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028 燃える館
しおりを挟む轟っ!
メラメラと火が疾駆する。
揺らめく焔が絨毯の上を滑り、サーっと波のごとく四方へと広がっていく。
素早く床を伝い、壁をも這い登っては、すぐに天井へも達した。
「うわっ!」
自分でつけておいてなんだけど、想定以上の火勢にビックリ!
僕はおもわずのけ反った。熱波に顔を煽られ、前髪がちりちりになる。
どうやらタケさんから渡された着火剤は、ホームセンターなどで販売されているキャンプ用とは比べものにならない過激な品であったようだ。
実際に使ってみた印象では、「え~と……、もしかして、これって着火剤じゃなくて火炎放射器の燃料じゃないの?」
火炎放射器はその残虐性から、別名・悪魔の兵器とも呼ばれている物騒な武器である。
恐ろしいことに銃器天国のとある国では、なんら所持規制もなく、一般家庭用の火炎放射器すらもが売られているという。雑草や害虫の駆除に大活躍とのことだが、アレで焼き払うほどの虫って、いったい……
にしても、なんだこれ?
火の回りが早過ぎるぞ!
じゃんじゃん燃え広がっていく。
閑古鳥の館の一階部分がたちまち炎に包まれた。
この建物、防火扉やスプリンクラーなどの消火設備は皆無らしい。
しかも見た目ほど室内に気を遣っておらず、内装こそは立派だが床材や壁紙がよく燃える、よく燃える。
それなりの規模の洋館、普通は耐震性や耐火性を考えて建てるものだが、短期間の突貫工事で建てたせいか、そのあたりのことがおざなりにされているっぽい。
もしかしたらこれはあくまで仮設、村を占領後に、きちんとした拠点を建てるつもりだったのかもしれないけど。
なんにせよ、派手にファイヤーしちゃったもので、たちまち戻ってきた集団にも気づかれてしまい、当然のごとく現場は騒然となった。
「火事だ!」「いかん、サレス様が居室におられるはずだぞ」「すぐに火を消すんだ」「くそ、消火器はどこだ?」「そんなもんあるか!」「たしか裏に古井戸があったはず」「ならばバケツリレーで」「バケツはあるが数が足りん」「それよりも先にサレス様をお救いせねば」「人手が足りんぞ、村に行った連中をすぐに呼び戻せ」「留守を任せていた奴らはどうしたんだ?」「あっ! そこのおまえ、何者だ?」「きさまの仕業かーっ!」「おい、あっちで誰かが戦ってるぞ」「すわ、侵入者か」
げっ、ヤバい、見つかった!
僕はすぐに逃げようとするも、慌てるあまり足がもつれて転んでしまう。
追っ手が迫る。
あっという間に距離を詰められた。
こちらを捕まえようと、のびてくる手。
背負っていた銃を構える余裕もない。尻もちをついている僕に出来たことは「ひぃ」と叫んで、亀のように首をすぼめることぐらいであった。
だが、のびてきた腕が唐突に消えた。
やったのはめくりさまであった。
火事の混乱のさなか、わずかに緩んだ監視と拘束、その間隙を突いてめくりさまが動く。身に絡みつく鎖の一本を無造作に掴んだとおもったら、ブゥウゥゥゥゥン、力任せにぶん回した。
驚いたのが、その鎖の端を握っていた者たちだ。
三人がかりにて押さえていたのだけれども、これによりふたりがふり払われた。なおも暴れる鎖、しがみつき必死にこらえていた残りの者の体が高らかに宙を舞う。
そのまま叩きつけられ吹き飛ばされたのが、先ほど僕へと迫っていた腕の持ち主という次第。
おかげで僕は助かったものの、安堵している時間はなかった。
なぜなら薙ぎ払われたものが、他にもあったからである。
メキメキメキメキメキ……
まるでホテルのように豪奢な庇(ひさし)を持つ玄関ポーチ、それを支える二柱がまとめてスコンとへし折られたもので、支えを失った屋根が崩れて落ちてきた!
下敷きになったら、ぺちゃんこである。
「うひゃあ~」
僕は情けない声をあげてはこけつまろびつ、その場から逃げ出した。
それに遅れることほんのわずか。
ドシンと落ちた庇、ひょうしに半開きであった玄関の大扉も倒壊する。これにより建屋内部へと、いっきに風が送られることになる。
とどのつまりは、落ちた庇が鞴(ふいご)の役割りを果たしたということ。
これにより火の勢いがますます増した。
風を得て紅蓮が猛り踊る。
その一方でめくりさまの逆襲が始まってしまい、閑古鳥の館の正面入り口付近は、狂ったような騒ぎとなった。
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