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291 いつもの景色からの
しおりを挟む屋台で買った串焼きをかじりながら歩いていると、子どもたちの歓声が聞えてくる。
孤児院に併設された運動場にて、元気に駆けまわるチビッコたち。そこに混じっている魔族の子の姿もあった。第十氏族ランショウのみなしごキリムくん。いまはエタンセルさんのところでお世話になっている。
種族の壁なんぞ関係なく、仲良く遊ぶ子どもたち。ノットガルドの未来は知らないが、少なくともリスターナの未来は明るい。
眺めているだけで胸のあたりがほっこり温かく。
自然と零れる笑み。
するといきなり背後から肩をトントンと叩かれた。
ふり返れば、そこにいたのは揃いの制服を着た施設の警護の面々。
「すまないが少し話を聞かせてくれないかな。子どもたちを眺めながら、ニヤニヤしているヘンな女がいるとの通報が入ってね」
日頃から不審者対策に余念がない彼ら。見事なチームワークによって、すかさず囲まれ逃亡失敗。
詰所にしょっ引かれたわたしは、知った顔があらわれるまで、こっぴどく絞られた。
おかしいな。わたしは施設を開園するのに貢献した人物として、シルト王やリリアちゃんらといっしょに肖像画となって、院長室の壁に飾られてあるはずだというのに。
そのことを説明し、誤解を解こうとするも「見え透いたウソをつくな」と聞いちゃくれない。
なおもわたしが「ウソじゃない」と強固に主張すると、警備員の一人がしぶしぶ院長室にいって肖像画をとってきた。
飾られてあったという絵を見て、わたしは愕然となる。
そこに描かれてあったのは、盛りに盛られたまるで別人の姿。
どうやら画家がモデルとなったわたしのガッカリ具合を前にして、目いっぱいに気を利かせた結果、このような悲劇が発生してしまったらしい。
当然ながら、警備員たちにとっては子どもたちの救世主であり、慈悲深き乙女リンネとは肖像画の中で微笑む美少女との認識。
優しさや気遣いが、時として仇となる。
結局、二時間近くもよってたかって「ダメだよ。いくらモテないからって、小さい子にちょっかいを出しちゃあ」なんぞと懇々と説教をされ、外出していた院長さんが帰ってきたことでようやく解放された。
土下座せんばかりの勢いの謝罪には「気にしてないからー。悪いのは絵描きだし。むしろアレぐらい用心してくれた方が、わたしとしても安心だしね。これからも子どもたちをしっかり守ってね」と答え、一同から見送られて、施設をあとにする。
えらい目にあったので、気分転換にカフェに立ち寄り、テラス席にて腰を下ろす。
お茶を飲みながら、スマートフォンっぽい通信端末にてギャバナのライト王子に「ちょっと聞いてよー」とグチっていたら、「オレは忙しい。今度しょうもないことで連絡してきたら、メローナとアキラをそっちに送り込む」と脅された。
トラブルメーカーの末妹とその彼氏。あんなバカップルをリスターナに放たれてはたまらない。わたしは全力でペコペコ頭を下げた。
人知れずリスターナ存亡の危機を救ったわたしが、「ふぅ」とひと息ついていると、向こうからパームレストの女王オハギと黄色いオッサンが腕を組みながら歩いてくる。
狂神の一撃を貰った円盤は、あちこちガタがきて再修理中。
何げに声をかけたら、そのまま相席されて流れのままにお茶とケーキをおごらされた。
「ははうえサマー、ごちなり」「リンネ、ごちそうさまコッコ」
喰うだけ喰うとさっさと席を立ち、デートに戻る二人。
ムカついたので、コバンザメのごとくついて行き二人の世界を邪魔してやろうかとも考えたが、あまりの惨めさに枕をだぼだぼに濡らしそうなので止めた。
わたしが憮然としていると、そこにひょっこり顔を出したのはルーシー。
「お待たせしました、リンネさま。準備完了です。いつでも行けます」
「そう。じゃあ、とっとと行って、ちゃっちゃと済ませちゃおうか」
亜空間経由にて、宇宙戦艦「たまさぶろう」へと乗り込む。
わたしたちはこれから少しばかり遠出をする。
何処へ? もちろん麗しの女神イースクロアさまのところへさ。
パームレストから提供された高度な観測技術および、星間移動を可能にする超長距離転移技術。これに自分たちの魔導技術を駆使し、先の狂神ラーダクロアとの決戦において収集されたデータをもとにして、ついに女神さまの居場所を特定することに成功。
かつてはアリと巨象どころかクジラ以上もの差があった、わたしたちと女神イースクロア。
しかしラーダクロアを下したことによって、わたしはゴッドスレイヤーの称号を得た。
かつてラーダクロアが殺した七人の神々。その分の経験値もごっそりいただいたので、最早、見た目は変わらずちんちくりんでも中身は別物。
そして主人が大幅にパワーアップしたので、ルーシー、富士丸、たまさぶろう、三つのシモベたちもとんでもパワーアップ。かつてないパワーインフレを起こしており、特大フィーバー状態。
ぶっちゃけ「いまならば、タコ殴りにできる」との判断から突撃をすることに決めた。
勝てると踏んだから撃って出るとか、ちょっとカッコ悪くない?
例え敵わない相手だとしても、愛と努力と友情で立ち向かってこその主人公だろ?
ノンノン。だって、わたし、ヒーローじゃないもん。なによりヒロインらしい扱いを、これっぽっちも受けてない。改めて思い返してみても、アレやコレやソレやと、けっこうヒドイ目にあっている。
だから知ったこっちゃねえ。
というわけで、「突撃! 女神のお宅訪問」を敢行します。
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