村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

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044 如来、大地に立つ!!

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 倒壊した寺。
 瓦礫の下から姿をあらわしたのは、大日如来像である。
 所々剥げた塗装の奥には、黒光りする鉄っぽい地肌がちらちらり。
 ぐぅおん、ぐぅおんと鳴っている低い音は、駆動音か?
 よもやの自律可動式!?
 住職が守護人機と言っていたのは、ひょっとしてアレのことか!

 大日如来の姿をした守護人機なるものが、建物の残骸を踏みしめ蹴散らし、ドシンドシンと歩く。
 本堂の内陣にて鎮座している時には気づかなかったけれども、こうして間近に見上げると腕が太くて逞しい。拳は大きくゴツゴツとしており厳めしく、胸板厚く、腰周りはどっちり安産型、とっても頼もしい御姿をしていらっしゃる。
 う~ん、とりあえず手を合わせて拝んどくか。
 ありがたや~、ありがたや~、南無南無~。

 ――じゃなくって!

「ねえ何なの? アレってば何なの? 歩く仏像とか、突っ込みどころが多すぎる!」

 と、僕。

「……これか? これがいたから吸血鬼どもは寺に手を出さずに、ずっと遠巻きにしていたのか」

 とは、タケさん。
 あまりのことに、僕たちは住職へと詰め寄る。老僧の両肩を掴んではぐわんぐわん、揺さぶらずにはいられない。
 すると住職はスンとした表情のまま、機械的に口を動かす。
 その様は、電気通信事業を手がける某大手企業が、かつて販売していた人型ロボットにそっくり。

「?×△◎$♪○¥$&$$¥¥※利&♪♪――守護人機は搭乗ゲートを防衛する任を受けている。これより侵入者を排除する」

 これを聞いて僕とタケさんは「「えっ」」と顔を見合わせる。
 だって侵入者を排除するということは、つまり……
 僕はとっても厭な予感がした。
 タケさんも同じであったらしい。
 それを肯定するかのように、大日如来様の首がぐりんと回って、こっちを向いた。
 ……ハハハ、どうやらお寺はセーフティゾーンなんぞではなくて、デンジャーゾーンであったらしい。

 一縷の望みを絶たれた。
 あー、終わった。次の朝陽はとても拝めそうにない。
 やれやれ、童貞のままで人生卒業か。ジュニアには気の毒なことをした。でも清い体のままなのだから、天国へ行けたらうれしいな。もしくはチート能力を貰っての異世界転生でも可。
 なんぞと僕がメソメソしていたら、タケさんが「……こっちだ!」といきなり駆け出す。
 釣られて僕もついて行ったものの、向かったのがよりにもよって山門の方である。

「ちょ、ちょっと待ってよタケさん、そっちには奴が」
「……だからだ。住職が言ってただろう? 『侵入者を排除する』と。それを逆手に取って、あのデカブツを巨大おたまじゃくしにぶつける」
「!」

 掟破りの丸投げ、なすりつけ行為を敢行する。
 この土壇場で、よくもまぁ、そんな悪辣な策を思いつくものである。
 それから「デカブツ」は「大きな仏」と掛けているのだろうか?
 ムムム、やるなタケさん。
 僕はほとほと感心した。

 扉が壊れた山門のところに来たら、向こうからもちょうど黒い小山――巨大おたまじゃくしがあらわれるところであった。
 だが、奴は境内には入ってこず。
 たくさんの目をギョロギョロさせては、外からこちらの様子を伺っている。
 取り込んだ吸血鬼の影響か、やはり寺を警戒しているようだ。
 くっ、マズイ……これではタケさんの策が使えない。
 そこで僕は足下の砂利をひとつ拾って、奴にぶつけてこう言ってやった。

「ヘイヘイ、ビビッてんのか? バーカ、バーカ、悔しかったら入ってきてみろよ。お尻ぺーんぺん、べろべろば~」

 我ながら貧困な語彙力、幼稚園児並みに拙い挑発、自分でもちょっと……、いや、かなり恥ずかしい。
 だがしかし――

 巨大おたまじゃくし、その体表にびっちりある目という目が、一斉に赤みを増して爛々となる。
 浮かぶ感情は、怒、怒、怒。
 奴の沸点はめちゃくちゃ低かった。
 びっくりだ。村の短気な年寄り連中よりもなお低い。
 でもおかげで、ぶちキレた巨大おたまじゃくしは山門を破壊して、境内へと侵入する。
 これにより守護人機の排除対象が、僕たちから巨大おたまじゃくしへと変更された。
 そりゃそうだ。同じ侵入者でも脅威度は、どう見たって後者の方が高いのだから。
 かくしてタケさんの目論み通りとなる。
 守護人機と巨大おたまじゃくしの戦いが幕を開けた。


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