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010 アルカ・ファミリア財団
しおりを挟むハタが脳天をかち割られ、佐奈は冥穴に落ちた。
痴情のもつれにより六人の同級生のうちふたりが消え、ひとりは人殺しにジョブチェンジ。
でもってよくよく話を聞いてみれば、凶事があったのは、僕のところにハタから無言電話がかかってきた日であったことが判明する。
なんてこったい!
社の境内ならば、たしかに携帯電話がギリ通じる。
衝動的かつ刹那的犯行、切迫した状況からして、とっさに助けを求めたというよりかは、何らかのはずみでたまたま電話が繋がっただけだろう。
でも、それならそれで、物音や悲鳴のひとつでも聞こえてきそうなものなのに……というか、事件が発覚していないのはどうしてだ?
いくらド田舎のこととて……いや、むしろド田舎だからこそだ。
若い男女がふつりと姿を消せば、大騒ぎになりそうなものなのに。
ふたりの親だってきっと心配しているだろう。
あっ! そういえばハタの家はすでに無くなっていたっけか。
そのことも気になってはいるが、それよりもっと気になるのが、啓介が口にしたサレスという女性のこと。
「……なぁケイスケ、その女の人って、マモルの奴もしきりにベタ褒めしていたけど、いったい何者なんだ?」
「サレスさまかい? ありゃあ、たいした御方さ。ほら、アキも知ってるだろう。マモルが村おこしに躍起になっていたのを」
「あー、そういえば、学生時代からせっせと活動していたらしいな」
村の良さを知ってもらおうと学生を招待したり、農業や林業の体験学習を企画したり、空き家をリフォームして新たな移住者を募ったり、泥田んぼでビーチバレー大会のイベントやお見合い会を開催したり……などなど。
それこそ両手の指では足りないぐらいに、いろいろ取り組む。
「うんうん、でもよぉ、結局どれもこれもその時だけで、いまいちパッとしなかったんだ。
ははは、そりゃそうさ。賢しらな若僧がちょいと思いつきをやったぐらいでどうにかなるんだったら、地方はどこも苦労しちゃいねえよなぁ。
村のうるさい連中なんて、自分たちは何もしないくせして訳知り顔で『ほれみたことか、もう余計なことをすんな』と小バカにしてよぉ。マモルの奴、ずいぶんと悔しがっていたもんさ。
でもよ……まったくの無駄ってわけでもなかったんだな、これが。
たまたまマモルの活動を知って、賛同して支援してくださる方があらわれたんだ。
それで風向きが急に変わって、とんとんびょうしに村に移住者が集まってきてよぉ」
話をしながら、啓介はしきりに首のあたりをボリボリ掻いている。
見れば、首筋に虫刺されのような傷がふたつあった。
ガマンできずに掻きむしったせいで悪化しているようだ。
「もしかして、その支援者ってのが……」
「あぁ、そうさ。サレスさまだ」
プレギエーラ・アル・サレス。
アルカ・ファミリアという財団を運営しており、彼女の高祖父――ひいひい爺さんのこと――こそが、あの閑古鳥の館を村に移築した張本人。
長らく放置されてあったのを、土地家屋一式を相続したのを機に再建したばかりか、そこを拠点にして村への移住者を斡旋している。
それだけを聞けば、悩める若者に手を差し伸べ、村への援助を惜しまない篤志家といえなくもない。
しかし衛と啓介、ふたりの彼女に対する心酔ぶりは、たんなる尊敬の念を逸脱しているようにおもえる。
僕は客商売をしていて、学んだことがいくつかある。
そのうちのひとつが「悪人ほどいい笑顔で近づき、甘い言葉を囁く」というもの。
「世の中に無償の愛、善意など存在しない!」
なんてことは言わない。
それはきっとある……はず。
あるよね? あったらいいな。
ただし、本当に存在したとして、そうそう都合よく自分のもとにはやってこない。確率はとてつもなく低い。もしも転がり込んできたとしたら、十中八九、それはよく出来たニセモノ。
まぁ、あれこれと並べ立てたが、ようは「とっても胡散臭い」ということ。
なにやらカルトめいており、移住の斡旋にしても、村の乗っ取り工作をしているようにしかおもえない。
僕がそんなことを考えていたら、啓介が「おっと、いけない。お勤めを忘れるところだった」と動き出す。
そういえば再会した直後に、そんなことをつぶやいていたような……
して、お勤めとはいったい?
何をするのかと見ていたら、啓介はやおら半壊している社へと大鉈を振るい、その周辺を適当に荒らし始めた。
てっきり外部の者の仕業かとおもっていたが、犯人はがっつり村の人間であった!
だが動機がわからない。
どうしてこんな真似を?
困惑するポンコツ探偵を尻目に、啓介は境内を穢し続けている。
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