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049 祝い山
しおりを挟む天上人なるやんごとなき存在が、彼方よりうつろ舟にて飛来し、この地に降臨された。
なんぞという与太話……もとい伝説が残るのが、祝い山。
ぱっと見にはどこにでもある普通の山である。
眺望が素晴らしいわけでもなく、頂上におっきな神籬石があることぐらいしか、特徴がないのが特徴である。ちゃんとした登山道も整備されておらず、珍しい植物が生えているわけでも、美味しいキノコが採れるでもなし。
べつに登る理由や用事もないので、地元の人間もめったに立ち入らない場所。
僕にとっては、たまに夜中にもよおしてトイレに行った時とかに、ふと窓の外に山が見えたら、とりあえず拝んでおくか……という程度の存在であった。
そんな祝い山の周辺では、昔から発光するナゾの飛行物体の目撃情報があって、知る人ぞ知るUFOのホットスポット。
もっとも知る人ぞ知るというのは、ほとんど知られていないのと同義だけれども。
かくいう僕は、一度もその発光物とやらを見たことがない。
あー、そういえば……たしかガキの頃に、同級生のハタの奴が見たとか言って騒いだことがあったっけか。それとても証拠となる写真もなく、あくまで証言だけにて。ほんの一瞬だけ仲間内で話題になったものの、すぐに下火となり忘れ去られたものである。
……だからであろうか。
いつの頃からか、誰とはなしに、祝い山の地下にはUFOの秘密基地があるなんぞという都市伝説――いや、さすがにそれは図々し過ぎるか。せいぜい村伝説といったところだろう――があった。
村の電波状況が悪いのもソレが原因だと、一部の村民の間ではまことしやかに囁かれている。
えっ、僕?
もちろん1ミクロンも信じちゃいなかった。
一般常識が備わったまともな思考の持ち主ならば、誰だってこんな話を真に受けたりはしないだろう。
まだツチノコの存在の方が、よほど信じられるというもの。
だが、その考えを僕はいよいよ改めねばならぬようだ。
なぜなら、いま目の前に発光するナゾの飛行物体が浮かんでいるから……
ドカンと噴火した祝い山。
もうもうと立ち昇る大量の煙がたちまち空を覆い尽くす。
遠目にも鮮やかな紅き流れ、マグマが滔々と溢れ出ては山肌を伝い濡らしていく。
轟々と焔立つ山頂、その近くでは青い稲光も発生しており、まるで赤と青の二頭の龍がじゃれ合い戯れているかのよう。
火口より天へとのびた幾筋もの緋色の線が、空に弧を描きながら方々へと散っていく。その正体は周辺へと降り注ぐ火球だ。灼熱を帯びて真っ赤になっている噴石たち。まるで花火のようにキレイだけれども、触れたものすべてを焼き尽くす地獄の炎の使者であった。
それらに紛れて山から吐き出されたのが、発光するナゾの飛行物体である。
ギュンと直上したとおもったら、びゅんびゅん、ジグザクに頂上近くを飛行し始めた。その挙動はあらゆる物理法則を無視したもの。
かとおもえば、いきなり寺の方へと降りてきて、境内上空にピタっと停まる。
僕たちはいま、そいつを見上げているという次第。
ひょっとしてこのままアブダクションされちゃうのかしらん?
ちなみにアブダクションというのは、UFOにお持ち帰りされて、お腹を掻っ捌かれて、とても口にはできないような、あ~んなことやそんなことをされちゃうこと。
外国にはじつに五十回以上も拉致された人もいるんだとか。
スゲーな。というか、そんだけ弄ぶんだったら、ちゃんと責任とって持って帰れよ、そして最後まできちんと面倒をみろ、飼育放棄とか最低! と僕は思う。
発光するナゾの飛行物体を前にして、タケさんはくわえていたタバコをぽとりと落とした。無理もない。タケさんは宇宙人やUFOは否定派だったから。
僕は『遅れてきたヒロインは宇宙人!? の巻』とか想像して、ちょっとドキドキ。
でも、期待はすぐに裏切られた。
とくに何も起こらず。
しばらくして、さも興味を失ったとばかりに、プイっとそっぽを向いた発光するナゾの飛行物体はビューンと飛び去って、どこぞに行ってしまった。
ぽつんと残された僕たちは「「ええーっ!」」
これはちょっと反応に困る。僕のドキドキを返せ。
あと、ついでに乗せてってくれたらよかったのに……、けちんぼ!
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