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287 残機九十九

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 暗闇に光が差した。
 まぶしさにおもわず手をかざし、顔をしかめる。

「うぅ、何やらヒドイ悪夢を見たような気がするよ……」

 カラダがだるい。寝起きのせいか意識がまだ朦朧としている。いまいち思考が定まらない。
 覚醒するほどにボヤけていた視界が鮮明になって、自分が置かれている状況が判明。
 なぜだかわたしはまだ球の中にいた。
 でも色がちがう。
 青色からオレンジ色の球に代わっている。

「あれ? なんで? どうして?」

 キョロキョロしながら困惑するばかりのわたしに、球の外から青い目をしたお人形さんが告げた。

「すみません、リンネさま。堕ちたりとはいえ、さすがは神。先ほどの爆発にてかなり消耗させることには成功したものの、ラーダクロアはいまだ健在。この好機を逃すと勝ち目が薄そうですので、ここは断腸の想いにて。では、行ってらっしゃいませ」

 ルーシーが「ていっ!」と蹴飛ばすなり、ゴロゴロと転がり出すオレンジ色の球。
 それに付随して他の七つの球も動きだす。
 まさかの「滅びのリンネネックレス」連投っ!
 先の天地滅殺級の大爆発にて、丘陵地帯も盆地も黒銀のヘビやら巨大クモやら異形、何もかもまとめて消し飛んでおり、第四の亜空間は一つの巨大な白い部屋のようになっていた。
 そこかしこに無数のヒビ割れやら亀裂やら欠けが入っており、爆発時の衝撃のスゴさを物語っている。
 殺風景な白の荒野を疾走するのは八つの球。
 向かう先は全身ズタボロにて、柴犬頭がトイプードルみたいにちりちりパンチパーマとなって、見るも無残な姿と成り果てているラーダクロア。
 狂神は大口を開けて、「こっちにくんな」とばかりに怪光線を連射。亜空間の壁をゴリゴリ削るほどの高出力。触れたらジュワッと溶けるか、バシュッと分解とかされちゃいそう。
 球たちは怪光線をひょいひょいとかわしながら突き進むものの、絶叫マシンの中にいるわたしはまるで生きた心地がせず、涙目にてノドがはちきれんばかりに「あんぎゃー」
 いっそのことコテっと気でも失えたら楽なのに、いけずな健康スキルがそれを許してくれない。
 すると球の内部に設置されてあるスピーカーから、聞こえてきたのはルーシーの声。

「ご安心下さい、リンネさま。球はコントローラーでばっちり操作していますので。これしきの攻撃、アカシックレコードにて数多のシューティングゲームの攻略法を読みふけった、ワタシの敵ではありません」

 自信満々なだけあって、たしかに巧みなコントローラーさばき。
 しかし、よくよく考えてみたら、それって攻略本は熟読したけど、実際には未プレイってことなのではなかろうか。すぐれた棋士は頭の中だけで対局をやってしまうというけれども、脳内ゲーマーというのはどうなの? あとどのみち最終的には爆ぜることになるから、安心もクソもないよね。
 なにより敵の攻撃をひたすらかいくぐっての特攻自爆とか、このシューティングゲームのシステムが斬新すぎるわっ!
 プレイに集中しているのか、ルーシーが何やら小声でぶつぶつ。
 スピーカー越しに漏れ聞こえてくるのは「シューティングゲームのコツは無闇に動き回らないこと」「必要最低限の動きにて、ギリギリかわす」「弾幕におびえない。惑わされない」「あわてて自分を見失わない」「だいじょうぶ。ワタシならばきっとやれる」「残機は九十九もあるんだもの。気楽にドンと行こう」とかなんとか。
 念仏のごとき不穏なつぶやきのせいで、こちとら恐怖ばかりが増していく。

 ………………うん? ちょっと待て。

 残機が九十九。
 その数イコール、滅びのリンネネックレスの在庫にほかならない。
 念のためにと用意したというには、あまりにも多すぎる数。
 第一弾を発動した際に、確かルーシーは「できればコレだけは使いたくなかった」とかもっともらしい台詞を口にしていたけれども、これって絶対にウソだよね? はなから使う気まんまんだったよね? でないとこんなに数を揃えてないよね?

「もしかして全機つぎ込む気だとか。いやいやまさか、いくらなんでも、そこまでのパワープレイは」

 おそるおそるわたしがたずねたら「さすがにそこまではしませんよ」とお人形さんは「ハハハ」と笑う。

「せいぜい十五回ぐらいで、ケリがつく計算となっておりますから」
「!!!」

 すべての存在を否定し、世界そのものを消し去るような破壊行為。
 それがあと十四回も続く予定となっていることに、わたしは愕然となる。
 なお富士丸もたまさぶろうも、ルーシーズたちも、みんな第四の亜空間の修繕補修作業に追われてとってもいそがしいそうな。なにせこれだけの惨事をもたらすエネルギー。うっかり外に漏れたら、ノットガルドがたいへんなことになっちゃうから。
 聞いてもいない裏事情まで教えてくれたところで、ルーシーの通信は切れた。
 そして第四の亜空間はふたたび虚無に満ち充ちる。


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