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047 守護人機VS巨大おたまじゃくし、決着
しおりを挟む僕は舌の根も乾かないうちに前言を撤回する!
あまりの惨状に言葉も出ない?
ノンノン、ちっがーう。
そうじゃなかった。
本当の惨劇は、むしろここから始まる。
ビクンと痙攣したのは、熱線により体を焼き切られていた巨大おたまじゃくしである。
傷口がブクブク泡立ったとおもったら、抉られ爛れた箇所の肉がみるみる盛り上がっては再生していく。もげた足もにょきっと生えた。
で、勢いよく跳ね起きては、元気一杯に「ゲルゲルゲルルルルル」と喉を鳴らす。
低いゴロゴロ音にて、猫でいうところの強い不快感をあらわしている模様。
復活した巨大おたまじゃくし。
これに対して、守護人機が選択したのは攻撃の継続であった。
それすなわち……
ギュイン!
赤い熱線が闇を穿つ。
巨大おたまじゃくしは、これをピョンと跳ねてかわした。
放たれた熱線はそのまま地面へと突き刺さり、勢いのままに地中をも突き進み、ついには麓の方へと貫通し、その先にある林をも焼いた。
ギュイン! ギュイン! ギュイン!
ならばと守護人機は熱線を連続発射。
しかし当たらない。射撃精度がいまいち甘い。ひょっとして整備不良にて照準がブレているのか。
巨大おたまじゃくしは、ちょこまか動き回っては、逃げ回る。
そこで守護人機は攻め方を変えた。
一点を狙い撃つのではなくて、熱線を発射しながら首を回すことによる薙ぎ払い攻撃を実施する。
グイーっと線を引くような動きにて、巨大おたまじゃくしを追尾する。
迫る、高出力ビーム。
巨大おたまじゃくしがシャカシャカ逃げる、逃げる、逃げる。
その煽りを受けて周辺および村の地形が、山間部一帯がどんどんと変わっていく。
光がシュバッと走ったとおもったら、通過した直後に爆発が起きて、線沿いに炎の壁が出現する。焼けた石たちが飛び散り、次々に延焼を引き起こす。
空の雲が霧散し、割れた。
山に大きな風穴があいた。山の天辺が削れて低くなった。山が抉れて谷になった。
森が焼けた。田畑が焼けた。家が焼けた。家畜小屋が焼けた。倉庫が焼けた。自動車が焼けた。動物が焼けた。人が焼けた。眷属や傀儡が焼けた。裏返りが焼けた。
これまでの阿鼻叫喚ぶりなんぞは屁でもない。
焦熱地獄が地上に顕現する。
もう無茶苦茶であった。
惨劇どころか大惨事である。
これならば、まだ巨大おたまじゃくしの方がマシであろう。
無差別破壊兵器と化した守護人機を前にして、ただの人間である僕やタケさんは「ワー、キャアー」叫びながら逃げ惑うばかり。
しかしそんな悪夢はほどなくして終わった。
暴挙を止めたのは意外な伏兵。
やりたい放題の守護人機の身が、不意にぐらりと傾ぐ。
右脚に巻きついていたのは、赤黒い長い肉片である。
その正体は長い舌の切れ端であった。
巨大おたまじゃくしの舌だ。守護人機に千切られた部位にて、分かれてもなおビタンビタンとしてたモノ。そいつがヘビのように動いては、守護人機の足に絡みつく。
急に足を取られて、守護人機は大きくバランスを崩した。
両腕が無いので、転倒するのを防ぐことができない。
そのタイミングで、巨大おたまじゃくしが攻勢へと転じる。
でろりんと舌をのばしては、どうにかこらえようとしている守護人機の胸部を、ガツンとダメ押し。
からの――カアァアァァァァァーッ、ペッ!
放たれた痰が守護人機の頭部へと当たり、これによりようやく高出力ビームの乱れ撃ちは止んだ。
ダウンした守護人機は立ち上がれず。
溶解液の浸蝕が進み、ついには全身からプスプスと白煙をあげて、沈黙する。
これにて勝負アリ。
戦いを制したのは、巨大おたまじゃくし。
◇
どうにか生き延びた僕たちは放心状態であった。
でも、それもほんの少し死ぬのが先延ばしになっただけのこと。
なぜなら、結局のところ根本の問題が丸っと残っているからである。
それすなわち巨大おたまじゃくしの存在だ。
守護人機はけっこう健闘していたと思う。
でも、それを遥かに上回ったのが、巨大おたまじゃくしの、怪異のデタラメさ。
上位の吸血鬼とめくりさまが合体した怪異が、これほどの脅威に化けるだなんて……
「あー、さすがに今度こそ本当に終わった。せめて苦しまないように、ゴクっとひと呑みにしてくれたらいいんだけど。
でも無理だろうなぁ。なにせ僕たちってば、やたらと目の敵にされているし。
だったらいっそのこと、潔く自分で自分の人生にケリをつけるべきか」
自殺はよくない。
そんなことはわかっているさ。
けれども、時と場合によるだろう。
人生いろいろ、誰しも譲れないものがある。
たとえちっぽけでも、己の尊厳を守るためならばやむをえない。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍びもけっこうだけど、何事にも限度というものがある。
ままならぬ人生、せめて最期ぐらいは自分の好きにしてもいいんじゃないのかな?
……というか、痛いのヤダ!
幸いなことに散弾銃の弾はまだ残っている。
これで楽になろう。でもって、来世ではモテモテ学園ハーレムの主人公になるんだ。
あっ、でも贅沢は言いません、神さま。
無理なら、せめて可愛くて、胸が大きくて、毎朝起こしにきてくれる、世話焼きの幼馴染みをプリーズ。
なんてことを僕が考えていたら、またもや老住職の口がガーピーがなり出した。
「#%¥$&¥◎◎◎$△△♪○¥×&※利甲――防衛失敗! 防衛失敗! 機密保持のため自爆シークエンスへと移行します」
へっ、ちょっと待て。
いまなにやら不穏な言葉が聞こえたような……
応援ありがとうございます!
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