉が閉じてぴたりと裂け目を塞ぎ、内部では血があふれる。瞬時に血の気が失せて意識が遠のき、まるで眠るかのようにして絶命させる殺しの技。
喉笛をかっ切るほうがてっとり早いが、それだと大量の血が出る。
出来るだけ連中に気づかれるのを遅らせたいがために、俺はより慎重な方法を選んだ。
手早く五人を仕留めた俺は死体をあらかじめ目星をつけておいた空き家に隠し、すぐさま倉庫へとって返す。
五人殺ったので残り三十七。
奪還作戦の出だしとしてはまずますであろう。
◇
倉庫近くで俺は待ち合わせをしていた住人の女性三人組と合流。
彼女たちは交代した見張りに朝食を届けるよう、賊の頭より命じられている者たち。
具材がごろごろ、器に入っているうまそうな煮込み料理は見張りたちの食事。
閉じ込められている子どもたちには、ひもじい思いをさせておいて自分たちばかりがたらふく喰っているというから業腹な話である。
料理に痺れ薬をたんまり放り込む。
この薬は俺が賊の荷からくすねた品。初日に俺とダヌが一服盛られたもの。よもやそいつを自分たちが飲まされるとは夢にも思うまいよ。
渡された食事をなんら疑うことなくバクバク食べる見張りたち。
その姿を物陰より見届けてから、俺はこの場を女たちにまかせて次は村長のところへと向かう。
しかし包丁片手にうなづく女たちのなんと頼もしいことか。
さすがは辺境の女。彼女たちは解体作業に慣れているので、安心して後処理をまかせられる。
伏せっている村長に子どもたちを無事に解放したことを伝えると、今度は大人たちが手筈通りに動く。ただし一斉には動かない。
数名ずつが日常の行動を装いつつ、倉庫へと向かう。
怪我をして動けない者は手を貸しすみやかに運ぶ。
おかげですっかり夜が明ける頃には、ほぼすべての集落の住人らの集結が完了していた。
どうしても連中の目を誤魔化して抜け出せない者には、あらかじめ最寄りの住居の地下室に逃げ込むようにと申し伝えてある。
ここで相棒のメロウと行商人のダヌも合流。
かくして人質という枷をはずされた住人たち。
「「「「自分たちの集落を取り戻すんだ!」」」」
と辺境魂もあらわ。鼻息が荒いものの、ひとまずはこらえてもらい予定通り倉庫に籠城してもらう。
数を頼みに一斉に賊へと襲いかかったとしても、それでもたぶん奪還作戦は成功するであろうが、きっと多数の死傷者が出る。それはダヌの望むところではない。
賊の残りは三十二。
連中が集落の異変に気がつく前に、可能なかぎり数を減らす。
出来れば賊の頭とあの陰気な男を先に仕留めておきたいところだが……。
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