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038 リアルクライムアクション

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 ほら、車で暴走したり、人を轢いたり、通行人に銃をぶっ放したり、何でもできる、やたらと過激で自由度が高いテレビゲームってあるよね?
 たしかクライムアクションゲームっていうんだったっけか。
 あいにくと僕の趣味じゃなかったので、ずっとスルーしていたのだけれども、よもやそれをリアル世界で体験するとはおもわなかった……

 あっちゃあ、人を撥ねたかもしれない。
 とっさにブレーキを踏んで停車しようとした僕。
 それを「……停めるなっ!」とタケさん。
 目覚めたものの、老狩人はかなり苦しそうである。

「……ちらっと見たが、あれはまともな人間じゃねえ。全身、赤身が丸出しだった。たぶんアキ坊が言っていた『裏返り』だろう。だったらとっくに死んでいるから、気にしなくていい」
「そうなの? はぁ~、よかったぁ。せっかくゴールド免許になったのが、ダメにならなくて」

 優良運転者の証、5年以上無事故・無違反のドライバーに交付されるのがゴールド免許である。免許証に記載されている有効期間の背景が金色となり、一目でゴールドとわかる仕様になっており、メリットいろいろ。
 僕は安堵する。

「……それよりもアキ坊、いまどこに向かっている?」
「村の入り口、石橋の方だよ。巨大おたまじゃくしに追われて逃げているところ。さすがにアレの相手はできそうにないから、このまま逃げようかと」
「……あー、それはムリかもしれん」
「えっ、どうして?」
「……たぶん封鎖されている」
「!」

 村から外界へと通じる唯一の経路を、そのまま放置するわけがない。
 十中八九、アルカ・ファミリア財団の手が回っている。
 そのタケさんの予想は的中した。

 僕が運転する軽トラックが石橋のたもとへと近づくと、聞こえてきたのは喧騒にて、ヘッドライトにより照らし出されたのは、乱闘シーンである。
 争っていたのは、裏返りたちと財団の手下ども。
 普通ならば、筋と赤身肉丸出しの人体模型のようなのが襲いかかってきたら、悲鳴をあげて逃げる。
 なのに一切退かず、この場を死守しようと勇敢に立ち向かっている財団の面々。
 かとおもったら違った。連中、傀儡だ。勇敢なんかじゃない。ただ、命じられたままに、この場を守っているだけのことであった。
 生者に掴みかかる亡者と、生きた屍と化している者らと。
 喜怒哀楽――感情の類はなく、ただただ無心にて潰し合い、殺し合っている。

 そこに僕が運転する軽トラックが、どーん!
 勢いよく頭から突っ込んだ。
 僕はもうアクセルを踏むことに躊躇はしない。
 だって、よくよく考えたら、ここにはパトカーも白バイもいないもんね。ライブカメラも設置されておらず、バレる心配はない。
 よって強行突破を敢行する。
 進路上にいる者らをバンバン容赦なく撥ねる。
 でも軽トラ無双はすぐに終わった。

 キキーーーーッ!

 かん高いブレーキ音とともに、軽トラックは急停車を余儀なくされる。
 なぜなら石橋の手前に、丸太や鉄パイプで組まれた頑丈なバリケードが築かれていたからである。
 ダンプカーとかならばともかく、軽トラックごときのパワーでこれは破れないだろう。
 これ以上は進めない。
 しょうがないので僕はシフトレバーはDからRへ。
 周囲は敵だらけにて、のんびりUターンをしている暇はない。バックのまま、ふたたび混戦のさなかへと突っ込んでいく。
 とはいえ、前進に比べて後進は勢いがやや弱い。
 そのため車体へとしがみ付いてくる、ガッツのある敵があらわれる。
 でも、そちらの対処はタケさんがやってくれた。

「……ふんっ!」

 たまたま荷台に放置されてあったバール片手に、しがみついてくる相手の手をぐしゃりと潰し、頭部をガンっと殴っては打ち払う。
 でも、そんなバックでの移動もあまり長くは続かなかった。

「げっ、もうきやがった!」

 バックミラー越しに映ったのは巨大おたまじゃくし。
 このままバックで戻れば、かち合うことになる。
 いっそのこと軽トラックを乗り捨てて、山にでも逃げ込むべきか?
 僕がそう言い出すよりも先に、タケさんが言った。

「……アキ坊、速度を落とすな。かまわん。このまま突っ込め」
「で、でもそんなことをしたら」

 あのヌメっとした巨体、軽トラックで体当たりをしたとて、こちらが逆にひしゃげるだろう。
 なのにタケさんはゴーサインを出した。
 その理由は彼が懐から取り出した筒状の物体――細長い手榴弾のようなのはスタングレネード、いわゆる閃光弾というやつである。

「……いち、にのさんの合図で投げる。目がやられないように注意しろ」

 バック運転だけでなく、目隠し走行までやれとか、いくらなんでも無茶が過ぎる!

「ちょ、ちょっと待ってタケさん」
「……待てん。いくぞ、いーち、にーの、さんっ!」

 言うなり隻腕のタケさんは口でピンを抜き、スタングレネードを投げた。
 一拍置いて、生じる激烈な閃光が闇を切り裂く。
 そんなシロモノを出合い頭の眼前にて、炸裂されたのではたまらない。
 大量にある目も仇となった。
 巨大おたまじゃくしは、声にならない悲鳴をあげてる。
 でもって車は急に止まれないのと同じく、巨体もまた急には止まれない。
 視界を失い、光に驚き、混乱した巨大おたまじゃくしはバランスを崩して、盛大にスピンする。
 その脇を軽トラックはギリギリ通り過ぎた。
 すれ違った巨大おたまじゃくしは、そのままバリケード付近の乱闘現場へと突っ込んでいく。


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