わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
291 / 298

291 いつもの景色からの

しおりを挟む
 
 屋台で買った串焼きをかじりながら歩いていると、子どもたちの歓声が聞えてくる。
 孤児院に併設された運動場にて、元気に駆けまわるチビッコたち。そこに混じっている魔族の子の姿もあった。第十氏族ランショウのみなしごキリムくん。いまはエタンセルさんのところでお世話になっている。
 種族の壁なんぞ関係なく、仲良く遊ぶ子どもたち。ノットガルドの未来は知らないが、少なくともリスターナの未来は明るい。
 眺めているだけで胸のあたりがほっこり温かく。
 自然と零れる笑み。
 するといきなり背後から肩をトントンと叩かれた。
 ふり返れば、そこにいたのは揃いの制服を着た施設の警護の面々。

「すまないが少し話を聞かせてくれないかな。子どもたちを眺めながら、ニヤニヤしているヘンな女がいるとの通報が入ってね」

 日頃から不審者対策に余念がない彼ら。見事なチームワークによって、すかさず囲まれ逃亡失敗。
 詰所にしょっ引かれたわたしは、知った顔があらわれるまで、こっぴどく絞られた。
 おかしいな。わたしは施設を開園するのに貢献した人物として、シルト王やリリアちゃんらといっしょに肖像画となって、院長室の壁に飾られてあるはずだというのに。
 そのことを説明し、誤解を解こうとするも「見え透いたウソをつくな」と聞いちゃくれない。
 なおもわたしが「ウソじゃない」と強固に主張すると、警備員の一人がしぶしぶ院長室にいって肖像画をとってきた。
 飾られてあったという絵を見て、わたしは愕然となる。
 そこに描かれてあったのは、盛りに盛られたまるで別人の姿。
 どうやら画家がモデルとなったわたしのガッカリ具合を前にして、目いっぱいに気を利かせた結果、このような悲劇が発生してしまったらしい。
 当然ながら、警備員たちにとっては子どもたちの救世主であり、慈悲深き乙女リンネとは肖像画の中で微笑む美少女との認識。
 優しさや気遣いが、時として仇となる。
 結局、二時間近くもよってたかって「ダメだよ。いくらモテないからって、小さい子にちょっかいを出しちゃあ」なんぞと懇々と説教をされ、外出していた院長さんが帰ってきたことでようやく解放された。

 土下座せんばかりの勢いの謝罪には「気にしてないからー。悪いのは絵描きだし。むしろアレぐらい用心してくれた方が、わたしとしても安心だしね。これからも子どもたちをしっかり守ってね」と答え、一同から見送られて、施設をあとにする。
 えらい目にあったので、気分転換にカフェに立ち寄り、テラス席にて腰を下ろす。
 お茶を飲みながら、スマートフォンっぽい通信端末にてギャバナのライト王子に「ちょっと聞いてよー」とグチっていたら、「オレは忙しい。今度しょうもないことで連絡してきたら、メローナとアキラをそっちに送り込む」と脅された。
 トラブルメーカーの末妹とその彼氏。あんなバカップルをリスターナに放たれてはたまらない。わたしは全力でペコペコ頭を下げた。
 人知れずリスターナ存亡の危機を救ったわたしが、「ふぅ」とひと息ついていると、向こうからパームレストの女王オハギと黄色いオッサンが腕を組みながら歩いてくる。
 狂神の一撃を貰った円盤は、あちこちガタがきて再修理中。
 何げに声をかけたら、そのまま相席されて流れのままにお茶とケーキをおごらされた。

「ははうえサマー、ごちなり」「リンネ、ごちそうさまコッコ」

 喰うだけ喰うとさっさと席を立ち、デートに戻る二人。
 ムカついたので、コバンザメのごとくついて行き二人の世界を邪魔してやろうかとも考えたが、あまりの惨めさに枕をだぼだぼに濡らしそうなので止めた。
 わたしが憮然としていると、そこにひょっこり顔を出したのはルーシー。

「お待たせしました、リンネさま。準備完了です。いつでも行けます」
「そう。じゃあ、とっとと行って、ちゃっちゃと済ませちゃおうか」

 亜空間経由にて、宇宙戦艦「たまさぶろう」へと乗り込む。
 わたしたちはこれから少しばかり遠出をする。
 何処へ? もちろん麗しの女神イースクロアさまのところへさ。
 パームレストから提供された高度な観測技術および、星間移動を可能にする超長距離転移技術。これに自分たちの魔導技術を駆使し、先の狂神ラーダクロアとの決戦において収集されたデータをもとにして、ついに女神さまの居場所を特定することに成功。
 かつてはアリと巨象どころかクジラ以上もの差があった、わたしたちと女神イースクロア。
 しかしラーダクロアを下したことによって、わたしはゴッドスレイヤーの称号を得た。
 かつてラーダクロアが殺した七人の神々。その分の経験値もごっそりいただいたので、最早、見た目は変わらずちんちくりんでも中身は別物。
 そして主人が大幅にパワーアップしたので、ルーシー、富士丸、たまさぶろう、三つのシモベたちもとんでもパワーアップ。かつてないパワーインフレを起こしており、特大フィーバー状態。
 ぶっちゃけ「いまならば、タコ殴りにできる」との判断から突撃をすることに決めた。
 勝てると踏んだから撃って出るとか、ちょっとカッコ悪くない?
 例え敵わない相手だとしても、愛と努力と友情で立ち向かってこその主人公だろ?
 ノンノン。だって、わたし、ヒーローじゃないもん。なによりヒロインらしい扱いを、これっぽっちも受けてない。改めて思い返してみても、アレやコレやソレやと、けっこうヒドイ目にあっている。
 だから知ったこっちゃねえ。
 というわけで、「突撃! 女神のお宅訪問」を敢行します。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...