村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

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051 投げ銭システム

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 幸いなことに探し物はすぐに見つかった。
 お目当ての賽銭箱は、瓦礫に半ば埋もれる形で横倒しになっていた。
 木製ながらがっちりした造り、軽トラに撥ねられた程度ではビクともしていない。
 でも、そのせいで簡単に中身が取り出せそうにない!

「さっさと引きずり出そう」
「……いや、それだと時間がかかり過ぎる。アキ坊、こいつを使え」

 タケさんがズイと押しつけてきたのは散弾銃であった。
 これで箱をぶち破ってしまえとの思し召し。
 なんという大胆は発想! かつてこれほど豪快な賽銭泥棒がいたであろうか? もしかしたら史上初の愚挙かもしれない。
 ――という冗談はさておき。
 僕はうなづき銃を受け取る。すぐに銃口を賽銭箱へと向けて、ズドンと発射した。
 よし! いい具合に穴が開いたぞ。
 さぁ、小銭たちよ、じゃらじゃらフィーバーするが良い。
 と、ワクワクしながら待つも、ちっとも出てきやしない。
 はて?
 怪訝そうに首を傾げるタケさんであったが、僕は遅まきながらあることに気がついてしまい「あっ」

 すっかり失念していたのだが、うちの村は陸の孤島のようなド田舎なのである。
 最近でこそ、アルカ・ファミリア財団絡みで新しい人たちが出入りしていたが、それ以外だと外部の人間はほとんど寄り付かない。来ても、頭がちょっとおかしいコアなUFOフリークぐらい。
 財団および吸血鬼の関係者らは、ずっと寺を遠巻きにしていた。
 UFOマニアどもは、ぼろ寺に伝わるグッズには興味を示すものの、信仰心などは皆無にて、はなから敬虔さが足りない。
 よってまともに参拝するのは村の連中ぐらいなのだけれども、あのしみったれどもは基本的に拝みこそすれ、いちいち賽銭をしたりはしないのだ。
 つまり寺の投げ銭システムは、ろくすっぽ機能していなかったということ!

 そんな寺の賽銭箱である。
 百円どころか、五十円……いや、下手をすると十円すら入っているかどうかも怪しい。
 僕はがばっと地面に這いつくばるなり、開けた穴の奥を覗き込む。
 薄暗い箱の中は埃っぽくてスカスカであった。やっぱりだ。数えるほどしか硬貨がない。まぎれ込んでいる落ち葉の方が多いぐらいじゃないか。
 祈りながら僕は手を突っ込んでは、ガサゴソガサゴソ。
 指先に硬い物が触れたので、さっそく摘まんでサルベージするも、出てきたのはビール瓶の王冠であった。

「誰だ、こんなものを入れた奴は! 罰当たり者めっ」

 己の所業を棚にあげて僕は悪態をつき、再び穴に手を突っ込んだ。
 するとまたもや指先が硬い物に当たったもので、すぐに取り出すも……

「今度はパチスロのコインかよ! 入れた奴、死ねっ」

 たぶん、とっくにくたばっているだろうけど、とりあえず僕は文句を言っておく。
 そして三度目の正直とばかりに、いま一度手を突っ込んだところ、掴んだのはこれまでとは違う感触であった。

(あちゃあ、またハズレかぁ)

 でも、とりあえず回収しておく。
 すると出てきたのはポチ袋であった。
 中には小さなお手紙が入っており、たどたどしい文字でこう書かれてあった。

『はやくお婆ちゃんが元気になりますように』

 小さな孫が入院中の祖母のために、神さまにお願いしたのだろう。
 殺伐とした雰囲気の中に投入された一服の清涼剤にて、僕とタケさんはほっこり。
 でも、いまの僕たちには必要のないものにて、手紙をそっとポチ袋に戻そうとしたところで、他にも入っている物があることに気がついた。
 袋を引っくり返して振ってみたら、コロンと出てきたのは銀色に輝く百円硬貨であった。

「ひゃっほう、やったぜ!」

 僕はようやく手に入れた百円玉を握りしめ、邪魔な手紙とポチ袋をポイっと捨てた。

「これで緊急シェルターとやらが使える。急ごう、タケさん」
「……お、おう。いまさらだがアキ坊、おまえってけっこう……」
「ん? けっこう、なに?」
「……いや、なんでもない」

 ちょっと顔を引きつらせているタケさん。
 言いかけたことが気になったものの、いまはそれどころではない。
 事態は一刻を争う。
 僕たちは、すぐに鐘楼へと向かった。


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