わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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 ユーリスさん懐妊を知って、よろこびに湧く一同。
 そんな中にシレっと混ざっていたナゾの宇宙生命体から、告げられた衝撃の事実。

「ぐはははは、驚いたコッコ? ウソだと思うのならば窓の外をよく見てみるがいいコッコー」

 パームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの女王オハギ。
 あーん、もうっ! 長くてめんどうくさい! 舌噛むわ!
 以後は「ロボ子くらげ、オハギ」と称する。
 そのオハギに言われて、あわててわたしは窓に近寄ると、カーテンをシャーッと一気に引き開けた。
 飛び込んできたまぶしい陽光に目を細める。
 ほどよく発展した主都の街並み。それらを守るように囲む外壁。壁の向こうに広がるのは小麦畑。黄金色に輝く麦穂の海を渡るかのようにして、ずんずん向こうにまでのびていく街道。その先にあるのはまだ手付かずの荒野。
 そこに超巨大な円盤の姿があった。
 城からでもはっきりとわかるほどの大きさ。ヘタな山なんかよりもずっと大きいぞ。
 が、そんなシロモノが何故だか地面に突き刺さっている。斜め四十五度にてぶっすりと。
 さすがは未確認飛行物体。着陸の仕方が斬新過ぎる。異星人、半端ねえな。
 などと思い込もうとしたのだけれども。
 ……アレってば、たぶんちがうよね。
 気のせいなのかな? わたしの目にはどう見ても墜落しているようにしか見えない。
 しかもよくよく見れば、あちこちに大穴が開いているし、装甲がけっこうべコベコだし、何故だか竹がわさわさ生えているし。

「えーと、侵略者なんだよね?」

 わたしが念のために確認をすると、ロボ子くらげは「そうだ」と胸をはる。「もっとも開戦早々に負けたから、いまではただの居そうろうだけどなー、コッコー」

 形式上は捕虜。だけれども特に拘束されることもなく自由が許されている。
 王城内をふつうに闊歩し、こんなところにまで混じるくらいだもの。扱いとしては客分に近く、すっかりみんなに馴染んでいる。そして城のカオス度のアップに貢献していやがる。
 いったいぜんたいどうなっているの?
 そこのところをルーシーにたずねたら、わたしが眠っている間に起こったことをかいつまんで説明してくれた。



 アマノリンネが深い眠りについて目覚めない。
 最初の三日目ぐらいまでは、ルーシーをはじめとして近習の者らはみな余裕であった。
 だがそれが五日目となり七日目となった頃には、さすがに笑ってもいられなくなる。いまのところ魔力供給は断たれていないが、不測の事態につき、この先どうなるのかわからない。
 もしもの時に備えるために、関係各所は大わらわとなった。
 その間にも医療班による懸命な調査が続けられていたものの、原因究明には至らず。
 リンネ不在の状況を憂いるリスターナ上層部。
 このことは世間一般には伏せられていたものの、王さま、宰相、将軍、姫などの主だった面々の物憂げな様子から、城に務める連中もおぼろげながら異変を察し不安が募り、それが水が上から下へと流れるように浸透していく。
 気づけば城全体がどことなく活気を失っていた。
 かつて亡国寸前の憂き目を経験したことのある多くの民もまた、城の方から漂ってくる暗鬱とした空気を敏感に察知して、「また暗黒時代がやってくるのか?」と警戒し密かに怯えていた。
 結果として主都全体に、どこか漠然とした暗雲が垂れ込めることになり、そこかしこでヒソヒソ話に興じる住人らの姿が見られるようになる。
 十日目には、対女神戦線を組んでいる国にも知られるところとなり、騒動は静かに拡大していく。
 十五日目にもなると、ルーシーをはじめとするリンネ組らの間には、ピリピリとした緊張感が張り詰めており、あの空気を読まないカネコたちですらもが、軽口を叩かず近づこうとせず、カネコカフェにて丸まって引き篭るほど。
 もしかしたらずっとこのままなのかも……。
 そんな最悪の事態すらもが、想定され始めた頃に、ソレはあらわれた。

 眺めているだけで気が滅入って来る、いまにも降り出しそうな曇天の空。
 突如として稲光がいくつも走り、それらが寄り集まって空の中央にて巨大な光の玉となった。
 ギギギギギーというガラスを引っ掻いたときのような、とっても不快で耳が痛くなる高音が発生。
 たまらず主都の住人らが両手で耳を塞ぎ、目を閉じた。
 バリンと何かが砕けたような音がかすかに聞こえたような気がした。
 とたんに巨大な光の玉を中心にして、すべての雲が吹き飛ばされ、真っ青な空となった。
 ずっと上空にあった雲までもが消え失せたせいか、冬のよく晴れた日のように空がやたらと澄んでいる。
 強風が吹き、ご婦人方が髪の乱れやスカートの裾の死守に必死となり、おおくの洗濯物や木の葉、カネコの抜け毛にゴミクズなどが、砂ぼこりといっしょに宙へと舞い上がる。
 それらがどうにか収まり、ほっとしたのも束の間。
 見上げた先には、ちょっとした島ほどもある巨大な円盤が浮かんでいた。

 未確認飛行物体よりペカーと光が放たれ、これまた山のように大きなホログラムを地上に向けて映写。
 見たこともない種族の女性の姿が大きく表示される。

「私はパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの女王オハギであるコッコ。ノットガルドの下等生物どもよ。この星は、これより我らが支配下に置くコッコ。抵抗はムダだコッコ。ただちに全面降伏するコッコ。さすれば我らは寛大ゆえに、慈悲と加護を与えるコッコー」

 広大な星の海を渡り、死と静寂が満ちる宇宙空間をものともせずに、他星へと侵略する。
 並大抵のことではない。圧倒的科学力や技術力に抜きん出てこその所業。
 一方的に相手方に押しかけている時点で、チカラの差は歴然。
 実際のところ、もしもパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロたちが、リスターナではなく、ちがう国を最初に侵略していれば、また結果はちがっていたのかもしれない。
 だが彼らはリスターナを選んでしまった。
 それも、よりにもよって青い目をしたお人形さんの機嫌が最高に悪いタイミングにて。


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