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011 自作自演
しおりを挟む日が暮れるまで待たされるも結局、村長との面会は流れた。
なんでも体調があまり優れぬそうだ。
で、やたらと豪勢な食事と酒がお詫びとして提供される。
ダヌが「商売についてはどうしたらいいでしょうか、いつも通りに進めてよろしいのでしょうか?」とおうかがいを立てたら、人を介して「それでいい」との素っ気ない返事。
なお出された食事と酒はせっかくなので残らず平らげた。
ただしうちの相棒が、だがな。
調べてみたら案の定である。
睡眠薬と痺れ薬がたんまり仕込まれていた。
どうしてわかったのかというと俺の拡張能力による。
舌に意識を集中して味覚系の感度をあげてからぺろりと軽くひと舐めすれば、この程度の判別は造作もない。
で、連中が黒ということが確定したところで、俺はダヌの護衛を相棒のメロウにまかせて、ひとりこっそりあてがわれた住居を抜け出す。
◇
夜陰の濃いところを選んでは身を潜ませつつ移動。
まず手近な住居のひとつを調べてみることにする。
誰もいないことを確認してから、わずかに戸を開けてカラダを奥へと滑り込ませる。
ざっと室内を見渡し近寄ったのは食器棚。
皿と茶碗の種類を確かめる。そのことからここの家族構成を推察。
「小綺麗なのは来客用として、こっちの素朴な造りの椀は日常使いのものだろう。大きさからして二つは大人のもの。で、となりの小さいのが子どものか」
普通に考えれば両親とその子ども、ひと家族分。
なのに家の中はも抜けのカラ。床の埃の積もり具合からして、それほどの時間、この状態が続いているわけじゃない。せいぜい二日か三日といったところ。
つまりほんの数日前に、この集落、もしくはこの家族に何らかの異変が起こったということ。
おそらくだが、その異変とやらにあの防人たちが関わっている。
留守宅をあとにした俺は他にも数軒の様子をうかがってみるも、大人はいるがやはり子どもの姿はどこにもない。
おぼろげながら全貌を掴みつつ、俺はより強固な確証を求めて探索を続ける。
まるで火が消えたような集落内にあって、やたらと煌々と明かりが灯り賑やかな一角を見つける。
防人たちの駐屯している区画。
気配を消して物陰伝いに可能な限り近づいたところで、俺は連中の言動に注視する。
すると聞こえてきたのは……。
◇
「しかし頭、まんまとうまくいきましたね。あの女の言う通りにしたら、ここの連中コロリと騙されてやんの」
「あぁ、おかげでこんなにあっさりと手強い集落を丸ごと手に入れられるだなんて」
「慮骸さまさまだな」
「なんでしたら、この調子で他にも二つ三つ落として、まとめて支配下に置いてはどうですかい?」
「あっはっはっ、そいつはいいや。そしたら頭は王さまで、おれたちゃそろってお大尽よ」
「バカ野郎、ちょっとうまくいったぐらいであんまり調子に乗ってんじゃねえ。それから何度言えば覚えやがるんだ。オレのことは頭ではなくて隊長と呼べ!」
「「「「へーい」」」」
「ったく、で、例の客人たちはどうしている?」
「あの御者と行商人ですかい。たらふく薬をくれてやりましたから、今頃高いびきですよ。まず丸三日はあのままのはずです」
「そうか、いちおうは約束だからな。あの行商人は女に引き渡す。御者の方はそれまでの人質だな」
「それはそうとあの妙な騎獣の方はどうしやす?」
「あの緑のスーラか。どうやって言うことを聞かせているのか、興味はあるが……。さて、どうしたものやら」
◇
あらかた欲しい情報を得た俺はその場をあとにする。
考えたものである。
辺境民が潜在的に抱いている慮骸への恐怖心を利用しての自作自演。
賊たちは防人に扮することで、まんまと警戒厳重な集落内へと入り込むことに成功してからは、頃合いを見計らって子どもたちを人質にとり、これを盾にして占拠し支配下に置いた。
辺境民は仲間意識が異様に強い。
そのことを逆手にとっての卑劣な手段。
「しかし連中が口にしていた『あの女』ってのが気になるな。どうやらバカどもに余計な入れ知恵をした張本人みたいだが、ダヌの身柄引き渡しを望んでいることからして、例の商会に雇われた裏稼業の人間だろうか」
野犬どもをけしかけてきたり、橋に細工をして邪魔をしたり。
旅の序盤こそはいろいろちょっかいをかけてきていたのに、途中からぱったり静かになったと思ったら、裏でこんな大がかりなことをたくらんでいたとは。
「薄々やっかいな相手だとは思っていたが、ダヌの身柄を抑えるためにまさかここまでするとはな」
呆れと感心が入り交じる複雑な感情をまだ見ぬ敵に抱きつつ、俺は続けて子どもたちが監禁されているであろう場所を探す。
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