269 / 298
269 一番目と最凶
しおりを挟むいろんな鉱物が溶けて、ドロドロに混ざり合い、乳白色を基調として黒や茶の線が波打ち、縞模様を描いているガラスに覆われた大地。
降り立つなりピキリと足下で音がした。
わたしは気にせず歩く。
視線の先には六枚のまばゆい翼を生やしたゼニスの姿があった。
巨大な竪穴より地表へと出て、わたしが来るのを待ちわびていたゼニスが、親しい友を迎えるかのような笑みを見せる。
ゼニスに向かって、わたしは言った。
「どうしてあれほど尽くしてくれたグリューネを?」
ゼニスの命令にて各地へと赴いては、文字通りカラダを張ってまで災厄をふりまき続けていた第九の聖騎士グリューネ。アイツのせいで多くの血が流れ、どれほどの不幸が量産されたのかは想像もつかない。あの最低の女が悲惨な最期を迎えたのは自業自得。
だからとて利用するだけ利用してポイッというのは、見ていてあまり気持ちのいいもんじゃない。
「どうして、ですか……。それはあれが最善だったからですよ」
「最善って、あれのどこが?」
「ええ、彼女はどのみち助からなかったでしょう。だから『赤い心臓』へと捧げたのです。これにより彼女は死を逃れて、神の一部として永劫に仕えるという栄誉を得たのです」
もったいぶったゼニスの物言いに、わたしのこめかみ辺りがピクピク。
栄誉だなんぞと言いながら、ようは生贄にされたってこと。
すぐにでも沸点を迎えそうなところを、「フゥ」と息を吐き、いったん抑える。
だってまだヤツにはたずねるべきことがあるから。
「そう。ところであの二つの石碑が、狂った神ラーダクロアの大切な部分ってことになるんだよね?」
「その通りです。七つに分かれたカラダと二つの心臓。世界に気が満ちる時、最古の神が地上へと復活なされるのです」
「なるほど。それってつまり、あの青と赤さえ無くなれば復活うんぬん話もダメになっちゃうってことだよね」
わたしはパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、上空から雲を貫き二筋の光が姿を見せて、そのまま大竪穴へと突っ込む。宇宙戦艦「たまさぶろう」から放たれたレーザー攻撃。狙いはもちろん「青い心臓」と「赤い心臓」である。
アレが神の復活のキーパーツとなるのならば、こいつを叩き潰そうとの目論見。
しかしゼニスはいささかも焦った様子もなく、むしろニコニコ。
その余裕の意味はすぐに知れた。
狙い過たず二つ石碑を直撃したレーザー光線。
だが対象が爆ぜることはなく、光線はそのまま石碑内部へと飲み込まれてしまったのである。
「ありがとう。これでまた一歩、神の復活が早まったよ」ゼニスは言った。「苦労して回収したはいいものの、なかなか目覚めてくれなくてね。どうしたものかと困っていたのだけれど、キミのおかげでようやく起きてくれた」
その言葉の意味するところは、「アジトごと葬ろうとした攻撃が裏目に出た」ということと「アレは邪龍同様に攻撃とかを吸収して糧とするタイプ」だということ。
つまり下手に刺激するのは逆効果。
こちらがムキになってがんばるほどに相手を喜ばせるだけ。
邪龍のときは、あいつの吸収率を上回る速度でエネルギーをじゃんじゃんつぎ込んで自滅させたけれども、今度のは腐っても神。過去の凄まじい暴れっぷりからして、なんとなくだけど底なしのウワバミのような気がする。
これと呑み比べ勝負とか、正直ちょっと自信ない。
上空より次射が放たれなかったところをみると、おそらくルーシーも危険と判断したのだろう。
となれば、石碑の方はひとまず置いておいて、目の前のゼニスをどうにかするのが先決!
「ケンカは先手必勝! くたばりやがれっ!」
わたしは左人差し指式マグナムを発射。
意識が穴の底へと向いていたゼニスの額に弾丸がめり込み、頭部を粉砕。パッと血の華が咲いた。
「あれ? もしかして不意打ちが成功しちゃった」
あまりにもアッサリと片がつき過ぎて、わたしはひょうし抜け。
が、仮にもトリプルチート持ちの聖騎士どもを束ねていた首魁に、楽勝できるわけなんてあるはずもなく……。
鼻の半ばあたりから上の部分がきれいに吹き飛んでいたゼニス。
残された口元がカタカタ動き出し「やれやれ、その気になってくれたのはうれしいけれども。いささかせっかちが過ぎますね」
六枚あるゼニスの背中の翼。内の二枚が交差するように砕けた頭部を覆う。
それが解かれたとき、まるで何ごともなかったかのごとく、首は元通りになっていた。
ふつうであれば目の前の光景に慌てふためくところなのだが、自分でも不思議なほどにわたしは平然としていた。むしろ「ですよねー」といった感覚。
にしても、あの六枚の光翼がやっかいだ。
何でもかき消しちゃうだけでなく、再生能力までついている。わたしの攻撃が通じるかどうかはこれから試してみてからの判断。
それだけでなく頭をふっ飛ばされてもへっちゃらってのが難儀。
高い再生能力自体は問題じゃない。再生が追いつかないほどの攻撃を連続で叩き込めばいいだけ。問題なのはあんな状態でも意識を保って思考をし、会話をこなしていたってこと。
他の部位ならばともかく、頭を失った状態でそれを行う。
そんな器用なマネを可能にしている何かがゼニスのカラダにはある。たぶんそいつが彼の秘密。これを見つけ出さないことにはたぶん倒せない。
とはいえ、その手の脳細胞をフル回転させる分野はルーシーのお仕事。
だから分析や対策については、上空より戦いの経過を見守っているお人形さんに任せるとして、わたしがやるべきは出来るかぎりヤツの能力を引き出し、データを揃えて、丸裸にすること。
そんなわけで突撃開始っ!
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
630
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる