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041 進撃の巨大おたまじゃくし
しおりを挟む覚悟を決め、勇んで竹林へと入っていった僕であったが、すぐに引き返すのハメになった。
なぜならこっちに向かってくるタケさんの姿を見かけたから。
無事どころか年甲斐もなく元気に走っていたもので、安堵したのも束の間のこと。
僕は、ギョッ!
タケさんの背後の闇が、ザワザワザワと波打っている。
ドドドと微かに地鳴りもしており、竹林そのものがさざめく。
なに事かとおもえば、裏返りだ。
赤身丸出しの裏返りたちが、大挙して押し寄せてくるではないか!
「げげっ、めちゃくちゃ増えてる!」
「……バカ、ぼさっとするな。はやく逃げろアキ坊っ!」
タケさんからどやされるまでもなく、僕はくるり、脱兎のごとく駆け出した。
長年の山歩きにて培った健脚にて、すぐに追いついてきたタケさん。
僕たちは並走しながら――
「タケさん、なんなのアレ! ちょっと多すぎない?」
「……儂が知るか! ミヨを追いかけ回していた連中をとっちめていたら、急に竹林の奥から湧いてきよった」
「うわ~、もしかして吸血鬼よりもめくりさまの方がヤバいのかも」
「……かもしれん。裏返りどもは無駄にしぶといしな。頭と心臓を潰せば一時的にだが動きを止める眷属どもの方が、まだ可愛げがある」
「どっちもどっちだよ! って、そうだ。ミヨ婆だけどさっき保護したよ。いまは軽トラの助手席で寝てる」
「……そうか、すまん」
一連の騒動の裏で、着実に仲間を増やし勢力を拡大していた裏返りたち。
動く骸、不死の軍団? いくら個体ごとの戦闘力は低くとも、数が揃えば充分に脅威となる。
追いつかれたが最期、よってたかってペロリとめくられてしまうことであろう。
多勢に無勢、ここは逃げの一手しかない。
竹藪を飛び出し、停車していた軽トラックへと駆け寄る。
僕はすぐさま運転席へと滑り込み、エンジンをかける。
タケさんは不自由な体にもかかわらず、片手にてひらりと荷台に飛び乗った。
軽トラックが走り出すのに遅れること、わずか。
竹林からゾロゾロと裏返りたちが大量に溢れてくるも、こちらの方が少しばかり速かった。
アクセルをベタ踏みにて軽トラックは急発進、裏返りどもをまとめて置き去りにする。
サイドミラー越しに、みるみる裏返りたちが遠ざかっていく。
とりあえず窮地を脱したようで、僕は人心地。
助手席のミヨ婆は体を丸めて小さくなって眠っていた。
よほど疲れていたのだろう、無理もない。
にしても、この状況下でよく生きのびれたものである。
たぶん村人からも、財団の連中からも、相手にされなかったがゆえに助かったのだろう。
それもこれも日頃から村の鼻つまみ者扱いであったがゆえなのだから、皮肉な話である。
さて、このまま寺に向かうとして、問題は裏返りどもだ。
吸血鬼の関係者らは、何故だか寺を遠巻きにしており、踏み込んでくる心配はないようだが、裏返りどもはどうであろうか? 巨大おたまじゃくしも。
もしも寺が霊験あらたかで、悪霊退散! みたいな感じで、不浄なる者を寄せ付けないのならば安心だが、あそこにあるのって胡散臭い伝承グッズ以外は、所々雨漏りがしている本堂と剥げだらけの大日如来像、強い風が吹いたら倒れそうな鐘楼に、いまにもポトリと落ちそうな梵鐘ぐらいなんだよねえ。
(う~ん、ちょっと……というか、かなり不安がある。とはいえ、ぶっちゃけ他に頼れる場所もないんだよねえ)
とりあえず行くだけ行ってみるしかない。
そう僕が結論づけようとしたところで――
「……来たぞアキ坊! 九時の方向」
思考を中断し、タケさんに言われた方を見れば、派手に土煙があがっており、それがどんどんこっちへ近づいてくる。
進撃の巨大おたまじゃくし、進路上に立ち塞がる木々を薙ぎ払い、田畑を横断し、壁や建屋などを破壊しつつ、ついでにちょいちょいつまみ食いなんぞを挟みながら、ゴーイングマイウエイ!
ワァオ! この調子で突き進めば、村に新たな道路が開通しちゃいそうである。
しかも心なしか、さっきよりも巨大おたまじゃくしの体が大きくなっているような……
いいや、そんなはずがない。
うん、きっと僕の気のせいであろう。
「……いや、たしかにデカくなってるな。三割ぐらい増量しているぞ」
と、タケさん。
隻眼になろうとも狩人の眼光は鋭く、言い切った。
信じたくはないけれども、どうやら奴は食べた分だけ順調にスクスク育っているようだ。
にしても育ち過ぎ!
もはや怪獣じゃねーかっ!
おかげでますます手に負えなくなっちゃった!
バズーカどころか戦車でも止められそうにない。
どーすんの、コレ?
全滅バッドエンドが脳裏をよぎる。
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