13 / 55
013 老狩人
しおりを挟むハタこと細畠章太郎からの無言電話。
何日も連絡がつかない実家のこと。
ひさしぶりの帰郷、その途中の山道にて倒木のために立ち往生をしていたジープ。乗っていたのは怪しげな三人組の男女であった。
そのうちの女を乗せてのタンデム。
新参者が増えた村と、蘇った閑古鳥の館。
館のナゾの女主人に傾倒し、仕えているという郡家衛。
痴情のもつれにてハタを手にかけた脇田啓介、彼もまた女主人に命じられるままに、不可解なお勤めに従事している。
心に抱えていた闇ごと冥穴に消えた長谷部佐奈であったが、突如として白無垢を着た異形として蘇り、啓介へと襲いかかった。
命からがら現場となった境内より逃げ出すも、目前にて自宅がいきなり爆発炎上する。
挙句に撃たれて、用水路に蹴落とされた……
信じがたいことにこれらの災禍のほとんどが、わずか数時間のうちに我が身に降りかかった。
あまりにも目まぐるしく、かつ濃厚。
それらが次々と脳内にクローズアップされては、走馬灯のようによぎっていく。
悪夢に僕はうなされるばかり。
◇
ズキン――
脇腹の痛みで目を醒ます。
堅い床に敷かれているのはぺちゃんこのせんべい蒲団にて、毛布代わりにかけられていたのは熊の毛皮であった。
天井には、たくさんの乾燥した薬草類が吊るされている。
室内を照らす柔らかい灯り、壁へとのびた影、囲炉裏にて火の粉がパチリとはぜる音。
見覚えがある光景、ここは……
「……おう、気がついたかアキ坊」
まだぼんやりしている僕の顔を覗き込んだのは、角刈り頭の老人。
やはりそうか、ここはタケさんの猟師小屋だ。
僕はタケさんに自分の身に起きたこと、村の現状をすぐに報せようとするも、声がかすれてうまくしゃべれない。
「……どれ、喉が乾いているだろう? 水、呑むか」
勧められるままに、茶碗で白湯を飲ませてもらう。
喉を潤し、ひと息ついたところで、改めて自分の姿を確認すると、銃で撃たれた左脇腹だけでなく、他の傷の手当もされてあった。
「もしかしてタケさんが助けてくれたの?」
「……あぁ、用水路からおまえを拾いあげた」
「そうか、ありがとう助かったよ。もしもあのままだったら、きっと溺れていたとおもう」
「……いや、それよりもすまんかった」
命の恩人からいきなり頭を下げられて、僕は面喰らう。
「どうして、どうしてタケさんがあやまるんだよ」
「……じつはおまえの爺さんはな、ずっと儂の手伝いをしてくれていたんじゃ。おそらくはそのせいであの女に目をつけられた」
「うちの爺ちゃんが、タケさんの手伝いを? でも、それって猟のことじゃないの? それならいまさらじゃないか」
これにタケさんは首を横に振る。
「……猟といえば、たしかに猟だが、獣相手じゃない。儂の本職は吸血鬼狩りだ」
偏屈な老狩人の正体は、ヴァンパイアハンター!
吸血鬼といえば人の生き血を啜る怪物だ。
ドラキュラの映画の印象が強いせいか、ヨーロッパにルーツがあるようで、じつは世界中に似たような怪物の伝承が残っている。
アラビアのグールや中国のキョンシーなども同類とされており、日本では飛縁魔や磯女などの妖怪がこれに該当するととかしないとか。
そしてあの女……プレギエーラ・アル・サレスの正体はヴァンパイア。
衝撃の事実! よもやの告白に僕はあんぐり。
普段ならば「ははは、そんな阿呆な」と一笑に伏すところ。
でも、いまの僕はめくりさまという怪異を目撃した直後にて。
それにだ。
吸血鬼と聞いた瞬間に、ぱっと脳裏に浮かんだのは啓介の姿。
そういえばアイツの首筋には奇妙な傷跡があった。しきりに掻きむしっていたので、てっきり虫刺されが悪化したのかとおもっていたけれども、アレってまさか……
「……いまはアルカ・ファミリア財団と名乗っておるようだが、以前はまったく違う別の名前であった。あの集団を率いているのは吸血鬼どもだ。
儂は連中と敵対している組織に所属しており、与えられた任務は朽ちた洋館――閑古鳥の館を見張ることだった」
「あんなずっと放置されていた場所を見張るって、どうして?」
「……それは、吸血鬼どもが隠れ家のひとつとして建てたものだったからだ」
じつは同じような場所は、世界各地に多数存在している。
だが、吸血鬼どもは狡猾にて、ころころと拠点を変えては、なかなか尻尾を出さない。莫大な資産を有し、怪異として強力なのはもとより、時間までもが奴らの味方をする。
時の流れに対する概念が、人間とはあまりに異なっているのもやっかいだ。
いったん停滞期に入って雲隠れ、地下に潜られたらその動向を捉えることが容易ではない。
しゃくにさわるが、中長期戦は必至。
そこで組織は調査により判明した各所へ、駐在員を派遣し、ひそかに監視体制を敷くことにしたという次第。
詳しい起源は定かではないが、古代メソポタミア文明の頃より続く、吸血鬼と人間の戦い。
タケさんは言った。
「……すでに無線で応援は呼んだ。だが予想よりも連中の動きがおもいのほか速い。まさか村との軋轢があそこまで悪化していたとはな。村の奴らもあれでけっこう血の気が多いし……味方が間に合えばいいのだが」
ひさしぶりに帰郷したら、村は一触即発状態で、同級生が同級生をぶち殺していたり、めくりさまの祟りは発生するは、実家はドカンと爆散しちゃうし、ヴァンパイアやヴァンパイアハンターやらまで……
いくらなんでもイベントが盛りだくさん過ぎる!
B級どころかC級ホラー映画も真っ青の設定マシマシ、超特盛!
もしもレンタルビデオ屋で見かけたら、絶対に鼻で笑ってスルー確定レベル!
そのくせボインでセクシーなヒロインがいないとは、これいかに?
オーマイガッ!
僕は頭を抱えた。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる