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029 マイムマイム

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 ちゃちゃちゃらら~♪
  ちゃちゃちゃらら~♪
   ちゃちゃちゃ、ちゃちゃちゃ♪

 マイム マイム マイム マイム
 マイム ベッサッソン
 ヘイ ヘイ ヘイ ヘイッ!
 マイム マイム マイム マイム マイム ベッサッソン

 キャンプファイヤーのフォークダンスではお馴染みのあの曲が、なぜだか僕の頭の中でBGMとして流れていた。
 ただし、歌詞はうろ覚えにつき適当、あっているのかどうかはわからない。
 歌を連想したのはきっと火事のせいであろう。
 ハハハハハ、燃~え~ろよ、燃~えろ~。
 あー、あと現実逃避であることも否めない。
 ところでずっと気になっていたのだけれども………………マイムって何? パントマイムの略か? それからベッサソンって誰?

 もうもう黒煙をあげ、囂々(ごうごう)と渦を巻き、ときにパキパキ爆ぜてはうねりながら、天へと立ち昇る巨大な火柱。
 焔が入り乱れては絡み合う。ついには館全体が劫火に呑み込まれてしまった。
 この勢いだとせっかく復活した時計塔も、すぐに焼け落ちてしまうことであろう。

 周辺ではめくりさまが大暴れしている。
 闇の中、炎に照らし出されるは血で汚れた白無垢、その袖をバサリとひる返し、自分を繋いでいた鎖を振り回しては、わらわらと群がってくる連中を薙ぎ払い、千切っては投げ千切っては投げ。八面六臂の大活躍である。あのミイラのような細い体のどこに、これほどの力があるというのか。
 猛威を振るう怪異、これをふたたび拘束しようとアルカ・ファミリア財団の黒服どもが奮闘中。
 だったらそれだけに注力していればいいものを……

 どうにかして火を消そうとする者もいれば、「不審者発見!」と熱心に僕を追いかけ回す者もいて、あちらではタケさんと冥土の頼子がなおも激しく火花を散らしていたりする。
 混乱、困惑、乱闘、血と暴力。
 みんなが浮かれて踊り狂う。
 閑古鳥の館はどこもかしこも炎上中で、アッチッチ!

  ◇

「おい、こら待て、チョロチョロ逃げるな!」
「うっさい、こっちくんな、あっちいけ!」

 まるで猫が鼠を追いかけるがごとく執拗に追跡してくる相手、あんまりにもしつこいものだから、ついに僕はキレた。
 相手が不用意に近づいてきたところで、ふり返りざまに散弾銃をズドンとぶっ放す。

 クリーンヒット!

 至近距離にて相手の顔半分が消し飛んだ。
 が、それでも倒れない。
 ばかりか「いきなり何しやがる!」と激昂して、より迫ってきた。
 傀儡ならばいまので終わっているけど、まだまだ元気ということはやはり眷属!
 眷属は準吸血鬼級の力を有す。再生力も半端なくてプラナリアばり、脳みそと心臓を破壊しても、放っておいたらじきに復活するというのだから恐ろしい。タケさんからも「やるからには挽肉にするつもりでやれ」と言われている。

 というわけで、もう一発。
 今度は心臓めがけて、死角側から狙い撃つ。
 胸いっぱいに散弾を喰らった相手は大きくのけ反り、どうと倒れた。
 でもなおもピクピクしており、はや再生が始まったもので、僕はギョギョッ!

「うわぁ、話には聞いてたけど、これほどとは……。よし、とりあえずもう一発かましとこう」

 ちゃちゃっと再装填を済まし、銃口を残っている顔の部分に近づけ、引き金をひく。
 まだ不安だったので、近くの庭木に添えられていた杭を持ってきて、「えいや」と心臓の辺りにぶっ刺しておいた。
 上からガンガン蹴りまくって、グイグイ杭を押し込み「ふぅ」
 ひと仕事終えた。いい汗かいたぜ。

「やっぱり吸血鬼といえば木の杭だな。映画で見たときには、あんなものでくたばるのか? って疑問だったけど、じつはけっこう利にかなった方法なのかもしれない。
 だって、これなら復活したはしから心臓が潰れて延々と死ぬことになるもの」

 僕は笑みを浮かべる。
 にしても油断していて助かった。
 なにせ相手は腐っても眷属だ。
 もしもまともに殺り合っていたら、僕なんてひと捻りにされていたことであろう。

「さてと、これからどうしようか。とりあえず、いったんどこかに身を潜めて――って、うわっ!」

 物騒なフォークダンスに混ざるつもりは毛頭もない。
 だから物陰にでも隠れてこっそり事の成り行きを見守ろう、とか考えていたところに飛んできたのは、新たな黒服である。どうやらめくりさまに蹴り飛ばされたらしい。
 僕はオタオタしつつも、とっさにひょいと身を引いた。
 ところへ、こう、ぐしゃっとね。
 ギューンと飛んできたとおもったら、べちゃりと顔面から落ちて、ベキリゴキリと厭な音がした。
 首の骨と腰がありえない角度に折れ曲がっており、普通ならば即死であろう。
 でも、そいつはすぐに立ち上がったばかりか、自分でひん曲がった首や腰の骨を「ふんっ」と強引に元に戻してしまった。

 ――ヤバい、コイツも眷属だ。

 だから僕はそろりそろり離脱しようとするも、運悪く目が合ってしまった。
 でもって、立ち上がった黒服はすぐ近くに転がっている、同胞の無惨な姿をもばっちり目撃したもので――

「なっ、これはキサマの仕業かーっ!」

 黒服二号、激昂。
 僕は「うひゃーっ、ごめんなさーい」と逃げ出した。
 かくして鬼ごっこの第二ラウンドが幕を開けた。


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