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053 ポツンと大金庫
しおりを挟む明かりは薄暗い常夜灯のみ。
狭い梵鐘の中に、若僧と老爺と老婆が鮨詰め状態。
ずっと立っているのがシンドイ……
けどあまり息苦しくないのは、空調がきいているからか。温度も一定に保たれているし。
衝撃の類も一切伝わってこず、外部の音も聞こえない。
見てくれは頼りないけれども、どうやらちゃんとしたシェルターであったようだ。
……
…………
………………
それにしても本当に静かである。
でもあんまりにも静か過ぎて、薄い壁のアパート暮らしに慣れている僕なんかはかえって落ち着かない。
閉所恐怖症の人ならば発狂しそうな環境だ。
時間の感覚はとっくに失せている。
不思議と飢えや渇きを感じない。それどころか尿意や便意ももよおさない。
ばかりか、体中がバッキバキだったのに痛みも失せている。僕なんかとは比べものにならないほど重傷なタケさんも、特に我慢している風でもない。出血も完全に止まっているとはこれいかに?
もしかしたら梵鐘型シェルターには、生命維持のようなヒーリング効果まで備わっているのかもしれない。
ロストテクノロジーの恩恵だとしたら凄い技術だ。
ありがたい……けど、まったくもって妙ちきりんな空間である。
ミヨ婆はずっと眠ったままだ。ときおりムニャムニャ聞き取れない寝言をいっている。
そんな彼女をタケさんが隻腕で抱きしめては支えている。
僕はそれを横目に、自分のスマートフォンを取り出した。ここに籠ってからどれくらい時間が経過したのかを、確かめようとしたのだけれども。
「うわぁ、見事に画面がバッキバキだよ。何も表示されないし、電源そのものが入っていないのか? 充電切れの可能性も考えられるけど、こりゃあたぶん壊れてるっぽいね」
ズボンのうしろポケットに無造作に突っ込んでは、アクション映画ばりに飛んだり跳ねたり、転んだり転がされたりと忙しなく動き回っていたから、故障したとて無理もない。
(――ちくそう、買い換えてからまだ一年ちょっとしか経ってないのに)
念のために補償サービスには入っているけれど、う~ん、今回の場合はどうだろう?
もしも修理代が高いようだったら、買い換えることも検討すべきか。
というか、村の縁者は全滅であろうから、もうプライベートで電話がかかってくることもなさそうだし、いっそのこと断捨離してしまおうか。維持費がけっこうバカにならないんだよねえ、スマホって。
なんぞと考えているうちに、ついウトウト。
僕は立ったまま舟を漕ぐ。
◇
変化は唐突に……
薄闇の世界に青白い線が走ったとおもったら、そこから光が差し込んできた。
うたた寝していた僕は、コレをまともに顔へ受けた。
「な、何?」
あまりの眩しさに驚き、僕は目を細める。
かとおもったら、パッカーン!
梵鐘が縦に割れて、僕たちはようやく解放された。
しばらくして目が明るさに慣れてきたところで、飛び込んできた光景に僕たちは声も出ない。
見渡すかぎりの地面が、すべて茶色に塗り潰されている。
あれほど溢れていた緑が一切失せている。
崩壊により連鎖的に起きた山津波、祝い山からの溶岩流などにより雪崩れ込んだ、大量の土砂により、村があった山間部が完全に埋め尽くされていた。
その祝い山だが原型を留めておらず、空気の抜けたゴムボールのように萎れ、噴火は止まっている。
見上げると噴煙も消えており、空は茜色に染まっていた。
朝陽……ではない。
これは夕焼け! いまは黄昏刻だ。
どうやらあれから丸一日経っているらしい。
一夜にして何もかも無くなった。
すべてが地中深くへと埋没してしまった。
僕はカンラカラカラ、乾いた笑いにて。
だってここまでされたら、さすがにもう笑うしかないだろう?
「ハハハハ、いや~まいったまいった。本当に何もかも無くなっちゃったよ。
……って、アレ? 何か落ちてる」
黒光りしている四角い物体、箱?
目を凝らしてよくよく見てみれば、それは金庫であった。
昔の銀行とかで使われていたような大きなシロモノ。
僕はそれに見覚えがあった。
「あれってマモルの家の蔵にあったやつじゃないか」
郡家は村一番の長者にて、立派な蔵持ち。
蔵の中には焼き物やら掛け軸に巻物などなど、いろんなお宝がわんさか保管されてあったけれども、その奥にて主のごとく鎮座していたのが、大人の身長ほどもある金庫である。
かつてどこぞの銀行の支店で使われていたのを、譲り受けたとかなんとか……
そんな大金庫があんなのところにポツンと転がっている。
騒ぎのどさくさに、たまさかここまで運ばれてきたのか。
まったくありえないとは言えないけど。
何せ周囲には大きな岩がそこかしこに、ゴロゴロしているような状況なもので。
でもラッキー!
お宝が入っていたらうれしいな。
なぁに贅沢は言わない。せめて小判の数枚、もしくは宝石でも可。
僕はワクワク。
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