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257 お花見

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 リスターナ城の自室リビングにて。
 ソファーに寝転がって天井をぼんやりと眺めていたら、シミをみつけた。
 五枚の花びらがパッと咲いた模様っぽくて、どことなく桜の形に似ている。
 こいつをじーっと見つめていたら、わたしは唐突に「花見でどんちゃん騒ぎ」ということをひらめいた。
 竹姫ちゃんの静謐に満ちた竹林にて、しっとりまったり過ごすのもいいけれども、たまにはハメをはずしたい。

「いつもいつも、これでもかってくらい、盛大にはずしまくっているじゃありませんか」

 青い目をしたお人形さんのジト目による冷静なツッコミは聞こえない。リンネちゃんの耳には自分にとって都合の悪い情報を遮断する便利機能が備わっているのだ。
 手足をバタバタさせながら「お花見がしたいよー」と駄々をこねたら、いつの間にやら部屋に潜り込んでいたカネコもいっしょになって「なんのことだかよくわからにゃいが、とにかくしたいにゃー」と腹を見せ手足をバタバタ。
 これにはルーシーもタメ息にて「しようがありませんね。お花見といえば桜でしたか……。たしか似たような花がノットガルドにもあったはずですから、さっそく手配しておきましょう」と言ってくれた。



 青空を流れる白雲が柔らかな綿毛のよう。
 風は穏やかにて、ほどよい陽気の吉日。
 ところはリスターナ城、敷地内にある運動場の片隅にて。
 ついにお花見が開催された。

 目にやさしい淡いピンク色の花びら。
 漂ってくるのは、ほのかに薫る甘い香り。
 おもわず鼻がヒクヒクしちゃう。
 眺めているだけで、ほわんと心が和んでくる。
 だからついフラフラと近づこうとしたら、「キシャー!」と吠えられた。
 奇声を発し、激しくこちらを威嚇してくるのは植物型モンスター「ムシャコラ」
 死体でも吊るされていそうな不気味な古木のテッペンに、でっかい艶やかな桜の花をのせたような容姿。甘い香りで獲物を引き寄せては、うねうね動く枝や根をムチのように操り捕獲。本来であればメシベなどがあるはずの花の中央部分には、肉厚な唇にやたらと歯並びのいい大きな口があって、手に入れた獲物をパクリ。ムシャコラぱりぽりと小気味よい咀嚼音を鳴らしながら食べてしまう。
 ただし、わりと食の選り好みがうるさいらしく、やせっぽちな小娘なんかはお断りにて「おまえなんてお呼びじゃねーよ」と邪険に扱われる。
 お花見がしたいと言ったら、ルーシーが用意してくれたのがコレだった……。

「ムシャコラのそばで飲み食いとか、なんたる豪気」と鬼メイドのアルバ。
「あらあら。リンネさまの元いた世界は、ずいぶんと過激だったのですね」とエタンセルさん。

 何故だかウンウン頷きながら感心している魔族母娘。
 そんなわけあるかい! と、わたしは心の中でのみビシっとツッコむ。

「せっかく花びらはキレイなのに……。あの気持ちの悪いお口で台無しなのが残念です」とリリアちゃん。

 まったくもってお姫さまの言う通り。
 と、わたしは心の内で同意する。

「でも、ムシャコラって香木として価値が高いらしいわよ。図鑑に書いてあったのを見たことがあるわ」とマロンちゃん。

 そいつはいいことを聞いたぜ。ありがとう、マイシスター二号。
 あとでキチンと処理しようとわたしは決めた。

「花びらからとれるエキスで作られた香水も高値で取引されていますね」とモランくん。

 さすがは元行商人の息子。これまたいい情報を頂いた。
 香水作りにもチャレンジしてみるとしようかな。

「うにゃー、この日のために用意したとっておきの干物をとられたにゃ!」
「そのチョコカップケーキはダメにゃ! あーっ」
「せっかくの五段お重が箱ごとやられたにゃん!」
「シッポはやめるにゃ! そこはダメにゃあぁん」
「こっちが酒の肴にされるなんて、聞いてた話とぜんぜんちがうにゃん!」
 と、カネコたちがぎゃあぎゃあやかましい。

 文句はルーシーに言ってくれ。
 わたしはムシを決め込みそっぽを向く。
 リンネちゃんイヤー機能発動中。

「なんて狂暴な生物コッコ! いきなり喰われかけたコッコ!」とはパームレスト以下略の若き女王オハギ。

 えっ! ロボ子くらげは食べようとしたくせに、なんでわたしだけ威嚇されちゃうわけ? 納得いかねーっ!

「……さてと、それじゃあボクたちは竹林庭園の庵の方に行くから。後始末はきちんと頼むよ」とはシルト王。

 美中年は宰相のダイクさんとゴードン将軍を連れて、早々に戦略的撤退。騒がしいのは性に合わないとのこと。大人たちはこぞって河岸を変えた。

「ねえ、ルーシー。せっかく用意してもらっておいてなんだけど。コレじゃない感が半端ない」

 お花見とは、花を愛でながら、命の輝きや儚さに想いを馳せつつ、宴を催し楽しい時間を過ごすイベントだったはず。
 なのにうっかり油断していると、自分が喰われかねないこの状況。
 わたしが率直な感想を口にすると、青い目をしたお人形さんは言いました。

「他にそれらしい花がなかったのですから、コレでガマンして下さい。せっかく遠方の山奥まで出向いて、わざわざ捕獲してきたのですから。存分にどんちゃん騒ぎをなさってください。さぁさぁ」

 うぅ、どんちゃん騒ぎの意味がちがう。
 そしてルーシーのこの言い草……。
 知っててやりやがったな、コンチクショーめ。
 とはいえ、ワガママを言ったのはこちらなので、文句を言えた義理でもない。
 だからわたしはイベントに参加してくれた面々に「えー、お花見は主催者都合により急遽中止となりました。その代わりといってはなんですが、本日は『桜狩り』を開催したいと思います。武器を手に奮ってご参加下さい」と告げた。


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