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048 神籬石(ひもろぎいし)

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 巨大おたまじゃくしが勝者の特権とばかりに、動かなくなった守護人機を何度も踏みつけている。
 奴は「ゲラゲラ」笑いながら、死体蹴りに夢中だ。
 まったくもって、いい性格をしていやがる。
 でも、そのおかげで僕たちはまだ無事なのだけれども。

 それを横目に、僕は老住職の胸倉を掴んで「ちょっと自爆ってなに? ねえ、ねえってばぁ!」と問い詰める。

「♪~♪~♪~&XYZ甲&3470乙&5963丙&8181丁――自爆シークエンス開始、600秒後に発動。総員、すみやかに退去せよ」

 ダメだ、まともに会話が成立しない。
 老住職はまばたきひとつすることなく、ロボットみたいな口調にて一方的に話すばかり。
 ……って、おい、ちょっと待て!
 600秒っていったら、たったの十分しかないじゃないか!
 そんな短時間で、この閉塞感たっぷりの山間部の奥の村でも、いっとう隅っこな所にある寺から、どこへ逃げろと?

「ど、どうしようタケさん……」
「……ん、無理」
「――っ!」

 さしもの不屈の老狩人も匙を投げて、タバコをふかしている。
 人生の締め、最期の一服というわけか。

「……アキ坊も一本どうだ?」

 勧められたけど、僕は遠慮しておく。
 だって、タバコは体に悪いもの。

  ◇

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 地鳴りがし始めた。
 震度二ぐらいの微細な揺れも続いている。
 次第に膨れ上がっていくのは不穏な気配。
 そのくせ辺りには異様な静けさが漂っている。
 パチリパチリ、火の粉のはぜる音がよく響く。
 方々にて山火事が発生しているものの、おもいのほか火勢が広がっていないのは、高出力ビームで抉られた地面が空堀(からぼり)の役割を果たして延焼を防いでいるから、皮肉なことである。
 次第に闇が薄まりつつある。
 夜明けが近い。

 進むカウントダウン。
 刻一刻と迫るタイムリミット。
 にもかかわらず、なんら打開策を見い出せず。
 僕はオロオロ、タケさんはぷかぷか、ミヨ婆はスヤスヤ、老住職はぼけぼけ、巨大おたまじゃくしはダムダム。
 貴重な時間が無為に、無情に過ぎていく。
 そしてきっかり十分経ったところで――

 ドンッ!

 下からもの凄い突き上げがきた。
 嘘みたいに体が浮いた。

 ドドン!

 とてもではないが立っていられない。盛大に尻もちをつき、僕は「アイタッ」
 なおも視界が上下に激しくブレ続けており、震動で頭の中がかき回される。
 かとおもえば、急にピタリと揺れが収まった。
 でも、ちっとも安心できない。
 むしろビンビンに不安感が高まるばかり。
 僕がおもわずゴクリと喉を鳴らしたのと、ほぼ同時に――

 ドドンがドォオォォォォーン!

 先ほどまでのとは比べものにならないほどの、強い衝撃っ!
 体がポンとゴムボールみたいに弾む。

「うわっ」と叫んだ次の瞬間には、何故だかムギュと地面に押しつけられており「ぐえっ」

 は? もしかして地面がいっきに隆起したのか。
 嘘だろう、天地が暴れている。
 地震の時には安全確保が大切、まずは自分の身を守りましょう。
 とか対策マニュアルに書いてあるけれど……

 ムリムリムリ、絶対にムリーっ!

 僕は悲鳴をあげた。
 圧倒的な力を前にして、ちっぽけな人の身で出来ることなんぞは何もない。
 ただ頭を抱えて、背を丸め、小さくなって怯えるだけ。

 さなかのことであった。
 僕の耳が自分の悲鳴に混じって奇妙な音を拾う。

 ひゅるるるるるるるるる~~~~~~。

 絶対絶命のピンチの場面にはいささか……というか、かなりそぐわないマヌケな音。

(んんん? なんだろう。気のせいか、どんどんこっちに近づいてきているような……)

 とおもうやいなや――――――ぐちゃり。
 潰れたのは、巨大おたまじゃくしである。
 そりゃあもう見事な潰れっぷりにて、車に轢かれたカエルに勝るとも劣らない。
 やったのはデッカイ大岩だ。

「あ、あれ……なんでこんなところに神籠石(ひもろぎいし)が? えっ、もしかして上から降ってきたの? え、えぇ、えぇえぇぇぇーっ!!!」

 僕は腰も抜かさんばかりに驚いた。
 なぜなら神籬石は、高さ12メートル、周囲16メートルほどもあって、重量はちょっとわからない。恐竜のタマゴのような形をしており、滑らかな岩肌にて、祝い山の天辺にある磐座(いわくら)であったから。
 ちなみに磐座とは巨石信仰の対象のことである。
 そんなものがいきなり天から降ってきたら、誰だって驚くだろう。
 でも、さらなる驚愕が僕を待ち受けていた。
 おもわず祝い山の方をふり返った僕は、目が点となる。

 祝い山が噴火していた。


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