上 下
253 / 298

253 星間戦争・後編

しおりを挟む
 
 機動ミタラシ兵の四本の腕から射出される高出力の光の線を、右へ左へとたくみにかわすゴードン将軍。
 愛用の大剣を背に担ぎ、地を這うように一気に駆け寄る。接近したところで、突進の勢いを殺すことなくその場で身を翻し、コマのように横回転。すかさず剣を振り抜く。
 遠心力の乗った横薙ぎの一閃は六本足のひとつ、その膝関節にキレイに喰い込み切り飛ばす。返す刀でもう一撃。二本目の足をも同様に切断。
 わずかに体制を崩した機械のカラダ。だが残りの足を踏んばり転倒には至らない。
 が、姿勢制御にかかるほんのわずかな隙に、ゴードン将軍は股下をくぐり背後へ抜けていた。
 すかさず敵のカラダに手をかけて、ひらりと相手の背に飛び乗ったゴードン将軍。最上段に振りかぶった大剣にて、腰の入った袈裟懸けを放つ。
 首のつけ根から腰回りへと突き抜けた刃の一撃にて、機動ミタラシ兵を単独にて仕留めることに成功。
 この勇姿に味方より歓声があがる。
 それに応えるように高らかに剣を掲げ、ゴードン将軍は言った。

「いけるぞ! 攻撃は直線的にて単調。安定しているが、手足が多い分、互いが邪魔をして思いのほかに可動域が狭い。装甲は頑丈だが関節ならば十分に刃が通る。五人一組となって落ち着いて対処せよ。いまこそ日頃のたゆまぬ努力の成果を見せるとき」

 将軍の檄に「応っ!」と威勢のいい声が兵らよりあがった。
 なお、ゴードン将軍は「たゆまぬ努力」と控えめな表現を使ったが、そのじつ地獄のブートキャンプ。
 ただでさえ厳しいシゴキに、ルーシー式トレーニングの導入によりハードさが跳ね上がり、二刀流の剣の達人であるエタンセルを筆頭に武芸達者な魔族の加入によって、組み手が命懸けとなり、その他にも周囲に溢れる非常識な存在たち。
 泣いても、わめいても、懇願しても、骨が折れようが肉がひしゃげようが、即座に魔法やら怪しげな薬で超回復されて、訓練続行。
 たまらず逃げ出しても、すぐさま捕まってやはり訓練続行。
 おかげで否応なしに底上げされる精神と肉体と力量。やや目減りした感のある、人としての大切な何かはご愛敬。
 こうしてリスターナ軍は、いまやノットガルドでも屈指のチカラを備えた精鋭揃いとなっている。

 次々と敵機を撃破していくゴードン将軍。
 旗下は、ムリせず複数で敵一体と対峙し、連携によって撃破。着実に敵勢の数を減らしていく。
 ときに勢いのままに突出し、敵に囲まれピンチになる者もいたが、そんなときには決まって銃弾が飛んできて窮地を救ってくれる。
 心強い援護射撃もあり、リスターナ軍の快進撃は続く。



 無造作に斜めに振り下ろされた左の手刀。
 次の瞬間、大地に一直線の溝が走り、圧縮されたチカラの塊が駆け抜ける。運悪くその進路上にいた機動ミタラシ兵の身が二つ三つにと別れて崩れ落ち、カランカランと少し間の抜けた金属音を立てた。
 オービタル・ロード、赤の女王が放った斬撃である。

 無造作に振り抜くように蹴り上げられた右足。
 次の瞬間、風が轟と吹き、竜巻となりて、大地をえぐりながら敵兵もろとも巻き上げる。激しい暴風の濁流に飲み込まれた者たちは、成す術もなく翻弄され、飛び交う岩や風から手痛い歓迎を受けズタボロにされ、最後ははるか高所よりきりもみして落下。地面に激突しバラバラとなって果てた。
 オービタル・ロード、黒の女王が放った蹴撃である。

 互いの武を誇るかのように披露した女王たち。
 その振舞いに赤黒各々の陣営から称える雄叫びがあがる。
 猛る者どもを睥睨しつつ、赤と黒の女王が天へと片腕をかざす。
 開いた手の平が、ゆっくりと閉じられ拳の形となる。
 それが開戦を告げる合図。
 一斉にオービタルたちの全身が淡くかがやき、練り上げた魔力が解放されて、彼らの身体能力を一気に跳ね上げ強化。これこそが彼らの武装。剣も鎧も不要。ただ鍛えあげた己の肉体さえあればいい。
 女王より許可がでて、喜び勇んで猛然と駆けだす赤と黒の軍団。
 勢いのままにオービタルたちは得意の体術で、機動ミタラシ兵の六つ足をへし折り、胴体を蹴り飛ばし、首を殴って粉砕、ときにカラダを掴んでぶんぶん振り回しては投げつけ、スクラップの山を量産していく。
 彼らもまたリンネらと深く関わるようになってから、大幅にパワーアップを果たしており、もはやかつての比ではない境地へと辿り着いていたのである。

 数でどうにか押し切ろうとするパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロ側。
 優れた個の武と連携により、これを押し返そうとするリスターナ側。
 両陣営の激突により、荒地の戦線はより苛烈さを増していく。
 そのどさくさに紛れて、そこいらに散らばる残骸やら敵ロボットの鹵獲をしては、せっせと亜空間内にある研究所へと運び込む研究開発チーム。

 やがて空が茜色に染まり、お日さまが帰り支度を始めた頃。
 ようやく最後の機動ミタラシ兵が活動を停止。
 リスターナ側は墜落した円盤をぐるりと包囲。
 鬼メイドのアルバが手勢を引き連れて突入。内部隔壁を次々とぶち破り、勢いそのままに艦橋へと乗り込み、瞬く間にこれを制圧。
 下等生物と侮っていた相手に完膚なきまでに叩きのめされ、ショックを受けて呆然自失のパームレスト以下略の女王オハギにかわり、副官が声明を発し降伏を表明。
 ルーシーがいくつかの条件を提示し、これに従うことをパームレスト側が受諾。
 かくして星間戦争は終了した。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...