村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

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050 梵鐘

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 祝い山の噴火とともに、地中深くからあらわれたナゾの飛行物体は、何処かへと飛び去った。
 おもわせぶりな登場をしたくせに、とんだ肩透かし。
 でもって、事態はなんら好転せず。
 僕たちの窮地はなおも継続中である。

「タケさん、とりあえずどこか物陰に移動しない? 噴石っていうんだっけか、アレに当たったら一発でお陀仏っぽいし」
「……そうだなアキ坊。しかし本堂はごらんのありさまだし、他に身を守れそうなところといえば――っ!? ん? なんだ、いま地面がゴトリと動いたような……」

 これまでの上下の震動ではない。
 横の動き、だが揺れとは明らかに違う。
 踏んづけていたシーツをいきなりグイと引っ張られたかのような……、ごそっと足下がズレるというか、一方向に流れるような動きにて、僕もギョッ!
 すると何事かに気がついたのか、タケさんがハッと顔を向けたのは、怒れる祝い山ではなくて、麓の村やその周辺の山間部であった。
 祝い山だけじゃなかった。
 村を囲む山々のすべてが震えていた。
 それも尋常じゃないほどのガクブルぶり、それこそ天変地異の前触れのような……

「……くっ、なるほどそういうことだったのか、徹底していやがる」

 独りごちた老猟師が、フッと力のない笑み。

「なにが? ねえ、なにが徹底しているの?」

 聞きたくないけど、聞かずにはいられない。
 僕は震える声で訊ねた。
 するとタケさんはこう答えた。

「……例の自爆シークエンスとやらだ。どうやら地下の秘密基地を吹き飛ばすだけではあきたらずに、この周辺一帯をも埋め立て更地に変えて、完全に証拠を隠滅するつもりのようだな」

 さっき感じた違和感の正体は、地滑り。
 ほどなくして祝い山方面から溶岩流や火砕流が押し寄せてくるだろう。それに付随して周囲にて大規模な山津波が多発しては、一切合切を呑み込む。
 そこまでが自爆シークエンスに組み込まれている。

 まぁ、ようは村が完全に消滅するということである。
 でもって、この山間部一帯がぶっ壊れるので、どこにも逃げようがないということ。
 それこそ翼でもなければ助からないだろう。いや、たとえ翼があったとて、噴煙と火の雨が降っている状況下では、まともに飛ぶこともかなうまい。叩き落とされるのがオチだ。

「ははは……、ダメだこりゃ。マジで詰んだ。でも我ながらよくやったと思う。うんうん、僕は自分で自分を褒めてやりたい」
「……あぁ、アキ坊はよくやった。なかなかの働きだった。しかし残念だ。もし生き残れたら、儂は組織にアキ坊を推薦するつもりだったんだがなぁ」
「あーいや、それはちょっと……遠慮しときたい、かも」

 なんぞと僕とタケさんが話していた時のことである。
 老住職の姿が消えていた。
 いったいどこへ行ったのかと、キョロキョロ探したら、いた!
 境内の隅にある鐘楼のところ。
 そういえば、そろそろ朝の鐘を鳴らす時刻だ。
 すっかり耄碌しているというのに、長年の習慣で鐘をつこうとしているのか。
 健気だ……グスッ、なんだか無性に泣けてくる。
 僕は老住職を驚かさないようにゆっくり近づき「もう、いいんだよ。鐘を鳴らさなくても。ほら、危ないからみんなのところに戻ろうね」と優しく声をかけた。
 そうしたらこっちを向いた老住職が、梵鐘を指差し言った。

「¥¥>$$♪♪※凹◎♪&Ω☆(*)☆――セーフゾーン、緊急シェルター、ご利用するならお早めに」

 この言葉に僕は「へっ?」
 気のせいか、いまシェルターと聞こえたような……
 念のためにもう一度確認したら、老住職は同じ台詞を繰り返した。
 シェルターとは避難所のことである。
 つまり、あそこに逃げ込めば僕たちは助かる!
 あぁ、なんというご都合主義な展開、普段の僕ならば「なんだこれ、バカにしているのか?」と憤慨しているところだが、いまは歓喜に震えている。
 なんならお盆片手に神さまの前で、感謝の裸踊りだって舞ってやろうとも。

 僕はすぐにタケさんたちを呼び寄せ「助かるかもしれない」と梵鐘型緊急シェルターの存在について報せた。
 が、問題が生じる。
 鐘の内側にあったコイン投入口に『利用料金、一回百円』と書いてある。

「なっ、緊急時に金をとんのかよ!」

 とはいえ価格は良心設定にて。
 だからすぐに百円玉を投入しようとするも……

「あーっ、しまった! 小銭入れを持ってきてない。クソっ、じゃらじゃら音がしたらヤバいと思って置いてきた、失敗した」

 タケさんの方を見れば、老狩人も首を横に振る。
 ミヨ婆は……期待するだけ無駄だ。でもって老住職は寝間着姿にて。
 ここにきてよもやのトラップに、僕はオーマイガッ!

「――って、ちょっと待てよ。……そうだ、そうだよ! アレだ、賽銭箱があるじゃないか! 軽トラで撥ね飛ばしちゃったけど。漁れば百円玉の一枚や二枚、きっとあるはず」

 僕とタケさんは顔を見合わせると、ミヨ婆と住職をその場に残し、その辺りに転がっているであろう賽銭箱のもとへと向かった。


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