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022 しっちゃかめっちゃか
しおりを挟む畑で土煙をあげてはトラクターが暴走しており、進路上にいた者らを次々に撥ねていた。
やっているのは見覚えのある古参の老人である。その後部座席では妻とおぼしき老婆が襷姿も勇ましく、猟用の空気銃をぶっ放しヒャッハーしている。
ここで豆知識をひとつ。
猟銃の免許には二種類ある。
第一種が散弾銃やライフルなどの装填銃が扱える。
第二種は空気銃のみ。
パワーならば第一種、お手軽さなら第二種ながらも、じつは空気銃の方が割高だったりする。
猛る老夫婦。
その近くでは小型のショベルカーであるユンボが、長いアームをまるでゾウの鼻のように振り回しては、群がる相手を薙ぎ倒していた。
なおユンボを運転するのにも免許は必要だが、じつは私有地にて業務外の使用であれば無資格でも動かせちゃったりする。
中央広場――夏に盆踊りなどをする場所――では、ふたつの集団がにらみ合っていた。
片や鍬(くわ)や鋤(すき)を持った村人たち。
片や鉄パイプや刃物などを手にしていたのは新参者ら。
どうやら村を統括している郡家の屋敷へと徒党を組んで押しかけようとしている新参者らを、村人らが体を張って阻止している模様。
と、おもったらどちらからともなく動き出し、ついには雄叫びをあげて駆け出した。
集団同士が激突する。
アウトロー系・ヤンキー映画も真っ青、大乱闘が始まってしまった!
ひと際明るい場所へと目を向ければ、燃え盛る炎をバックにして、のびた人影が踊る。
チェーンソーや草刈り機を手にした者たちが、ギャンギャンギャン!
過激に火花を散らしては、正面から打ち合っている者らがいた。
なぜだか村の青年団のメンバー同士が争っている……仲間割れか?
ちなみに青年団とはいっているが、一番若いのが衛や啓介たちで、それ以外のメンバーのほとんどが四十代以上のいい歳をしたおっさんばかりである。
それなのに青年団と名乗っている。
芸歴十五年以上のくせして、いまだに若手のフリをしている芸人よりも図々しい。
実態はよくて中年団、下手をしたら老年団といっても過言ではない。
でも、いくつになっても少年の心は忘れないとばかりに、ハッスルしては血の雨を降らせていた。
バン、バン、ババン!
景気よく銃撃音が鳴っている。
猟のための散弾銃や空気銃とはまた違う響き。
山間部の底を這うように、段々としては細長い村、そのいっとう奥は上座地区の方から聞こえていた。
ちなみに僕の家があった場所は段々の下の方にて、下座地区と呼ばれている。
でもって、この村では上にいくほど家格が高い。
とどのつまり我が下野家の村での地位は、下の下ということ。
ついでに言わせてもらえば、六人の同級生らの家はみな中より上である。
ゆえに彼らがそうそうにカップルになり、僕だけあぶれたのは、なるべくしてなったようなもの。
もっとも僕個人に、血筋や家柄というハンデをひっくり返すだけの魅力がなかったことは否めないが……
閑話休題。
銃声がしていたのは郡家の屋敷の近くから。
見れば、こちらでも抗争が起きていた。
黒服の集団を率いて攻めかかっていたのは、円地日向子である。
最前線に立ち喜々として指揮をとっている。従っているのは、サレスの息のかかったアルカ・ファミリア財団の連中だろう。だが動きがあまりよくないので、たぶん傀儡だ。
それを籠城して迎え討っていたのは郡家側の者たち。
郡家の屋敷は立派な石垣を持ち、立派な長屋門を構えており、ちょっとした城のような威容を誇る。
しかも今時ともなれば、家の敷地や田畑のまわりには害獣対策用の電気柵や、有刺鉄線などが張り巡らされているから、防備は堅い。
立地を活かして、あの日向子相手によく奮戦している。
……といいたいところだが、あいつはいきなり僕の家を吹き飛ばすような女である。
いまはまだ様子見で、城攻めごっこを楽しんでいるだけのこと。
じきに本腰を入れたら、何をするかわかったものじゃない。
少なくとも屋敷に火をかける程度のことは、平気でやるだろう。
そうなるといっきに戦局は傾く。
中央広場での争いのカタがついて、救援が間に合えばいいのだが……
でも、こんなものはまだまだ序の口であった。
より悲惨であったのが、めくりさまの社近くである。
ここでは敵味方の区別なく、白無垢を羽織った佐奈の骸が暴れていた。
手当たり次第である。
闇夜の暗がりに乗じて躍りかかっては、無造作に相手の口に手を突っ込みベリベリめくって裏返しにする。
あいかわらずおぞましい所業。
だがそれで終わりではなかったのだ。
裏返った人体がむくり、急に起き上がったとおもったら、手近な人間へと襲いかかっては、同じようにベリベリベリベリと……
しかしこちらは本家ほど上手くない。下手くそにて手際が悪くチンタラ、モタモタやるものだから、やられる方はたまったものじゃない。頼んでもいないのに、勝手に拷問の時間がサービス延長されるのだ。
まぁ、どっちみち、裏返されたあとは同じように、誰かを襲うようになるのだけれども。めくりさまはまさかの増殖タイプの怪異であった!
着々と仲間を増やしており、村の混乱に拍車をかけている。
吸血鬼と人間と怪異による三つ巴?
村中、どこもかしこも、しっちゃかめっちゃか。
そんなさなかにあって、二ヶ所だけ静かな場所があった。
ひとつは寺である。
かつてほどの権威はなくとも、いちおうは村の信仰の中心にして、なんだかんだで重要拠点。
にもかかわらず、外の騒ぎなんぞは知ったこっちゃないとばかりに、山門を閉じている。
もっとも住職はかなり耄碌しており、耳もすっかり遠くなっている。
大声で話しかけても「あんだってぇ~?」という返しがお約束なぐらいに。
だから本当に気づいていないのかもしれないけど……
あとアルカ・ファミリア財団の連中が、ここにはちょっかいを出していないのも不思議といえば、不思議である。
もうひとつは新生・閑古鳥の館だ。
女吸血鬼のプレギエーラ・アル・サレスの牙城は、ただ静かにしぃんとそびえ立つばかり。
かとおもえば、唐突にガランゴロンと音がした。
復活した時計塔が深夜三時を告げた。
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