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012 集落奪還作戦・序
しおりを挟む集落の子どもたちが監禁されている場所が判明したところでいったん探索を中断。
俺は雇い主であるダヌのところに戻り、報告がてら今後のことについて相談をする。
俺としてはこのまま寝たふりを続けて、例の女とやらがのこのこ姿を見せたところで、偽防人ともどもまとめて処分したいところ。そうすればあと腐れがなくてすむ。
もしくはダヌの身の安全を第一と考え、何もかも放り出してさっさと死地から逃げ出す。
連中が油断しきっているいまならば、俺と相棒のチカラがあれば余裕だろう。
だがダヌはどちらの案にも首を縦に振らない。
まぁ、予想通りの反応である。
この若き行商人はそういう男だ。
ならば雇い主の意向に添いつつ、こちらの望みも可能なかぎり叶える策を考えるしかない。
「すみやかなる人流物流を目指し、障害となるものあらばただちに排除すべし。それが御者のお仕事。今回のこともいちおうはその範疇に入っている、か。となれば今夜中にもう少し下調べをすませておかないと」
俺は調査を再開すべく腰をあげる。
集落の地形および、偽防人たちの人数や配置、村長や住人らの現状などなど。
ことを起こす前に押さえておきたい情報は多岐に渡る。それらを踏まえた上で集落奪還作戦を練る必要がある。
物事の成否は準備段階で九割がた決まるといっても過言ではない。
それを軽んじて英雄的行為に走り死んでいったヤツを、俺は戦場で嫌というほど目にしてきた。
ダヌが「すみません。ダイアさんにばかり無理をさせてしまって」とあやまってくるも、それにはひらひら手を振り「気にするな。これも御者の仕事のうちだ。ちょこっとギリギリだがな」と軽口で応じ、俺はふたたび夜の世界へ溶け込む。
◇
防人に扮している賊の総数は四十二人。
うち特に注意すべきは賊の頭の男の他は三人ばかり。
これだけの規模の賊を率いているだけあって頭の男は大柄にて相当武勇に長けており、巨大な戦斧を軽々と振り回す膂力の持ち主。
他の三名のうち、ふたりは剣を扱う。
ともに腕前はそこそこ。ただし足運びや体重移動がいまいち。基本がまるでなっちゃいない。あれは正規の訓練を受けた者ではなくて、喧嘩の延長で武器の使い方を覚えたクチだろう。一対一ならばまず俺が負ける要素はない。
問題は残りのひとり。
陰気な面をした痩せぎすの男。
不気味な静けさを持ち、目がどこか虚ろ。そのくせ妙な圧を感じる。それもとても厭な類の……。
おそらくはまともな人間じゃない。
とどのつまりは俺と同類。戦場帰りにて体をいじくられた者。
危険度でいえば頭の男よりも上だと推察する。なのに唯々諾々と従っているところをみると、戦地での過酷な体験にて心が壊れてしまい、考えることを放棄しているのかも。
集落側の状況は、村長と主だった者たちは軟禁状態にある。
初日にダヌと会わなかったのは、村長が本当に体調が悪かったから。ただし病ではなくて肩口を深々と斬られているせいであった。
でもって集落の主戦力となる男らの多くが同様に怪我を負って伏せっている。
どうやら賊どもの姦計に遅まきながら気がついて抵抗したときにバッサリやられてしまったらしい。
だというのに誰も殺してはいない。
見せしめにするでなし、傷の治療を施し養生するのを許している。
とはいえ情けなんぞではない。あえてこの状態で生かすことで集落のみんなを縛る枷としたのだ。
子どもたちを人質にとられて、なおかつ怪我人も多数抱えていては、いかに勇猛な辺境の民とて身動きもままならぬ。
肉体ばかりか精神をも絡めとる厭らしいやり口。狡猾である。
しかし目先の欲に忠実で、粗野で乱暴な賊らしくない方法だ。
これもまた例のあの女とやらの入れ知恵なのかもしれない。
◇
集落を奪還するためには住民たちの協力が不可欠。
俺はダヌの警護を相棒にまかせて、せっせと方々を動き回っては渡りをつけて、着々と下準備を整えていく。
その際、ダヌの名前が効力を発揮する。
いきなりあらわれた見知らぬ御者の男。賊が扮した防人にまんまと騙された直後ということもあって警戒心もあらわとなる住人たち。
しかし俺の口からダヌの名前が出たとたんに態度を軟化させて協力的になる。はじめは奪還作戦に消極的であった者すらもがやる気になる。
ここにも彼が築いていた信頼関係がしっかりと根付いている。
俺は確信した。それがあるかぎり今度の作戦はきっと成功するだろう。
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