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019 負傷
しおりを挟む各々の戦いを制し、再会した僕とタケさん。
「……生き残ったようだな、アキ坊」
「どうにかね。で、タケさんの方は?」
「……なんとか倒した。だが、とんだナイフ遣い手だったな。アイツ……下手な眷属よりも、よほど手強かったぞ」
「ウソ、眷属って、準吸血鬼級で人間よりもずっと強いんだよね? それよりも手強いって、どんだけなんだよ」
「……まったくだ。ずいぶんと荒事に慣れているようだったし、連中に取り込まれる前に始末できたのは、むしろ運がよかった」
「それなんだけど、どうしてサレスは眷属にしなかったんだろう。だってめちゃくちゃパワーアップするんだよね? だったら、じゃんじゃん増やせばいいのに」
「……それは吸血鬼にとって眷属は特別だからだ」
血と能力を分け与えること。
それは吸血鬼にとって、たんに同族を増やすだけではなく神聖な儀式である。
寄親・寄子や主従関係よりも強固な結びつき、分身もしくは魂を分かち合う間柄のようなもの。
だから特別。
ゆえによほど気に入った相手、認めた者でないと、眷属には迎えない。
また血の相性もある。
これが合わないと眷属化は失敗し、知能の低い屍食鬼に成り果ててしまう。
そうなると逃れようのない過酷な末路が待っている。
なにせ屍食鬼は生まれながらにして、滅びへと向かっているのだから。
石化しボロボロと崩壊していく体。これを食い止めるためには死肉を貪り続けるしかないが、それでも進行を遅らせるのみ。どう足掻こうとも、いずれは塵も残さず息絶える。悲惨だ。
それに比べて傀儡はチクっと刺すようなもの。
気にせずサクサク増やせるがゆえに、吸血鬼にとってはいくらでも替えが効く。使い捨て携帯血液ボトルのようなものにすぎない。
「……吸血鬼どもはアレでけっこう選り好みが激しいからな。適合率の問題もある。あの裕次とかいうナイフ遣いの坊やは、おそらくサレスのお眼鏡にかなわなかったのだろう。ぐっ――」
会話の途中で急にタケさんがうずくまる。
押さえている右の脇腹には血が滲んでいた。
どうやらナイフで刺されたらしい。
「……なぁに、これぐらい怪我のうちには入らん」
などとタケさんは強がるけれども、とてもそうは見えない。ヒドイ汗もかいており、赤い染みはじんわり広がるばかり。
このままではダメだ、早急に手当をしないと。
かといって、ここは山奥にて。
小屋に戻るべきか? もしかしたら治療に使える道具が燃え残っているかもしれない。
あるいは急いで山を降りる――のはさすがに難しいから、タケさんをどこかに休ませておき僕だけ村へ向かい、どこぞから救急箱を拝借してくるか。
村には病院はなく医者もいないけど、そのためどこの家にも常備薬が置いてある。
手に入れることはたやすいだろう。
だから僕がそう提案するも、タケさんは首を横に振った。
「……それよりも西の洞へ。ほら、あそこだ。古いクスノキのあるところ。おまえの爺さんと三人で熊狩りをしていたときに見つけた」
「あー、憶えてる。大きな木だよね。でも、どうしてそこに?」
「……備蓄だ。もしもの時に備えて山のあちこちに隠してある。ここからだと、あそこが一番近い」
「わかったよ。だったら僕がひとっ走りして取ってくるから、タケさんは無理せずここで休んでいて」
「……すまん」
タケさんを近くの繁みの奥に隠すと、僕はひとり大クスノキへと急いだ。
◇
洞の奥にて、落ち葉に埋もれるようにして隠されてあったのは、アタッシュケースよりひと回りほど大きなサイズの軍用のハードケース。
僕はそれごと持ち帰る。
なかには救命セットも入っており、タケさんは気丈にも自分で自分の怪我の手当を始めた。
麻酔の注射はあったが使わず。代わりに痛み止めの錠剤をボリボリ、抗生物質のカプセルを水なしで呑み込む。
じゃばじゃばと傷口に消毒液を直接ふりかけ、傷口をホッチキスのお化けみたいなのでバチンバチンと閉じ、上から医療用の傷シートをべたり。
あとはサラシのように包帯をキツク巻いて、応急処置完了。
見ているこっちが痛くなってきそうな光景。
僕が目のやり場に困っていたら、治療の合間にタケさんが珍しく口にしたのは自分の昔のことであった。
「……アキ坊、じつはな。儂はこの近在の出身だったんだよ。だが、あることがあって若い頃に、この地を去った。いや、違うな。儂は何もかも放り出して逃げたんだよ」
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