村事変 ― 僕の生まれ育った村がえらいことになったんだけど……この話、興味ある?

月芝

文字の大きさ
上 下
28 / 55

028 燃える館

しおりを挟む
 
 轟っ!

 メラメラと火が疾駆する。
 揺らめく焔が絨毯の上を滑り、サーっと波のごとく四方へと広がっていく。
 素早く床を伝い、壁をも這い登っては、すぐに天井へも達した。

「うわっ!」

 自分でつけておいてなんだけど、想定以上の火勢にビックリ!
 僕はおもわずのけ反った。熱波に顔を煽られ、前髪がちりちりになる。
 どうやらタケさんから渡された着火剤は、ホームセンターなどで販売されているキャンプ用とは比べものにならない過激な品であったようだ。
 実際に使ってみた印象では、「え~と……、もしかして、これって着火剤じゃなくて火炎放射器の燃料じゃないの?」
 火炎放射器はその残虐性から、別名・悪魔の兵器とも呼ばれている物騒な武器である。
 恐ろしいことに銃器天国のとある国では、なんら所持規制もなく、一般家庭用の火炎放射器すらもが売られているという。雑草や害虫の駆除に大活躍とのことだが、アレで焼き払うほどの虫って、いったい……

 にしても、なんだこれ?
 火の回りが早過ぎるぞ!
 じゃんじゃん燃え広がっていく。
 閑古鳥の館の一階部分がたちまち炎に包まれた。
 この建物、防火扉やスプリンクラーなどの消火設備は皆無らしい。
 しかも見た目ほど室内に気を遣っておらず、内装こそは立派だが床材や壁紙がよく燃える、よく燃える。
 それなりの規模の洋館、普通は耐震性や耐火性を考えて建てるものだが、短期間の突貫工事で建てたせいか、そのあたりのことがおざなりにされているっぽい。
 もしかしたらこれはあくまで仮設、村を占領後に、きちんとした拠点を建てるつもりだったのかもしれないけど。

 なんにせよ、派手にファイヤーしちゃったもので、たちまち戻ってきた集団にも気づかれてしまい、当然のごとく現場は騒然となった。

「火事だ!」「いかん、サレス様が居室におられるはずだぞ」「すぐに火を消すんだ」「くそ、消火器はどこだ?」「そんなもんあるか!」「たしか裏に古井戸があったはず」「ならばバケツリレーで」「バケツはあるが数が足りん」「それよりも先にサレス様をお救いせねば」「人手が足りんぞ、村に行った連中をすぐに呼び戻せ」「留守を任せていた奴らはどうしたんだ?」「あっ! そこのおまえ、何者だ?」「きさまの仕業かーっ!」「おい、あっちで誰かが戦ってるぞ」「すわ、侵入者か」

 げっ、ヤバい、見つかった!
 僕はすぐに逃げようとするも、慌てるあまり足がもつれて転んでしまう。
 追っ手が迫る。
 あっという間に距離を詰められた。
 こちらを捕まえようと、のびてくる手。
 背負っていた銃を構える余裕もない。尻もちをついている僕に出来たことは「ひぃ」と叫んで、亀のように首をすぼめることぐらいであった。
 だが、のびてきた腕が唐突に消えた。
 やったのはめくりさまであった。

 火事の混乱のさなか、わずかに緩んだ監視と拘束、その間隙を突いてめくりさまが動く。身に絡みつく鎖の一本を無造作に掴んだとおもったら、ブゥウゥゥゥゥン、力任せにぶん回した。
 驚いたのが、その鎖の端を握っていた者たちだ。
 三人がかりにて押さえていたのだけれども、これによりふたりがふり払われた。なおも暴れる鎖、しがみつき必死にこらえていた残りの者の体が高らかに宙を舞う。
 そのまま叩きつけられ吹き飛ばされたのが、先ほど僕へと迫っていた腕の持ち主という次第。
 おかげで僕は助かったものの、安堵している時間はなかった。
 なぜなら薙ぎ払われたものが、他にもあったからである。

 メキメキメキメキメキ……

 まるでホテルのように豪奢な庇(ひさし)を持つ玄関ポーチ、それを支える二柱がまとめてスコンとへし折られたもので、支えを失った屋根が崩れて落ちてきた!
 下敷きになったら、ぺちゃんこである。

「うひゃあ~」

 僕は情けない声をあげてはこけつまろびつ、その場から逃げ出した。
 それに遅れることほんのわずか。
 ドシンと落ちた庇、ひょうしに半開きであった玄関の大扉も倒壊する。これにより建屋内部へと、いっきに風が送られることになる。
 とどのつまりは、落ちた庇が鞴(ふいご)の役割りを果たしたということ。
 これにより火の勢いがますます増した。
 風を得て紅蓮が猛り踊る。
 その一方でめくりさまの逆襲が始まってしまい、閑古鳥の館の正面入り口付近は、狂ったような騒ぎとなった。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

海藤日本の怖い話。

海藤日本
ホラー
これは、私が実際に体験した話しと、知人から聞いた怖い話である。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

とあるアプリで出題されたテーマから紡がれるストーリー

砂坂よつば
ホラー
「書く習慣」というアプリから出題されるお題に沿って、セリフや行動、感情などが入りストーリーが進む為予測不可能な物語。第1弾はホラー×脱出ゲーム風でお届け! 主人公のシュウ(19歳)は目が覚めるとそこは自分の部屋ではなかった。シュウは見事脱出するのことができるのだろうか!?彼の運命は出題されるお題が握るストーリーの幕開けです!

処理中です...