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036 山羊責めの刑に処す
しおりを挟む吸血鬼は怪異を喰らうことで、より強く、より高見へと至る。
とどのつまり巨大おたまじゃくしは、パワーアップしたサレスの第二形態?
白銀色の弾丸は効かなかったのか?
もしくは間に合わなかった?
まぁなんにせよ、非常にマズイ状況に陥ったことだけはたしかである。
「どうする? タケさん」
「……う~ん、さすがにこの展開は想定していなかったな」
「あの姿ってば、やっぱりめくりさまを食べたせいだよねえ」
「……それなんじゃが、どうにも奇妙だ」
「?」
「……儂はこれまでにも何度か同じような場面、吸血鬼が怪異を捕食して、強くなるところを目撃したことがある。だが、今回みたいなケース、まるで別のバケモノになったことなんて、ついぞなかった。話に聞いたこともない」
吸血鬼はけっこう面食いにて、美意識が高く、様式美にもかなりうるさい。
彼らにとって美と強さはイコール、だからいかに強くなるためとはいえ、醜い姿になることを是とはしない。
と、いうことはつまり……
「え~と、それってつまり、あれはサレスにとっても想定外ってこと?」
「……かもしれん。というか、まだサレスの意識が残っているのかも疑問だな」
「んんん? じゃあ、逆にめくりさまに取り込まれたの?」
「……いや、それともちょっと違うような――むっ、いかん、逃げろアキ坊!」
僕を押しのけた直後、タケさんの体が吹き飛ぶ。
巨大おたまじゃくしの仕業だ。シュルルとのびてきたの長い舌で殴られたのである。
もしも庇われなかったら、ふたりまとめて薙ぎ払われていただろう。
でも、これによりわかったことがひとつある。
それは……サレスの意識があるなしに関係なく、撃ち抜かれた恨みだけはしっかりと残っているということ。
一斉にニィと細める無数の目たち。
瞳にありありと浮かぶのは、邪悪な嗜虐心。
やはり目は口ほどに物を言う。
巨大おたまじゃくしは、僕たちをあっさり食べない代わりに、しっかりと仕返しをするつもりなのだ。散々に嬲ってオモチャにする気マンマン。
僕は後方をちらり。
舌の一撃を受けて飛ばされたタケさんがうずくまっている。肩が微動しているので息はしている、死んじゃいない。
のし、のし、のし。
微かな振動とともに絶望がこっちに近づいてくる。
ダメ元で散弾銃をぶっ放してみるも、効果はまるでナシ。
玉はきちんと着弾したが、当たったはしから体内にちゃぷんと沈む。たちまち取り込まれてしまって、僕は「マジかよ!」と絶句する。
「げぇげぇげぇげぇ」
大口を開けて嘲笑う巨大おたまじゃくし、その姿のなんと憎たらしく醜怪なことか。
タケさんがやられ、武器も通じない。もはや打つ手はない。
そんな僕の顔をベロン、奴の長い舌が舐めた。
ザラリとした感触は猫のものにちょっと似ているかも。いや、コレといっしょにしたら猫に失礼か。
なによりも参ったのが、鼻がひん曲がりそうな口臭である。どろりねちゃりとした黄ばんだ唾も不快にて、猛烈な吐き気を催す。
瞬間、ふと僕が思い出したのが「山羊責め」という刑罰のことであった。
メエメエと鳴く山羊に、罪人の足の裏をひたすら舐めさせるだけの刑なのだが、こちょこちょくすぐるだけなのかとおもいきや、さにあらず。山羊の舌はざらざらしており、舐め続けるうちに皮膚が破けて、血が流れる。でもって、山羊は血をもベロベロ舐めるので、じきに肉が削げて、ついには骨まであらわとなり、じょじょに体が削り取られていく……
もちろん麻酔なんてものはない。
まさに地獄の責め苦にて、どれだけ泣き喚こうとも止めてくれない、死ぬまで続くというのだから恐ろしい。
――ひょっとして、僕もペロペロされてしまうのだろうか?
ゾゾゾ、恐怖のあまりガクガクと膝が震えた。
とても立ってはいられず、へなへなと座り込みそうになる。
もう何もかも諦めて放りだしたい誘惑に駆られる。
でも、その時のことであった。
巨大おたまじゃくしに異変が起きた。
急にブルブルし始めたとおもったら、ドッタンバッタンとし始め、ついには地面をゴロゴロのたうつ。
「な、何なんだよ? もしかして苦しんでるのか?」
あんまりにも食い意地を張り過ぎて、腹痛でも起こしたのか。
そりゃあ、あんだけ悪食にドカ喰いをすれば、ねえ。
けれども、チャンスだ。
僕は巨大おたまじゃくしが身悶えしているうちに、なけなしの勇気を振り絞っては駆け出した。
向かうは倒れているタケさんのところである。
もはやこれまで! 老狩人を回収して、すみやかに撤退する。
さすがにこれ以上は付き合いきれない。
というか、いくらやる気があったところで、あんなバケモノ、どうしようもない。
後の事は、タケさんが頼んだという組織の援軍とやらに任せよう、うん、それがいい、そうしよう。
というわけで、僕はタケさんを担ぎ、すたこらさっさ。
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