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288 残機十六
しおりを挟む特攻、自爆。
特攻、自爆。
特攻、自爆。
特攻、失敗。
特攻、誤爆。
再特攻にて、やっぱり自爆。
成功と失敗を適度に繰り返しつつ、気づけば滅びのリンネネックレスの残機が二十四にまで減っていた。
狂神ラーダクロアは、ルーシーの予想をはるかに越える耐久性を示す。当初予定していた十五回どころか、三倍を超えてさえなお、ウゴウゴと蠢くタフさ。猛る烈女の柴犬頭が野生のオオカミのソレに見えたほど。
ルーシーの表情にも焦りの色が見え隠れ。
でも、残機が十七となったところで、ついに終焉が訪れる。
それはあまりにも唐突であった。
何度吹き飛ばされようとも、ゆらりと立ち上がっていた柴犬頭。その動きがピタリと止まり、カラダが固まる。
彫像と化したラーダクロアはそれきり、ウンともスンとも言わなくなった。
わたしたちは油断することなく、これをとり囲んでは、遠目より眺めて様子をうかがう。
「やったかな?」
つぶやいたわたしはかなりグッタリしている。主に精神的疲労の蓄積によって。なにせ人間爆弾となり「宇宙誕生!」みたいな景色の中心にて、ずっと悲鳴を叫び続けていたものですから。
「どうでしょうか。なにせこちらの予想をことごとく超えてきた相手です。ひょっとしたら休憩もしくは充電中という可能性も」とはルーシー。パカっと割れて中から新形態が登場とか、恐ろしいことまで口にするお人形さん。
わたしは右薬指式ライフルにて狙いを定めると、これを放つ。
銃弾はラーダクロアの左肩のつけ根に着弾。
彼女の巨体からすれば針でブスリと突きさした程度のモノ。
だというのに、たちまち周辺に細かなヒビが走り、大きな亀裂となって肩が砕け、ついには狂神の左腕がぼとりと落ちた。
地面に落ちた左腕がゴトリと鈍い音を立てる。落下の衝撃により崩れて、大小いくつもの破片となった。
それでもラーダクロアは微動だにしない。
ふむ。さしもの狂神も、あれだけボンバーされまくったので、ついに死んでしまったようだ。
「やれやれ、ようやく終わったか……」
とたんにチカラが抜けて腰砕けになる。わたしはへにゃんと倒れそうになった。
そんなわたしに背後から手を差し伸べて、支えてくれたのはルーシーズの面々の小さな手。
みんなも疲れているはずなのに、そのやさしさが心に染みた。
グスンと涙ぐみ、「世話をかけてすまないねえ」と言ったら、いきなりわたしのカラダはルーシーズたちによって、またしてもワッショイと担がれる。
「ひょっとして勝利を祝って胴上げでもしてくれるの? べつにそんな気を使ってくれなくてもいいのにー」
なんぞと照れながら、内心、満更でもない。
でもこれはわたしの早とちりであった。
なにせ我が身は高らかと空を舞うことなく、紫色の球の中へポイっと放り込まれたから。
あれ?
そして青い目をしたお人形さんはこう言った。
「念のために、もう一発おみまいしておきましょう。では、あんじょうおきばりやす」
ルーシーが発したエセ京都弁。微妙にイントネーションがおかしく、イラっとするそいつを合図に、非情にも走り出す八つの球。
すかさず活動を止めたラーダクロアにペタペタ張りつき、まばゆい閃光を放つ。
そして第四の亜空間は虚無に満ち充ち……、以下略。
残機十六にて、どうには狂神ラーダクロアの討伐に成功。
それでもって直後に、わたしはパタリと倒れた。
大古の時代、七人の神を屠り、七つの世界をも滅ぼしたというラーダクロア。
これを倒したことにより、かつてないほどにガンガンと鳴り響くのはレベルアップの音。
頭の中がえらいことにっ!
どれくらいたいへんなことになっているのかというと。
勇壮なふんどし姿の男たちが汗だくになり、肌から湯気を立てながら、こぞってお寺の梵鐘をオラオラ叩きまくっていたら、そこに世界一のドラマーが乱入。長い髪を振り乱しながら見事な魂のビートを刻む。
「ヒャッハー」と叫びながら「パラリラパラリラー」
オレたちも混ぜろと爆音を連れて暴走族が押し寄せる。
すると反対側から素肌に皮ジャン、ノーパンジーンズ姿にて男臭むんむんの大型ハーレーバイク軍団がやって来て、抗争が勃発。
それを見物していた外野のオバちゃんたちが「いいぞ、そこだ! もっと剥いてしまえ」と大興奮。わめきながらツバを飛ばし、乱痴気騒ぎに興じている。
そしてその乱痴気騒ぎの中に、自分の母親が混じっている姿を目撃してしまった。そのときの衝撃たるや筆舌にしがたく……。
と、まぁ、イメージとしてはこんな感じ。
これと並行して全身の骨が砕けるどころか、細胞のすべてがハジけるかと思われるような激烈な痛みまでもが発生。
かつて経験したことがない事態が、次々に我が身を襲う。
これを受けて健康スキルが「このままではマズい」と判断したのか、意識をシャットダウンした模様。
「うぅ、そんな機能があるのなら、もっと早くに使ってほしかっ……たぜ。ガクリ」
ボヤきつつ、わたしの意識は深い闇の底へとずぶずぶ沈んでゆく。
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