村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

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043 寺の秘密

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 山門の扉を破壊し、境内へ侵入する。
 僕は慌ててキキーッと急ブレーキ。軽トラックを停めようとするも、ボキンと不穏な音がして、ペダルがフッと軽くなった。
 う~ん、どうやらブレーキ装置のどこかがイカれてしまったらしい。
 そりゃまぁ、あれだけ乱暴な運転をしていたら、さすがに壊れるよね。
 ならばと、サイドブレーキに頑張ってもらおうとするも、こちらはポロリと抜けた。
 でもまだ大丈夫、シフトレバーを操作して減速すればいい。
 が、どこかの噛み合わせがおかしくなったらしく、シフトレバーは微動だにせず。
 こうなればしょうがない、最終手段だ。
 エンジンを切ってしまえとキーを捻ったら、鍵が根元でぺキッと折れた。

 僕は「うそ~ん」

 ……というわけで、軽トラックは停まれず。
 レース中のラリーカーのごとく土煙をあげながら境内を通り過ぎ、そのまま本堂へと突っ込んだ。

 正面の庇を支える柱を薙ぎ倒す。
 向拝(こうはい)を駆け上がり、賽銭箱を撥ね、格子戸やら板戸を粉砕し、建屋内へと。
 土足厳禁である外陣の畳敷きの上を、泥だらけのタイヤで踏みしめる暴挙の果て、いよいよ御本尊がある内陣が近づいてきた。
 すると目が合ったのは、奥にて胡坐をかいている大日如来像である。三メートルちょいの大きさにて、こちらを優しく見下ろしてる。南無南無。

(――って、このままだとぶつかる!)

 べつに信心なんぞはこれっぽっちもない。
 だからって粗略に扱っていいというわけじゃない。信じちゃいないけど、罰は当たりたくないと考えるのが人情というもの。
 とっさに僕はハンドルを切っていた。
 それにより直撃コースは回避する。
 軽トラックは本堂奥の隅へと激突し、ようやく停まった。

  ◇

 うう~ん。
 気がついた僕が最初に目にしたのは、膨らんだエアバックである。
 次に目にしたのは、隣で暢気にグースカ寝ているミヨ婆。
 この状況でもまだ寝ていられるのって、ある意味凄いな。尊敬の念すら憶えるほどだ。

 ――って、ちょっと待てよ! 本当に寝ているだけか?

 たしか、いびきって脳卒中の前兆、危険信号のサインだってこの前テレビで観たぞ。
 僕はおずおず「ちょっとミヨ婆、大丈夫?」と声をかけ軽く揺すってみた。
 すると「むにゃむにゃ、もうお腹いっぱい、お餅食べられない」との寝言にて。
 ……よかった、どうやら老婆は無事らしい。
 締めていてよかったシートベルト、ありがとうシートベルト。
 でも歳が歳だし、助かったら念のため病院で頭をMRI検査してもらったほうがいいだろう。

 ふぅ、こっちはとりあえず大丈夫そう。
 では荷台の方のタケさんはどうかといえば、隻眼隻手の老狩人はすでに立ち上がっており、じっとにらんでいたのは僕たちがぶち壊した本堂入り口の方である。
 視線の先に人がいる。
 まるで死装束のような夜着姿にて立っていたのは、住職であった。
 あー、さすがにこれはやんちゃが過ぎた、きっとカミナリを落とされる。
 この村で育った子どもたちは、物心つく前から悪戯をするたびに住職に怒鳴られては、ゲンコツを頂戴して育っているので、苦手意識が刷り込まれているのだ。
 僕は内心ビクビク。
 けれども、住職の口から出てきたのは、まったく予想外な言葉であった。

「◎$♪○?×△¥$&$$!――ギギギ、緊急事態発生につき、防衛シークエンスへと移行します」

 あぁ、諸行無常……
 住職が耄碌していたのは知っていたけれども、ついに本格的に頭がダメになってしまったらしい。
 人はこの世に生まれ落ちた瞬間より、死へとまっしぐら。
 老いからは逃れようがなく、それゆえに脳の経年劣化も避けられない。
 宿命とはいえ、いざ目の当たりにするとけっこうショックだ。
 かつての矍鑠(かくしゃく)とした姿を知るだけに、いっそうツライ。
 僕はおもわず鼻をすすった。

 そんな僕の気持ちなんぞはそっちのけにて、住職はなおもわけのわからないことを口にする。

「¥¥高高$♪○?×△¥$&$$銀銀珍蓬!――守護人機、ただちに起動せよ! 守護人機、ただちに起動せよ!」

 住職の言葉とともにゴゴゴと地鳴りがして、本堂全体が揺れ始めた。
 えっ、このタイミングで地震?
 驚く僕にタケさんが「……いかん、本堂が倒壊したら下敷きになるぞ。すぐに外へ出るんだ」と叫ぶ。
 なので、すぐさま脱出をする。
 寝ているミヨ婆は僕が担ぐ。タケさんは戯言を繰り返す住職の襟首を掴んで、引っ張っていき表へと。

 でもって、本堂は直後にぐしゃっと潰れた。
 もとからボロかったけど、軽トラックで突っ込んだのがトドメとなったか。
 と、おもったら違った。
 もうもうと垂れ込める土煙、その奥にてのそりと立っている巨大な影がある。
 その正体は、大日如来像であった。
 組んでいた足をほどき、ぬぅんと立ち上がっては仁王立ち。
 全長六メートルほどもある巨人の登場に、僕とタケさんは揃って「「なんじゃこらーっ!!!」」


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