上 下
267 / 298

267 滅びの宴

しおりを挟む
 
 ゼニスから聞かされた話を要約すれば「姉妹たちが守ろうとした世界に対して、現管理者である女神イースクロアは、とっても複雑な感情を抱いている」ということになる。
 あと神さまの社会にもいろいろと苦労があるようだ。
 ゴミ問題で殺人事件が発生し、加害者側の家族が重い十字架を背負い、それでも懸命に生きていく。だが待ち受けていたのは更なる悲劇。
 どこまでも救いのない話。その舞台となっているのが、わたしたちが住まうノットガルドという世界。

「うわー、女神イースクロアからしたら、わたしたちの世界ってば完全に憎しみの対象じゃん」
「それと同時に、姉妹たちが大切にしていたモノでもありますから、愛しさも多少はあるのかも。いえ、あったらうれしいな? 位でしょうか」とルーシー。

 ゼニスは女神イースクロアが世界をキレイにリフォームしてくれると信じ込んでいるみたいだけど、話しを聞いたかぎりではとてもそんな生易しいことではすみそうもない。
 きっと完全に建て替える気まんまんだと思う。
 べつにそれならそれでもかまわない。
 問題は工期中、住人らにちゃんと仮の住まいが用意されてあるのかということ。

「どうおもう?」

 わたしは隣にいる青い目をしたお人形さんにこそっと耳打ち。

「どうもこうも、問答無用にて追い出されるだけですめば御の字。最悪、建物ごとグチャっと潰されて廃棄処理されてしまうのがオチでしょう」との悲観的な答え。
 うーん。女神さまの気持ちもわからなくはないのだけれども、神々の騒動に巻き込まれたこちらとしては、その煽りで滅ぼされてはたまらない。
 というか、悪いのってゴミを捨ててた連中だよね? こっちはけっこうな被害者だよね?
 こいつはどうにかして女神さまとコンタクトをとって説得を試みたいところ。
 愛憎の愛の部分をチクチク刺激したら、ひょっとしたら考えなおしてくれるかもしれない。
 などというチョコレートよりも甘々な希望を抱きつつ、連絡手段についてわたしがゼニスにたずねようとした矢先のこと。
 轟音と共に爆発が発生!
 建物全体を激しい揺れが襲い、内部を駆け抜ける爆風。
 モコモコした羊の毛のような粉塵が、津波のごとく押し寄せてはすべてを呑み込み、視界の一切がたちまち灰色に埋もれてしまった。



 リンネとルーシーが、ゼニスより女神にまつわる話を聞いていた同時刻。
 お茶会をしていた同階にある給湯室には、二名の人物の姿があった。
 給仕から戻ったグリューネ、壁をガシガシ蹴飛ばしながら「あのクソガキ、調子に乗りやがって! なぁにが『茶葉が泣いている』だよ。ムカツク、ムカツク、ムカツク」
 キーキーわめいている同胞の姿に冷ややかな視線を向けていたのは、背筋をピンと伸ばして立っている壮健の男。第八の聖騎士ジョアンである。
 ゼニスからは「警護はいらない」と言われていたのだが、ジョアンはいつでも動けるようにと自主的にここで待機していた。
 ひとしきり汗をかき、興奮が落ち着いたところでグリューネの目に入ったのは、テーブルの上に置きっ放しにされてあった箱。リボンをかけられ、キレイに包装されてあるリンネの手土産。

「そういえば今夜あたりが食べ頃の熟成ハムとか言ってたっけ。どれどれ」

 あちらの話は長引きそうだし、当分はお茶汲みの出番もない。
 そこでグリューネはリボンに手をかける。
 敵から贈られた品だと聞き、「そんなモノを不用意に開けるな」とジョアンが制止しようとするも、わずかに間に合わず。
 シュルシュルとほどかれたリボン。勢いのままに開かれた箱。
 中身を見てグリューネの目が点となる。ジョアンは険しい表情となった。
 どこからともなく聞えてくるのは「カチコチカチコチ」という音。
 そして給湯室は閃光に包まれた。



 突如として発生した爆発。
 身に覚えのあるわたしとルーシーは、そろって「あっ」と小さな声をあげる。

「グリューネのヤツめ、箱を開けやがったな」
「夜まで待てと伝えたのですが……。おおかたつまみ食いでもとか考えたのでしょう。あの女、思いのほかにいやしんぼうさんだったみたいです」
「でも開けちまったものはしようがない。こうなったら予定を早めるよ」
「了解です、リンネさま。ではこちらへ」

 ルーシーが亜空間を開け、主従そろって煙にまぎれてドロン。
 すぐさま向かったのは、上空にて待機させてあった宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋。
 わたしはどっかと艦長席に座る。
 艦橋内の大型モニターに映し出されているのは、ついさっきまで自分たちがいた岩山付近一帯の映像。歪な塔がモクモクと煙を吐いている。
 ルーシーはわたしのそばに立ち、すぐさま乗組員たちに指示を飛ばす。

「座標確認。地形、気象情報などを考慮して軌道を再計算。終了次第、ただちに北要塞より大陸弾道ミサイルっぽいロケットペンシルを発射せよ。予定通り、同時発射数は五。これを六度くり返しての波状攻撃にて、敵勢力をアジトもろとも徹底的に叩く」

 情報をとれるだけとれたら、あとはまとめて始末する。
 これがわたしたちの当初から目論んでいた計画。
 本音を言わせてもらえれば、女神との連絡方法など、もう少し絞りとりたかったのだがしようがあるまい。
 よもや、あのタイミングで箱を開けるとはね。グリューネのいやしんぼ!

 空の彼方より飛来するのは、まばゆい五つの光体。
 岩山にほぼ同時に降り立つなり、瞬時に一帯を白く染め上げ、地上に破壊の嵐を出現させた。
 炎、風、光の各々が巨大な龍となりて、まるで競い合うかのようにして大地を席巻、蹂躙し、ときには互いに相手を喰い破ろうと牙をむく。
 それは滅びの宴。
 これが少しばかり落ち着いたかと思われた頃。
 ふたたび空には五つの光体の姿が。
 狂乱の時間はまだまだ続く。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...