村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

文字の大きさ
上 下
49 / 55

049 祝い山

しおりを挟む
 
 天上人なるやんごとなき存在が、彼方よりうつろ舟にて飛来し、この地に降臨された。
 なんぞという与太話……もとい伝説が残るのが、祝い山。
 ぱっと見にはどこにでもある普通の山である。
 眺望が素晴らしいわけでもなく、頂上におっきな神籬石があることぐらいしか、特徴がないのが特徴である。ちゃんとした登山道も整備されておらず、珍しい植物が生えているわけでも、美味しいキノコが採れるでもなし。
 べつに登る理由や用事もないので、地元の人間もめったに立ち入らない場所。
 僕にとっては、たまに夜中にもよおしてトイレに行った時とかに、ふと窓の外に山が見えたら、とりあえず拝んでおくか……という程度の存在であった。

 そんな祝い山の周辺では、昔から発光するナゾの飛行物体の目撃情報があって、知る人ぞ知るUFOのホットスポット。
 もっとも知る人ぞ知るというのは、ほとんど知られていないのと同義だけれども。
 かくいう僕は、一度もその発光物とやらを見たことがない。
 あー、そういえば……たしかガキの頃に、同級生のハタの奴が見たとか言って騒いだことがあったっけか。それとても証拠となる写真もなく、あくまで証言だけにて。ほんの一瞬だけ仲間内で話題になったものの、すぐに下火となり忘れ去られたものである。

 ……だからであろうか。
 いつの頃からか、誰とはなしに、祝い山の地下にはUFOの秘密基地があるなんぞという都市伝説――いや、さすがにそれは図々し過ぎるか。せいぜい村伝説といったところだろう――があった。
 村の電波状況が悪いのもソレが原因だと、一部の村民の間ではまことしやかに囁かれている。

 えっ、僕?
 もちろん1ミクロンも信じちゃいなかった。
 一般常識が備わったまともな思考の持ち主ならば、誰だってこんな話を真に受けたりはしないだろう。
 まだツチノコの存在の方が、よほど信じられるというもの。
 だが、その考えを僕はいよいよ改めねばならぬようだ。
 なぜなら、いま目の前に発光するナゾの飛行物体が浮かんでいるから……

 ドカンと噴火した祝い山。
 もうもうと立ち昇る大量の煙がたちまち空を覆い尽くす。
 遠目にも鮮やかな紅き流れ、マグマが滔々と溢れ出ては山肌を伝い濡らしていく。
 轟々と焔立つ山頂、その近くでは青い稲光も発生しており、まるで赤と青の二頭の龍がじゃれ合い戯れているかのよう。
 火口より天へとのびた幾筋もの緋色の線が、空に弧を描きながら方々へと散っていく。その正体は周辺へと降り注ぐ火球だ。灼熱を帯びて真っ赤になっている噴石たち。まるで花火のようにキレイだけれども、触れたものすべてを焼き尽くす地獄の炎の使者であった。
 それらに紛れて山から吐き出されたのが、発光するナゾの飛行物体である。
 ギュンと直上したとおもったら、びゅんびゅん、ジグザクに頂上近くを飛行し始めた。その挙動はあらゆる物理法則を無視したもの。
 かとおもえば、いきなり寺の方へと降りてきて、境内上空にピタっと停まる。

 僕たちはいま、そいつを見上げているという次第。
 ひょっとしてこのままアブダクションされちゃうのかしらん?
 ちなみにアブダクションというのは、UFOにお持ち帰りされて、お腹を掻っ捌かれて、とても口にはできないような、あ~んなことやそんなことをされちゃうこと。
 外国にはじつに五十回以上も拉致された人もいるんだとか。
 スゲーな。というか、そんだけ弄ぶんだったら、ちゃんと責任とって持って帰れよ、そして最後まできちんと面倒をみろ、飼育放棄とか最低! と僕は思う。

 発光するナゾの飛行物体を前にして、タケさんはくわえていたタバコをぽとりと落とした。無理もない。タケさんは宇宙人やUFOは否定派だったから。
 僕は『遅れてきたヒロインは宇宙人!? の巻』とか想像して、ちょっとドキドキ。
 でも、期待はすぐに裏切られた。
 とくに何も起こらず。
 しばらくして、さも興味を失ったとばかりに、プイっとそっぽを向いた発光するナゾの飛行物体はビューンと飛び去って、どこぞに行ってしまった。

 ぽつんと残された僕たちは「「ええーっ!」」
 これはちょっと反応に困る。僕のドキドキを返せ。
 あと、ついでに乗せてってくれたらよかったのに……、けちんぼ!


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

海藤日本の怖い話。

海藤日本
ホラー
これは、私が実際に体験した話しと、知人から聞いた怖い話である。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...