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263 招待状

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 リスターナの主都にて、ぶらぶら屋台をひやかしていたら、向こうから女の子が駆けてきた。
 そしていきなり「はい、これ、お届け物です」
 渡されたのは、わたし宛ての一通の手紙。
 誰からかと思えば、差出人は聖クロア教会ゼニス大司祭とある。
 びっくりして女の子に「どうしたの、これ?」とたずねたら「知らないお兄さんに頼まれた」という。
 頭からローブをすっぽりと被っており、どんな人物かはわからないらしい。
 男の姿をキョロキョロ探してみるも、すでにそれらしい人影はどこにも見当たらない。
 わたしは女の子にお駄賃を渡し「ありがとうね」と頭を撫でてから、城へと戻ることにした。
 道すがら、手紙を読む。
 中身は茶会のお誘い。簡単な地図が添えられてある。ここに来いということなのだろう。
 いやー、まいったね。聖騎士どもを束ねるボスから、じきじきに招待状をもらってしまったよ。
 一連のことよりすでに向こうには、こちらの居場所も正体もばっちり把握されてしまっているのは明白。「誘いに応じなければわかっているな?」との脅しも暗に含まれているのだろう。
 ムダに血を流さずスマートだけど、ちょっと陰険なやり口。
 自分のテリトリーに誘い込んで始末する。もしくは勧誘とかが狙いかな。
 とにかくルーシーに要相談だね。
 なんてことを考えながら帰宅したら、青い目をしたお人形さんが女主人が戻るのを部屋で待っていた。そしてわたしが口を開くよりも先に「リンネさま、以前より調べを進めておりました聖騎士どものアジトが判明しました」との報告。
 第九の聖騎士グリューネをマーキングして、ずっと彼女の動向を追っていたのだが、ちょいちょい立ち寄っている場所があり、地図上では周辺に都や街もない僻地。
 で、宇宙戦艦「たまさぶろう」にて衛星軌道上から地表を調べてみたら、なにやらそれっぽい遺跡みたいなのを発見。
 監視していたら、第一の聖騎士ゼニスらの姿も確認できた。

「あらま、まるで示し合わせたかのようなタイミングだこと」
「どういった意味でしょうか」

 怪訝そうな表情を浮かべるルーシーに、わたしは招待状を渡す。
 手紙にざっと目を通し「なるほど。判明したアジトの座標と地図の場所が一致しておりますね」とルーシーは頷き「して、いかがなさいますか、リンネさま」

 今後の方針について、わたしはしばし熟考。
 対策その一。
 のこのこお茶会なんぞには足を運ばずに、問答無用で攻撃。幸いなことに周辺一帯に人家はないので、まるっと地域ごと焼き払う。
 対策その二。
 手土産持参で出かけて、いちおう相手の話を聞く。女神の真意とか、彼らの目的とか、気になる点も多々あるし、情報を引き出すだけ引き出してから、やはりまるっと地域ごと焼き払う。
 対策その三。
 話してみて意気投合したら、ガッチリ握手。昨日の敵は今日の友。
 人生、ときには妥協と打算も必要。主義主張なんぞクソくらえ。しょせんは生きるための方便さ。

 うーむ。
 さすがにその三は却下だね。ぬるっと水に流すには悪行が過ぎる。とっくに詰まって汚物が溢れてかえっているもの。
 となれば、残るは二つ。手っ取り早いのはその一だけど、吹き飛ばした途端に危険な物質が拡散とか、呪染拡大とかに繋がったら困るなぁ。連中がウインザム帝国で手に入れた「青い心臓」とかいう石碑。アレってばなんだかゾワゾワして、とってもイヤな感じがしたんだよねえ。
 味方になったフリをして内部に潜入し、内側からじわじわ喰い破るという手もあるけれども、これまたたいそうな手間がかかるので、めんどうくさい。
 やはりここは対策その二にアレンジを加えるのが無難か……。

「うし、決めた! とりあえず誘いに応じてみよう。ただし先方に出向くのはわたしとルーシーのみ。主要メンバーらにはいつでも動けるよう準備を整えて待機してもらい、残りはリスターナ及び周辺の警護をお願い。もしかしたらこちらを誘い出して、その隙に悪さをするつもりかもしれないから。あとはキレイな箱をひとつとリボンも用意して。大きさは、これぐらいかな」

 わたしが指示したサイズは、ちょうどワインのビンが一本すっぽり収まるほどの品。

「箱とリボン?」

 首をかしげる青い目のお人形さんに、わたしはにへらと笑みを浮かべて「なぁに。ちょいとした手土産でもと思ってね」

 言いながらわたしは自身の左腕、ヒジあたりを掴むとチカラを込めて、これを内側にグイっとひねる。
 するとカチリと音がして、ヒジから先がスポンと抜けた。
 こいつはタイマー機能付きの爆弾。
 なにを隠そう、わたしの四肢はこのように取り外すことで、強力な爆弾と化すのである。
 とはいえ精神的にもビジュアル的にもかなりインパクトがある姿にてキツイから、これまで封印していた。うっかりリリアちゃんとかに見られたら、きっと卒倒させちゃうだろうし。けれどもここにきて解禁へと踏み切る。
 なぜなら「文字通りの手土産」というダジャレを実現するために。

「笑いのためにカラダを張るとは、なんておもしろい……、いえ、なんておそろしいことを」

 そう言いながら、いそいそとわたしの左腕をさっそく用意した箱に入れて、キレイにラッピングを施すルーシーも、うきうき楽しそう。
 お土産を貰って「なにかなぁ」と開けてみたら女の腕がゴロリ。
「なんじゃこりゃー!」とパニックになっていると、どこぞより「カチコチカチコチ」と音がする。
 で、チュドン! と盛大に爆ぜる。
 なんてステキなサプライズ。きっと愉快なことになること請け合いにて、主従はそろってニヤリと笑う。
 なお取れた腕は、板チョコを二枚も食べれば、すぐにひょっこり復活するので、心配ご無用である。


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