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298 最終話 よく晴れた吉日にて
しおりを挟むパールという新たなシモベを得て、リスターナへと無事に帰還。
さすがに女神をぶっ殺してきたと公言するわけにはいかないので、対女神戦線の協力者のみに「すべて終わったよー」とだけ、こっそり連絡しておいた。
なお聖クロア教会は主神を失ったことに気づくこともなく、あいもかわらず慈善活動に勤しんでいる。まぁ、わざわざ知らせるようなことでもないし、教えられたとて、とても受け入れられはしないだろう。
それにもともと彼らが信奉しているのは、先代である女神フォークロア。
彼女は身も心も魂さえもノットガルドに捧げた尊敬すべき御方にて、この世界の住人らが崇めるにふさわしい存在。宗教団体としては、むしろそっちを拝んでいるほうが、よっぽど健全というもの。だからこのままで構わないだろう。
万が一モロモロが発覚して騒ぎになりそうなときには、ゲットしたパールを投入予定。
なにせパールは女神が自ら造りし者。
見目麗しく楚々としており、天の御使いみたいなモノなので、これで誤魔化そうと考えている。
そんなパールなのだが、早々におそろしい事実が発覚!
なんと彼女は、私生活がまるでダメな女の典型であったのだ。
そのせいで、わたしの寝室が汚部屋化しつつある。
わたしの部屋に転がり込んでは居座り続ける彼女。とにかくだらしない。
読み散らかしたまま床に山積するマンガ。ためらうことなく本のページの角を折るという鬼畜な所業。絨毯に寝転がりお菓子をむしゃこら。ポロポロとこぼれ落ちるカスなんてまるで気にしない。それどころか汚れた指先を身近なモノで拭き拭き。空になった皿や飲みかけのカップもそのまんま。ソックスやパンツ等の衣類を脱ぎ散らかし、風呂上りにはびちゃびちゃな濡れ髪と裸で、その辺を練り歩くという傍若無人っぷり。
これまで己を殺し、ひたすら耐えて、気難しい女神イースクロアに仕えてきた反動とパールは言うが、たぶんちがう。おそらくはこっちが彼女の素なのだろう。百年の恋も裸足で逃げ出す、とんだガッカリ美人さん。
いっそのこと適当に部屋を与えて追い出したいところだが、そうすると城内に一つ、確実に汚部屋が誕生する。それも魔窟級のが。
ヘンなキノコとか生えて、病原菌の温床となり、ひいてはナゾの伝染病の発生源とか、目も当てられやしないよ。
鬼メイドのアルバが毎日、せっせと部屋の片づけをしてくれているというのに、ひと晩経てば元の木阿弥。
いい加減にアルバがブチ切れそうで、わたしは内心ハラハラしている。
神の造りし者と、魔王討伐者にしておそらくは歴代魔族の中でも最強。
ガチで殺り合ったら、きっとお城どころか都一帯が消し飛ぶ。
そしてすべての賠償と監督責任がわたしに……。おぉ、なんておそろしい。想像するだけで膝がガクブル。
こうなれば、いっそのこと予定を前倒しにしてパールの身柄を聖クロア教会に押しつけてしまおうかと、目下、ルーシーと協議中である。
見上げれば澄み渡る青空。
穏やかな風を受けて、都周辺に生えている竹の葉もサラサラ仲良く歌うよ。
よく晴れた吉日にて。
本日、これより駆けつけた縁者らに見送られ、全面リニューアルを終えたパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの巨大円盤が、ふたたび故郷へと向けて宙へと飛び立つ。
度重なるハプニングにて、すっかりガタがきていた円盤。さすがに小手先の修理や改修では心許ないと、思い切って本格改造を施す。
その際にわたしは「いっそのこと形も戦艦タイプにしちゃおうか?」と提案するも、それは女王オハギより丁重に断られた。
なんでもパームレストの美学に反するそうな。
彼女たちにとっては円盤型こそがトレンディ。カッコいい宇宙船イコール円盤との認識。
うーむ。オハギが黄色いオッサンにベタ惚れなことといい、残念ながら、こと美意識に関してはパームレストと当方の間に、大きな隔たりを感じざるをえない。
でもそんなオハギから「リンネはけっこうイケてるコッコよ。うちにきたら、きっとモテモテコッコー」とか言われた。
えーと……、これは素直によろこんでいいのだろうか?
ルーシーに「どう思う?」とたずねたところ、青い目をしたお人形さんは無言のまま、肩を小刻みに震わせるだけであった。
前回の夜逃げするがごとき旅立ちとはえらいちがいにて、主都から大勢の住人らも見物に詰めかけており、楽団なんかも仕立てての立派な壮行会。
なにせ狂神騒動の際には、オハギ自らが陣頭指揮を執りパームレストの機動ミタラシ兵らが都の防衛に尽力したからね。リスターナの人々からすれば彼女は大恩人。そんな人物を国としても粗略に扱うわけにはいかないもの。
集まった聴衆の前でシルト王が壇上に立ち演説。パームレストと正式に国交を結ぶことを表明すると、これを祝う歓声があがる。
続いてリリアちゃんが登場。
救国の聖女が遠い異星から来た友人と熱い抱擁。
種族を超えた友愛を示し、聴衆からは熱烈な支持とともに、感動にむせび泣く声もちらほら。
女王オハギは、シルト王、ゴードン将軍や宰相のダイクさんらと固い握手を交わしてから、黄色いオッサンにリードされて円盤へと乗り込む。
楽団の音楽がいっそう華やかになり、それに合わせるかのようにして浮上した円盤がじょじょに空高く舞い上がっていく。
わたしはみんなと一緒になって、遠ざかる円盤の姿をボケっと見送っていた。
「行っちゃったねえ。なんだかんだでここまで来るのが長かった。ところでルーシー、新型の円盤だとどれくらいであっちに到着するの?」
「順調に行けば十八日といったところですかね」
「ふーん。遠いんだか近いんだか微妙な……」
わたしの発言はそこで途切れた。
なぜなら近くにいたユーリスさんがすっかり大きくなったお腹を押さえがら、急にしゃがみ込んでしまったから。
「うぅ、産まれちゃう……かも」とユーリスさん。
これには一同「えーっ!」
夫のゴードン将軍、どうしていいのかわからずに、デカい図体で妻の身を案じ周囲をオロオロ。
息子のモランくんも義父といっしょになってオロオロ。
シルト王や宰相のダイクさんらも、門外漢にて狼狽するばかり。
わたし? もちろんパールやアルバ共々、いっしょになってパニックさ。
するとリリアちゃんとマロンちゃんらが、頼りになる援軍を引き連れて颯爽と登場。
経験豊富にて熟しまくっている城のメイド軍団。役立たずな野郎どもを「邪魔だ!」と蹴飛ばし、ユーリスさんを確保。そのまま担架にのせて、すみやかに最寄りの屋内へと運んで行った。
そしてしばらくすると「おんぎゃー」という、元気な赤ん坊の泣き声。
ゴードンさんとモランくん、感極まり抱き合って号泣。
一同歓喜に沸きに沸く。集まっていた聴衆らもいっしょになって新たな命の誕生をよろこんだ。
気を利かせた楽団が祝福のメロディを奏で、壮行会は一転してお祭り騒ぎに。
「やれやれ、友人が宇宙の彼方へ旅立ったと思ったら、こんどは赤ちゃんがやってきたよ。しかも国中のみんなに祝福されるとか。この子は将来、きっと大物になるにちがいあるまい」
「そうですね。そしてそんな子どもの名付け親となられる、リンネさまも責任重大」
「!!!」
ルーシーの発言でわたしはカチンと固まった。
そういえば前にユーリスさんがそんなことを言っていたような……。
なんという難問。かつてないピンチを前にして、わたしはダラダラと流れる冷や汗を止められない。
―― わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。(完) ――
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