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014 襲撃!

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 ヴァンパイアであるプレギエーラ・アル・サレスが率いるアルカ・ファミリア財団が村を狙っている。
 それもたしかに一大事!
 けれども、忘れてはいけないのが顕現しためくりさまの存在だ。
 あれも脅威だし、怪異だし、でもってヴァンパイアの親戚みたいなもの?
 だから僕はタケさんに社で起きたことを相談しようと、話し始めた矢先のことであった。

「――っ!」

 険しい表情となったタケさんが、やにわに立ち上がり窓辺へと移動する。
 老狩人はカーテンの隙間から外の様子を伺いつつ。

「……囲まれたか。おい、アキ坊、こいつの使い方はまだ憶えているな」

 言うなり投げて寄越したのは、壁に立て掛けてあった猟銃のうちの一丁と革製のウエストポーチ。
 銃身が横に二本並んだ水平二連式の散弾銃と弾薬盒(だんやくごう)だ。
 ちなみにクレー射撃などで使用されていタイプは上下二連式である。
 水平二連式は銃身を肩にのせると安定するので、野山では扱いやすい。そのため狩猟ではもっぱらこちらが使用されている。
 僕は狩猟免許を持っていない。
 が、猟銃は何度か触れたことがあった。
 本当はダメなのだが、中学生の頃に酔った祖父とタケさんから面白半分に仕込まれたのだ。

『なぁに、ここならちょっとぐらいドンパチしたってバレやしねえよ。それに山では何が起こるかわからんぞ。もしもの時の場合に備えて、扱い方を覚えておいても損はないだろう』

 との理由にて。
 まったくもって、その通りであった。
 山では何が起こるかわかったものじゃない。

  ◇

 ガッチャーン!

 派手に窓ガラスが割られて、投げ込まれたのは火炎瓶。
 床にぶちまけられた中身がパーッと燃え広がる。
 室内はたちまち炎と黒煙に包まれた。
 それと同時に表戸が蹴破られ、武器を手にした男が勢いよく押し入ってきたものの――

 バンッ!

 轟く銃声。
 タケさんは躊躇うことなく引き金をひいた。
 侵入者の側頭部へと突きつけられた銃口が火を噴く。
 至近距離にて散弾が炸裂、顔半分を吹き飛ばされた男はどうと倒れてビクビク痙攣するも、すぐに動かなくなった。
 それを足の爪先で小突きながら、タケさんは言った。

「……ふぅ、あっさりくたばったか。こいつはただの傀儡だな。いいか、アキ坊、よく覚えておけ。吸血鬼どもには三種類ある」

 プレギエーラ・アル・サレスのような純正の吸血鬼を筆頭に、力のある吸血鬼が己の血を分け与えた眷属、たんに血を吸われただけの傀儡の三つ。
 肉体強度、能力の高さもこの順になっている。
 純正は完全に別格にて、脅威の不死性を誇り、オオコウモリに変身したり、霧になったりなどの様々な異能をも使いこなす。
 だが傀儡にいたっては、ほとんど一般人とかわらない。だからこそ昼間でも堂々とお天道さまの下を歩けるが、ただの操り人形にて云われたことしかできない。ぶっちゃけ雑魚である。
 これが眷属ともなれば準ヴァンパイア級となり、常人とは比べものにならない強さと再生能力を得る。
 が、その分だけ吸血鬼が持つ弱点をもばっちり継承するから、じつは痛し痒し。
 ちなみに吸血鬼が苦手としているのは、太陽の光、聖水、ニンニク、十字架、銀製の武器、炎などなど。
 わりとベタである。

「……とりあえず頭と心臓を潰しとけば安心だアキ坊。そうすればいくら眷属とてすぐには動けねえ」
「それでも復活すんのかよ! ちっとも安心できねぇ!」

 プラナリアも真っ青、シャレにならない再生力であった。
 吸血鬼半端ねぇ! しかも眷属クラスでこれである。
 本家本元ともなれば、ちょっと想像もつかない。
 うぅ、とんでもないことに巻き込まれてしまった。
 こんなことならば、らしくもない里心なんぞ起こすんじゃなかった。
 もしも時間を戻せるのならばギュルギュル巻き戻したい。
 僕はとても後悔した。
 だが、のんびり弱音を吐いている時間はない。
 いよいよ小屋全体に火の手が回ってきた。このままでは生きたまま丸焼けにされてしまう。

「……よし、まずは儂が飛び出し表の連中を蹴散らす。少し間を置いてからおまえも続け。
 いいかアキ坊、くれぐれも撃つのを躊躇うなよ。それがたとえ相手が村の顔見知りであったとしてもだ。
 吸血鬼に与した時点で、そいつはもう人間じゃねえ。人の皮を被ったヒトデナシだ。
 裏切り者……人類共通の敵だ。
 あとそれから、もしもはぐれたら寺で落ち合うことにしよう。
 それじゃあ、行くぞっ!」

 タケさんは燃え盛る小屋から飛び出した。
 とたんに表では怒号が飛び交い、バンバンと銃声が続き、激しい喧騒が起こった。
 僕はそれを物陰から見送りつつ、敵勢の数や配置を確認する。
 ざっと見で十人といったところか。
 敵勢は小屋にいたのはタケさんだけだと思い込んでいたらしく、夜の森を駆ける老狩人を全員で追い始めた。
 おかげでこちらにはまったく注意を払っておらず、背後がガラ空き。
 意を決した僕は小屋から抜け出るなり、一番近くにいた敵へと駆け寄りながら、無防備に晒されているその背へと銃口を向けた。


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