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253 星間戦争・後編
しおりを挟む機動ミタラシ兵の四本の腕から射出される高出力の光の線を、右へ左へとたくみにかわすゴードン将軍。
愛用の大剣を背に担ぎ、地を這うように一気に駆け寄る。接近したところで、突進の勢いを殺すことなくその場で身を翻し、コマのように横回転。すかさず剣を振り抜く。
遠心力の乗った横薙ぎの一閃は六本足のひとつ、その膝関節にキレイに喰い込み切り飛ばす。返す刀でもう一撃。二本目の足をも同様に切断。
わずかに体制を崩した機械のカラダ。だが残りの足を踏んばり転倒には至らない。
が、姿勢制御にかかるほんのわずかな隙に、ゴードン将軍は股下をくぐり背後へ抜けていた。
すかさず敵のカラダに手をかけて、ひらりと相手の背に飛び乗ったゴードン将軍。最上段に振りかぶった大剣にて、腰の入った袈裟懸けを放つ。
首のつけ根から腰回りへと突き抜けた刃の一撃にて、機動ミタラシ兵を単独にて仕留めることに成功。
この勇姿に味方より歓声があがる。
それに応えるように高らかに剣を掲げ、ゴードン将軍は言った。
「いけるぞ! 攻撃は直線的にて単調。安定しているが、手足が多い分、互いが邪魔をして思いのほかに可動域が狭い。装甲は頑丈だが関節ならば十分に刃が通る。五人一組となって落ち着いて対処せよ。いまこそ日頃のたゆまぬ努力の成果を見せるとき」
将軍の檄に「応っ!」と威勢のいい声が兵らよりあがった。
なお、ゴードン将軍は「たゆまぬ努力」と控えめな表現を使ったが、そのじつ地獄のブートキャンプ。
ただでさえ厳しいシゴキに、ルーシー式トレーニングの導入によりハードさが跳ね上がり、二刀流の剣の達人であるエタンセルを筆頭に武芸達者な魔族の加入によって、組み手が命懸けとなり、その他にも周囲に溢れる非常識な存在たち。
泣いても、わめいても、懇願しても、骨が折れようが肉がひしゃげようが、即座に魔法やら怪しげな薬で超回復されて、訓練続行。
たまらず逃げ出しても、すぐさま捕まってやはり訓練続行。
おかげで否応なしに底上げされる精神と肉体と力量。やや目減りした感のある、人としての大切な何かはご愛敬。
こうしてリスターナ軍は、いまやノットガルドでも屈指のチカラを備えた精鋭揃いとなっている。
次々と敵機を撃破していくゴードン将軍。
旗下は、ムリせず複数で敵一体と対峙し、連携によって撃破。着実に敵勢の数を減らしていく。
ときに勢いのままに突出し、敵に囲まれピンチになる者もいたが、そんなときには決まって銃弾が飛んできて窮地を救ってくれる。
心強い援護射撃もあり、リスターナ軍の快進撃は続く。
無造作に斜めに振り下ろされた左の手刀。
次の瞬間、大地に一直線の溝が走り、圧縮されたチカラの塊が駆け抜ける。運悪くその進路上にいた機動ミタラシ兵の身が二つ三つにと別れて崩れ落ち、カランカランと少し間の抜けた金属音を立てた。
オービタル・ロード、赤の女王が放った斬撃である。
無造作に振り抜くように蹴り上げられた右足。
次の瞬間、風が轟と吹き、竜巻となりて、大地をえぐりながら敵兵もろとも巻き上げる。激しい暴風の濁流に飲み込まれた者たちは、成す術もなく翻弄され、飛び交う岩や風から手痛い歓迎を受けズタボロにされ、最後ははるか高所よりきりもみして落下。地面に激突しバラバラとなって果てた。
オービタル・ロード、黒の女王が放った蹴撃である。
互いの武を誇るかのように披露した女王たち。
その振舞いに赤黒各々の陣営から称える雄叫びがあがる。
猛る者どもを睥睨しつつ、赤と黒の女王が天へと片腕をかざす。
開いた手の平が、ゆっくりと閉じられ拳の形となる。
それが開戦を告げる合図。
一斉にオービタルたちの全身が淡くかがやき、練り上げた魔力が解放されて、彼らの身体能力を一気に跳ね上げ強化。これこそが彼らの武装。剣も鎧も不要。ただ鍛えあげた己の肉体さえあればいい。
女王より許可がでて、喜び勇んで猛然と駆けだす赤と黒の軍団。
勢いのままにオービタルたちは得意の体術で、機動ミタラシ兵の六つ足をへし折り、胴体を蹴り飛ばし、首を殴って粉砕、ときにカラダを掴んでぶんぶん振り回しては投げつけ、スクラップの山を量産していく。
彼らもまたリンネらと深く関わるようになってから、大幅にパワーアップを果たしており、もはやかつての比ではない境地へと辿り着いていたのである。
数でどうにか押し切ろうとするパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロ側。
優れた個の武と連携により、これを押し返そうとするリスターナ側。
両陣営の激突により、荒地の戦線はより苛烈さを増していく。
そのどさくさに紛れて、そこいらに散らばる残骸やら敵ロボットの鹵獲をしては、せっせと亜空間内にある研究所へと運び込む研究開発チーム。
やがて空が茜色に染まり、お日さまが帰り支度を始めた頃。
ようやく最後の機動ミタラシ兵が活動を停止。
リスターナ側は墜落した円盤をぐるりと包囲。
鬼メイドのアルバが手勢を引き連れて突入。内部隔壁を次々とぶち破り、勢いそのままに艦橋へと乗り込み、瞬く間にこれを制圧。
下等生物と侮っていた相手に完膚なきまでに叩きのめされ、ショックを受けて呆然自失のパームレスト以下略の女王オハギにかわり、副官が声明を発し降伏を表明。
ルーシーがいくつかの条件を提示し、これに従うことをパームレスト側が受諾。
かくして星間戦争は終了した。
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