村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

文字の大きさ
上 下
46 / 55

046 守護人機VS巨大おたまじゃくし、XX承認す

しおりを挟む
 
 守護人機が落ちていた腕を拾って、ガチャンとくっつけた。
 それと時を同じくして、のたうち回っていた巨大おたまじゃくしが、むくりと起き上がる。舌は新しいのが生えており、千切れた先っちょの方は、まだあっちでビクンビクンしていた。かなり気持ち悪い。

 第三ラウンドは静かな立ち上がり。
 両者にらみあったまま動かず。
 かとおもったら、守護人機の姿が不意に消えた。
 どこに行ったのかとおもえば、上空である。
 よもやの大ジャンプ、鈍重そうな見た目に反して跳躍力は相当だ。
 で、そのままニードロップの構えにて急降下。
 しかし巨大おたまじゃくしは、サササと地面を這いこれをかわす。奴には無数の目がある。そのため出し抜くのは容易ではない。

 ギロチンの刃のごとく落ちてきた守護人機の膝が、地面に激突する。
 ドーンという震動にて、境内に敷かれている砂利らが一斉にぴょんと跳ねた。
 直後に衝撃が波となって周囲へと拡散される。
 舞い上がった砂塵が散り、視界が晴れると大きなクレーターが出現していた。
 なんというインパクト! もしも攻撃が当たっていたら、ノックアウトどころか体が爆散していたのではなかろうか。

 そんな凄い攻撃を回避した巨大おたまじゃくし、スルスルと滑るように移動する。
 すかさず片膝をついている守護人機の背後を取った。
 で、大きく口を開けたもので、またぞろ長い舌で攻めるのかとおもいきや、さにあらず。

 カアァアァァァァァーッ、ペッ!

 痰を吐きやがった!
 それも特大の!!
 ただでさえ口臭がキツイのに、それがギュッと濃縮されたようなシロモノ。
 ばっちい! 不快である。下品にて、見ていてあまり愉快なことではない。
 僕は「うへぇ」と顔をしかめずにはいられない。

 べちゃり。

 痰が付着したのは守護人機の左肩のうしろあたり。
 くすんだ黄緑色をした痰は、ドロリとした粘性を持ち、ねっとり肌にまとわりつく。
 途端に、シュウ、シュウ、シュウ……
 触れた箇所から白煙があがって、じゅわじゅわ溶け始めた。
 恐るべき溶解力にて、瞬く間に外部装甲に穴が開き、メカメカした内部骨格があらわとなったとおもったら――ボトリ、腐り落ちたのは守護人機の左腕であった。

 そう、巨大おたまじゃくしの痰には、モノを腐らせドロドロに溶かす性質が備わっていたのである。いや、もしもその気になったら、ヨダレや唾でも同じことができるのかも……
 僕は心底ゾッとした。
 だって、以前にペロンと顔を舐められたことがあったから。
 運よく助かったから良かったものの、一歩間違えたら生きながらに溶かされちゃうところであった。あ、危ねえ。

 こうして第三ラウンドは巨大おたまじゃくしが取った。
 なおも溶解痰の浸蝕は続いており、守護人機は一転して窮地へと立たされることとなった。

  ◇

 左腕を失った守護人機。
 殴られたところがすでに回復している巨大おたまじゃくし。
 互いの状況から、形勢は一目瞭然であった。
 さしもの守護人機もこれまでか?
 といったところで、おそらくは最終になるであろう第四ラウンドがスタートする。

 巨大おたまじゃくしは、用心して距離をとっている。
 対して守護人機は右の拳を突き出し、ロケットパンチをふたたび放った。
 けど、これは悪手だ。前の時とは状況が違う。
 いかに強力とて、真っ直ぐにしか飛べないモノを、おめおめと喰らうような巨大おたまじゃくしではなかった。
 ぬるりと横移動にて余裕でかわす。
 ロケットパンチは空振りにて、進路上にあった鐘楼に吊られている梵鐘をかすめて、くわ~ん。
 気の抜けた音を鳴らしてから、夜明け前の瑠璃色の空の彼方へと消えてしまった。

 頼みの豪腕を失くした守護人機。
 こうなれば動く案山子のようなモノ。
 巨大おたまじゃくしが喜々として襲いかかる。
 もはやこれまでか……
 僕とタケさんがガッカリしていると、突如として老住職の口がガーピーがなり出す。

「¥$&$$¥?凹凸△◎$♪○¥&※利乙――××の使用を承認す、××の使用を承認す」

 ××……チョメチョメ?
 いったい何のことだろう。
 僕が不審がっていると、守護人機の身に異変が起きた。
 いきなりぐりんと回ったのは首、頭部が反転し後頭部が正面へと向く。
 そこにあったのは丸い……穴。
 まるで古井戸のように、ぽっかりあいているのだけれども、その奥底がビカッと光ったとおもったら、次の瞬間のこと。
 穴から閃光が溢れ、苛烈な奔流となって噴き出した。
 たちまち視界が明転し、白に染まる。
 あまりの眩しさに、僕は顔を手で庇い目を閉じる。
 直後に聞こえてきたのは、巨大おたまじゃくしの絶叫であった。

  ◇

 恐る恐る瞼を開ければ、そこには驚愕の光景が待っていた。
 地面には赤い線が溝のように刻まれており、溝の表面が煌々と光っているのは、グツグツ煮立っているから! あまりの高温にて、土や石などが溶けてマグマのようになっている。
 かたわらにて巨大おたまじゃくしが、倒れていた。
 見れば右の前と後ろ足および、その根元や脇から腹部のあたりがごっそり削れていた。
 死骸が焼ける時の厭な臭い。
 あの熱線にやられたのだろう。
 とっさに回避行動をとったものの、間に合わなかったようだ。
 でも、そんなことは些末なことに過ぎない。

 赤い線は彼方にまでのびていた。
 寺の境内を飛び出し、山門の瓦礫を焼き払い、麓の村をも縦断しただけではあきたらず、向こうの山の斜面をもざっくり抉っている。
 高出力ビーム兵器で、巨大おたまじゃくしのみならず、村までぶった斬られた!
 焼かれた場所がぷすぷす燻っており、余波で周囲に火が燃え広がりつつもある。
 これは凄まじい。じきに本格的な山火事になるだろう。
 あまりの惨状に、僕とタケさんは言葉も出ない。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

海藤日本の怖い話。

海藤日本
ホラー
これは、私が実際に体験した話しと、知人から聞いた怖い話である。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...