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254 希望を求めて
しおりを挟む青白く輝く太陽を中心にして、三つの星が均衡を保つことで成り立っていたのが、パームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロたちの世界。
三つの星が互いに押しあいへしあい、影響しあって発生する重力波をエネルギーとして活用する術を発見してからは、文明はおおいに飛躍し、長らく繁栄を欲しいままにしていた。
だがその三つの星の一つがナゾの減退現象に襲われ始めたことで、事態は急変する。
重力波に乱れが頻繁に生じ、エネルギー源の安定供給を脅かすようになったのだ。
事態を打開すべく、研究調査は続けられたものの、いっこうに成果はあがらず、時間ばかりが虚しく過ぎていく。
新たなエネルギー開発も模索されたが、そちらもイマイチ奮わず。
未来に暗雲が垂れ込め、社会に満ちていく暗鬱とした空気。
巷には終末思想が蔓延り、無気力かつ刹那的な行動に走る者が続出。その影響がムシできないほどに社会問題化。
このままではいずれ文明は衰退し、ゆるやかな死を迎えるしかない。
それでもどうにか歯を食いしばり、足掻き続けるも、そんな彼らの努力をあざ笑うかのようにして、絶望の足音がヒタヒタと着実に迫っていた。
そんな矢先のことである。
突如として、はるか彼方より飛来した雄々しい蒼い閃光が、宇宙を駆け抜けていく姿を目撃したのは!
幸いなことに星々をかすることもなく、行き過ぎてくれた蒼い閃光。
念のためにと、宇宙に漂う微かな残滓を調べて、パームレスト以下略の研究者らは仰天する。あまりのエネルギーの高密度ぶりに度肝をぬかれ、そんな危険なシロモノが自分たちのすぐそばを通過したことに、顔を真っ青にする。
だがそれと同時に希望をも見い出した。
「これだコッコ! このエネルギーを確保できたら、我々はきっと助かるコッコー!」
すぐさま情報を精査し、ナゾのエネルギーが飛んできた座標を特定。みんなの期待を一心に受けて、宇宙船が旅立つ。
その船を率いるのはパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの若き女王オハギ。
先王が持病の腰痛を悪化させ急遽退位し、即位したばかりの女王が自ら調査へと赴くと言い出したとき、もちろん周囲はこぞって反対した。
だが彼女はこう言ってみんなを説得する。
「危険は百も承知だコッコ。でも、だからこそ私が行くんだコッコ。これは希望への旅、みんなを救う旅コッコ。いま王族がカラダをはらないで、いつはるというコッコ? きっと使命を果たしてくるから、どうか自分を行かせて欲しいんだコッコー」
王位を継いだ当初は、あまりにも頼りなさげにて「このお嬢ちゃんで、オレたちの歴史、完全に終わったコッコ」とかみんなから密かに囁かれていたオハギ。
それが毅然とした態度にて、おおいなる成長をみせる。
娘の固い決意を受けて、王母らも賛同の意を示し、晴れてオハギは艦長に就任。希望の蒼光を求めて大宇宙に乗り出したのであった。
わたしことアマノリンネが寝ている間に勃発していた星間戦争。
女王オハギが巨大円盤にて、はるばるノットガルドにまでやってきた目的などをようやく聞き終える。
話しが長いよ、そして思いのほかに濃厚。
「希望を求めて旅立つ船は……って、どっかで聞いたようなフレーズだな。にしても、ソレならどうして、いきなり宣戦布告とかしちゃうわけ?」
わたしがたずねたらロボ子くらげは、手足をうにょうにょさせながら「だって、おまえたち、あちこちでケンカばっかりしているコッコ。代表もいないし、まともに話しかけるだけ時間のムダだと判断したコッコー」と答えた。
ふむ。ぐぅの音も出ない正論だな。なにも言い返せん。
もっともそのせいでルーシーたちに、寄ってたかってフルボッコにされちゃったわけだけど。母船がダメになっちゃっては、使命もへったくれもあるまい。さすがに黄昏時とはいえ、一つの星系の文明にトドメを刺したのには、遺憾と哀悼の意を表する。南無南無。
「あー、それは心配いらないコッコー。使命は無事に果たされたコッコ」
「はい?」
わけがわからずにわたしが頭にハテナマークを浮かべていると、ルーシーが「ここから先は自分が説明します」と話を引き継ぐ。
そもそもパームレスト以下略の巨大円盤が、どうしてノットガルドにある数多の国々の中からリスターナを選んだのかというと、目当てのエネルギー源を求めてのこと。
それでもって宇宙の彼方から飛んで来た奇跡の蒼い閃光というのは、かつてリンネが富士丸とともにナゾの石のひょうたん内に閉じ込められた際に、脱出しようと放った魔導砲であったのだ。夜空に浮かぶ七つの月のひとつエレジーをごっそりえぐった勢いのままに、飛んで行ったソレをオハギたちは目撃。
「えーと、つまり、彼女たちのお目当ては……」
「リンネさま、ということですね」
「おっふ、マジかよ」
「それでもって、リンネさまがお休みの間に、ワタシどもと女王オハギは互恵関係を結ぶことが決まりましたので」
「互恵関係?」
「はい。手を組んだということです。彼女たちの持つ技術には目を見張るものが多々あり、特にエネルギーを解析精査し、これを追跡、目標を探知する技術はたいしたものです。その他にも超長距離航行を可能にする転移技術なども。こちらは究極リンネ電池発電によるエネルギーの供給。あちらは技術提供。ついでに文化交流もはかり、貿易で荒稼ぎ。これにて両者はうはうはハッピーにてウインウイン」
小さな手でダブルピースを作りながらそう言ったルーシー。
話しを聞いている限りでは、確かにその通りに聞こえる。
なのだけれども、わたしはちょいと首をひねる。
そもそもアカシックレコードにアクセスできるはずのルーシーが知らない知識や技術とか、ヘンじゃね? いくらすべてが記載されてあるわけじゃないといっても、星の海を渡るほどの文明圏が記入漏れとかありえない気がする。それとも非公開領域に情報があるのかな。
が、とりあえずは……。
「仲良くなるのはいいんだけど、わたしのカラダってば、そこまでまかなえるものなの?」
「以前のままでしたら、正直ギリギリといったところでしたが、この間の戦闘でまたぞろピコピコレベルがあがりまして。リンネさまは寝ていたから気づかなかったのでしょうけれども」
そっかー、またレベルがあがったのかー。
あいかわらずたずねても、青い目をしたお人形さんはレベルがいくらなのかは教えてくれないけどね。
よもや惑星を飛び出し、星の海を越えて、異星の文明まで支えることになろうとは。
どうやら、わたしはどこまでいっても電池としての役割をまっとうすることになりそうだ。
「女王オハギの円盤はリンネ組も協力して鋭意修理中ですが、ちょっと派手に壊し過ぎたらしく、少し時間がかかりそうなので、しばらくはあのままとなりそうです」とルーシー。
当分の間、傾いた円盤が見える景色が続くことになると聞かされて、わたしはもう「あははは」と笑うしかない。
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