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055 メリーバッドエンド?
しおりを挟むタケさんとミヨ婆は、あいかわらずふたりの世界に浸っているので、そっとしておくとして……
ちなみに金庫にあったのは日向子だけであった。
日向子によれば「邪魔だから中身は棚ごと引っこ抜いて、全部外に放り出した」とのこと。
いくらそうしないと入れなかったとはいえ、ロクに確認することもなく捨ててしまうとは、なんてもったいないことを……
僕がジト目を向ければ、当の日向子はキャンディーをウマそうにレロレロしゃぶっている。
それにしても、いまさらだけどカメレオン味って、どんな味?
ちょっと気になる。
すると僕の視線に気がついた日向子が、唾液に濡れた舐めかけのキャンディーをこっちに差し出し「ん、あんたも舐めるかい?」
あんまりにもあっけらかんとした物言いにて、つい受け取りそうになった僕は慌てて手を引っ込めた。
なんたる破廉恥!
男女間でアメちゃんの回し舐め、粘液接触とかありえん。
カッと頬が火照らずにはいられない僕に、日向子が三白眼をにゅうと細めてはニヤニヤ。
おちょくられた! 男心を弄ばれたとわかって、僕はぐぬぬぬ。
そんな風にして、僕たちがやくたいもないひと時を過ごしていると――
パタパタパタパタパタパタ……
夕焼け空の彼方より聞こえてきたのは、ローター音である。
ヘリコプターのものだ。一機だけじゃなくて、複数が編隊を組んでこちらへと向かってきている。
どうやらアレがタケさんの言っていた『組織の応援』なのだろう。
「ようやくおでましか……、ったく遅せーよ。今頃ノコノコ来やがって。重役出勤にもほどがある」
僕は悪態をつきペッと唾を吐くも、気を取り直して「おーい、おーい」空へと向けて手を振る。
日向子やタケさんたちも、近づいてくるヘリコプターに手を振っていた。
言いたい文句は山ほどあるけれど、それはそれ、これはこれである。
こちとらとっくに精も根も尽きておりヘロヘロなのだ。さっさと救助して欲しい。
やれやれ、これで今夜はちゃんとしたベッドで寝られそうである。
だが安堵した次の瞬間のことであった。
突如として発生したのは――黒き獄炎。
メラメラと燃え盛る中にいたのは、抱き合っているタケさんとミヨ婆であった。
驚いた僕はすぐに駆け寄ろうとするも、もの凄い熱にて近寄れない。
水はないので、土で消そうとするも、黒い炎にはまるで通じず。
そうしている間にも、ふたりが燃えていく。
「タケさーん! ミヨ婆ーっ!」
叫ぶばかりの無力な僕に、タケさんたちが小さく首を振る。
彼らが最後に見せたのは笑顔であった。
やがてふたりの姿が完全に炎に呑まれてしまい、僕は呆然自失となる。
でも、そんな僕をすぐに現実へと引き戻したのは、すぐそばから聞こえた一発の銃声であった。
やったのは日向子だ。
ハッと我に返った僕が目にしたのは、日向子が異形へと拳銃を向けているところ。
銃口の先に立っていたのは、黒い炎をドレスのように身にまとっている女――のような形をした異形。
目、口、鼻、耳どころか顔すらもない。
すべてが黒い炎で構成された人型のバケモノ。
タケさんたちを無惨にも焼き殺したのはコイツだ。
僕がその姿を目の当たりにし、無意識の内に喉の奥から絞り出すようにして吐いたのは「プレギエーラ・アル・サレス」という名前であった。
閑古鳥の館で会った黒衣の貴婦人、女吸血鬼の面影はまるでない。
気配もぜんぜん違う。
でも、立ち居振る舞いや雰囲気が彼女のソレであった。
サレスはめくりさまとの戦いに勝利し、めくりさまを喰らうことで自身の強化を図るも失敗、手足の生えた成りかけの醜怪な巨大おたまじゃくしの姿となり暴走する。
だが、散々に暴れた挙句に、祝い山の噴火にて飛んできた神籬石の下敷きとなった。
そのあとの大崩壊に巻き込まれ、てっきりくたばったものとばかりおもっていたのに……
よもやの第三形態・黒炎魔人となって甦ってきやがった!
「――って! ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなーっ! よくも、よくも、よくもタケさんたちをっ!」
激昂、怒りで頭の中がいっぱいになった。
あまりの理不尽な展開に、僕はブチ切れた。
日向子に続き、僕も散弾銃を構えるなりバンバンと撃ちまくる。
やっとだ。やっとだぞ。あのふたりはやっと幸せになれるはずだったのに。
それを……、なんでだよ神さま?
ねえ、どうしてそこまでして、あのふたりを虐めるんだよ?
僕はべそをかきながら、撃って撃って撃ちまくる。
一心不乱というか必死であった。かつてない装填速度にて、次々と攻撃を放っては、黒炎魔人を蜂の巣にする。
いちおうは効いているのか、散弾を喰らうたびに奴の体がのけ反り後退する。
けど、それだけだ。倒れはしない。
(クソっ、やはり白銀の弾丸でないとダメなのか)
だからとて手を止めるわけにはいかない。
そうこうしているうちに、ついに手持ちの弾薬が尽きてしまった。
こちらの攻勢が止んだ途端に、黒炎魔人が動き出す。
ゆっくりと左腕を持ち上げ、指差したのは――日向子!
黒炎魔人の指先にて小さな火が灯り、やがてピンポン玉ぐらいの炎球があらわれた。
ゲームとかではお馴染みのファイヤーボールみたいなものであろうか。
おそらくはタケさんたちを焼いたのもこの攻撃だ。
僕は考えるよりも先に動いていた。
どうしてなのかは自分でもよくわからない。
懸命に手をのばし、駆け寄ったところで日向子を突き飛ばす。
それとほぼ同時であった。
背中から下腹部へとかけて、とびきり熱い何かが駆け抜ける。
身の内から焼かれるような感覚とともに、肉が焼けるような臭いがする。
不思議と痛みは感じない。
ただ意識だけがスーッと遠くなっていく。魂が肉体から乖離していく。
足に力が入らない。傾いだ体がどうと倒れた。
地面の冷たさがちょっと心地いい。
涙で滲みぼやける視界、どうにかして奴をねめつければ、黒炎魔人がくるくる踊っている?
何かとおもえば、上空から銃撃を受けているようだ。
ヘリコプターたちからの一斉掃射であった。
散弾銃とは比べものにならない高火力に、さしもの黒炎魔人もタジタジ。
機体から垂れたロープにて、次々と降下してくる兵士たちの姿もあった。
「ざまぁ」
と、つぶやいたところで僕の世界はふつりと途切れ、暗転した。
―― 村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?(完) ――
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