村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

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042 ダブル忌み数

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 遠い宇宙の彼方にあるという光の国。
 そこからやってきたお節介な巨人と、荒ぶる怪獣との血沸き肉躍るバトル。
 あの特撮モノって、男の子ならばたいてい一度はハマるよね?
 でも大人になったいま、僕はつくづくこう思うのだ。

 そりゃあ、戦わないとしょうがないのはわかってる。
 けど、そのたびに被害をこうむる街の衆はたまったものじゃないよね?
 そこに住んでる人たちは、表向き頑張ってくれているヒーローや隊員たちには感謝を述べつつも、心の底ではきっと「ちぇ、またかよ」「他所でやってくれ」「わざわざ街中でやらんでも」「保険、利くかしらん?」などと、さぞやげんなりしていることであろう。
 日々を慎ましやかに生きている一般人からすれば、巨人も怪獣もさして変わらない……

 な~んてね。
 絶賛驀進中である巨大おたまじゃくし。
 アレを見ていると、僕はついそんなことを考えてしまった。
 あー、もちろん、一般人の目線ですよ、ハイ。
 にしても、マジでしつこい!
 村で散々に呑み食いをしておいて、なおも僕たちに執着するだなんて、どんだけ恨んでるんだよ!
 ……まぁ、たしかにちょっぴりおいたはした。
 吸血鬼VSめくりさま、世紀の大決戦。
 どさくさにまぎれて、頭と心臓を白銀色の銃弾でズドンと狙い撃ちしたけど。
 それにしたって、あんな姿になってまで、ムキになって追いかけるほどのことはあるまい。理性や自我はどこそに失せたんだったら、いっしょに怨讐もきれいサッパリ忘れればいいものを……それに食欲の権化になったのならば、村の連中を襲えばいいのに、どうしてわざわざこっちにくる?
 あっちいけよ!

 なんぞと最低なことをグチグチ言いながら、僕は軽トラックを走らせる。
 じきに寺の参道入り口が見えてきた。
 幅のある平べったい石段にて、数は49。
 4は「死」、9は「苦」にて、よもやのダブル忌み数である。
 ちなみに忌み数とは、使われている文字まんまの意味にて、不吉とされている数字のこと。
 もしもわざと狙ってやったのだとしたら、寺を建てた人物はよほど茶目っ気があったのであろう。

 僕は石段の手前に軽トラックを横づけしようとするも、タケさんが「……そのまま行け、アキ坊」と無茶を言う。
 とはいえ、石段の段差はせいぜい二十センチほどだし、一段ごとの奥行もそこそこあるので、勢いをつければどうにか上まで辿りつけるか?
 やってやれないことはない。
 ただし、めちゃくちゃ揺れることが予想される。
 三半規管が耐えられるだろうか、あとうっかり舌を噛まないように注意しなければ――

「どうなっても知らないからね? しっかり掴まっていてよ、タケさん」
「……おう」

 というわけで、石段めがけてGO!
 最初の一段目へと突っ込んだ直後に、反動で車体がばぅん、大きく跳ねて前輪が高らかに浮く、馬が棹立ちしたかのような格好になった。バイクでいうところのウイリー状態である。
 あーっ、そういえば僕のバイク!
 すっかり忘れていた。
 中古だけど社会人になってから初めて買った高いモノ。頑張った自分へのご褒美。辛いときも悲しいときも嬉しいときも、ともに風となった相棒にて、想い入れもひとしお。
 あぁ、無事だといいのだけど……ちくしょう、あとで回収できるかな。

 気負うあまり、ちょっと勢いをつけ過ぎた。
 軽トラックはうしろにひっくり返りそうになる。
 でもギリギリのところで踏みとどまってくれた。
 反り返った車体がゆっくりと戻っていく。

 ドンっと前輪が着地。

 強い衝撃により、シートベルトをしていても運転席に座る僕の体はがくんがくん、激しく上下する。
 危うくハンドルを離しそうになるのを必死にこらえた。
 ちらっと隣を見れば、こんな状況にもかかわらずミヨ婆はスヤスヤ。
 なにげにこの人、神経が図太いな。
 でもって、タケさんは荷台の縁に結んであったゴムバンドを腕に絡ませ、必死にしがみついており、こちらもどうにか無事。もっとも暴れる車体のせいで、ほとんどロデオ状態だったけど。

 軽トラックが、ダン! ダン! ダダン!
 車体を揺らしながら石段をのぼっていく。
 でも三分の二ほどまできたところで、ついに恐れていた事態が起きた。

 巨大おたまじゃくし、襲来す!

 さっそく軽トラックを追いかけ、石段をのぼり始める。
 一歩が大きい。ヤモリのような挙動にて、スルスルとこちらに迫る。
 くっ、マズイぞ。このままだとすぐに追いつかれる。
 とはいえ、すでにアクセルは全開にて、これ以上速度はでない。
 焦る僕にタケさんが言った。

「……アキ坊、銃を寄越せ」

 言われるままに僕は窓越しに散弾銃を差し出す。弾はさっき竹林へ踏み込む前に装填済みにて、そのまま残っている。
 タケさんは、これを口でワイルドに受け取った。
 いまのタケさんは隻腕だ。これでは狙いをろくにつけられず、銃の反動にも耐えられない。ましてやいまは石段をガタガタのぼっている途中にて、激しく揺れる荷台の上、いったいどうするつもりなのか。

 そんな僕の心配をよそに、タケさんは器用に散弾銃を構えたとおもったら、すぐさま発射する。
 銃口を向けたのは、すぐ背後に迫る巨大おたまじゃくしの、左前足は膝の辺り。
 ちょうど踏み出そうとしていたところにガツンと衝撃、これにより出足が乱れた。
 巨体であるがゆえに、いったんバランスやリズムが崩れると、たちまち動きも乱れる。
 つんのめって前のめりとなった。
 これにより一時的にだが追尾が緩まる。
 その隙に軽トラックはいっきに石段をのぼりきった。
 勢いのままに閉じていた山門へと頭から突っ込む。
 扉を押し倒し、強引に境内へと雪崩れ込んだ。


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