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023 高自然放射線地域
しおりを挟む燃える村。
ごらんのありさまにて、絶賛、阿鼻叫喚中である。
このまま麓へ降りたら紛争に巻き込まれるのは必定。
「どうする?」
しばし思案してからタケさんは言った。
「……村には降りない。このまま山を迂回して、閑古鳥の館へと向かおう」
騒ぎにみなの注意が引きつけられている、いまこそ好機。
村の連中には悪いがこのまま囮になってもらって、その隙に大元を叩く。
大将首であるサレスを直接狙う。
いまならば館の関係者らも大部分が出払っており、守りが手薄になっているだろうから、侵入はたやすいはず。
なお顕現しためくりさまについては………………おいおい考えるということで。
「まぁ、こんな状況じゃしょうがないよね。僕たちが加勢したところで焼石に水だし。だったらそのほうがいいか。
ところでいまさらだけど、タケさんはめくりさまについて何か知ってる? アレっていったい何なの?」
これにタケさんは首を振る。
「……いや、儂も詳しいことは何も知らん。あそこの社についての資料は何も残っていないからな。もしかしたら郡家か柳沢家あたりに代々口伝されていたのが、失伝したのかもしれん。
入らずの森と冥穴、寺や祝い山の周辺の磁場がおかしく、高自然放射線地域であることは確認していたが、それも理由がよくわかっていない。
採取した土壌を検査機関にまわして調べてもらったが、ラジウムやトリウム、ウランなどの放射性物質が土壌中に多く含まれるわけでもなかったからな。
だが……サレスがあれを顕現させた理由については思い当たるふしがある」
同級生と恋人の裏切りにて失意の啓介、それを操りめくりさまの社を穢させたのはサレスだ。
しかも嬲るように、じっくり執拗に、わざわざ時間と手間をかけてはネチネチと。
まるで嘲笑して挑発し、めくりさまをわざと怒らせるかのようにして。
土着の信仰を否定するためにしては、やり方があまりにも異様であった。
でもその裏にはきっと何らかの意図があるはずだとは、僕もにらんでいたのだけれども。
「……吸血鬼は、それも力のある個体は他の怪異を取り込んで、より力を増し高見へと至る。サレスはアレを喰らうつもりだ」
バケモノがバケモノを食うことで、より強い怪物となる。
僕はようやく得心がいった。
ずっと疑問であったのだ。
どうしてわざわざこの地に、吸血鬼がアジトを構えていたのかが……
外界から隔絶された立地が、いろいろと都合が良かったのもあるのだろうが、おそらくは初めから冥穴やめくりさまに目をつけていたのだろう。
「……最初に目をつけたのはサレスの父親か祖父あたりであろうが、いまになって舞い戻ってきたところをみるに、あの女、相当の野心家らしい」
「野心家?」
「……そうだ。吸血鬼どもの世界は血筋による序列と力を重んじている。より強い力を求めるということは、上位を目指すということ。
もしかしたら、サレスは女王になるつもりなのかもしれん。だが……」
「他にもまだ気になることが?」
「……あぁ、ちょっとな。めくりさまが目当てなのはまず間違いないのだろう。が、本当に狙いがそれだけなのかどうか」
陸の孤島のような場所ゆえに、こっそり悪だくみをするのには適している。
パワーアップアイテムの怪異もいる。
でも、それだけだとまだ動機としては、いささか弱い――
気がするとタケさん。
伊達に吸血鬼どもを相手にして各地を転戦してきたわけじゃない。歴戦の戦士として勘が、ビンビンにそう告げているそうな。
とはいっても、ここは僻地のド田舎である。
他にあるものといえば……
「寺のうつろ舟伝説ぐらいだけど、さすがにあれはちょっと……。いまどきUFOの秘密基地とか、ねえ?」
「……だな。儂も吸血鬼や人魚は見たことがあるが、さすがに未確認飛行物体や宇宙人とは遭遇したことがない」
ハハハ、さすがにナイナイ。
僕とタケさんは、ひとしきり笑ってから動き出す。
目指すは新生・閑古鳥の館。
すべての元凶である吸血鬼を退治して、村の平穏を取り戻すのだ。
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