241 / 298
241 逆襲の黄
しおりを挟む「唯我独尊、ゆいがどくそん。このかんちがいぼっちやろー」
「十人十色、じゅうにんといろ。だからってとくべつとかじゃないからなー」
「共存共栄、きょうぞんきょうえい。じぶんだけでいきてるとかおもうなよー」
「滅私奉公、めっしぼうこう。それがしゃかいのしゅくずー」
「反面教師、はんめんきょうし。おまえもなー」
ただいまリスターナ主都内において、小型の黄色いオッサンが大量発生中!
四字熟語っぽいのに余計なひと言を付け足した、ナゾのフレーズを連呼。モロ出しにてあちこちに出没しては、キャッキャッと駆け回るので、主都大混乱。
「疑心暗鬼、ぎしんあんき。しょうじきものがバカをみるー」
「呉越同舟、ごえつどうしゅう。そしてみなしずむー」
「阿鼻叫喚、あびきょうかん。そこにあいはあるのかー」
「泰然自若、たいぜんじじゃく。いつまでもぼんやりしてんじゃねー」
「和気藹々、わきあいあい。うらではかげぐちぼっこぼこー」
住人やカネコらをも巻き込み、警邏隊や軍の隊員らと鬼ごっこをくり広げている小型の黄色いオッサンで、街はごった返していた。
帰国直後にこの光景を目の当たりしたわたしたちは、しばし呆然。
「どうしてこんなことに……」
乱痴気騒ぎを前にして、わたしはつぶやかずにはいられない。
「えらく縮んでいますけど、あの黄色い姿にちんぷんかんぷん具合は、たしかにあのスーラの変異体ですね」とはルーシーさん。
「あいかわらず丸だしですが、サイズがカラダにあわせてかわいくなっています」
局部を見つめて、冷静な分析をする鬼メイドのアルバ。
わたしたちはとりあえず事情をきくべく、その辺にて鬼ごっこに参加していたアルバのお母さんのエタンセルさんに声をかけた。
「あら、みんな、おかえりなさい。えっ、この状況ですか? じつは……」
さる夜更け過ぎ、主都内を巡回していたのは警邏隊に所属するエタンセルさんと部下たち。
治安維持は日々のたゆまぬ努力の積み重ねこそが大切。
どんなに小さな悪の芽も見逃さぬとの意気込みにて職務遂行中。
街中にて黄色い不審人物を発見!
声をかけたら「一期一会、いちごいちえ。であいはきせきさー」とわめきながら、いきなり抱きつこうとしたもので、つい抜刀して一刀両断。
すると黄色いオッサンが二つにポンっと分かれた。
若干縮んだ感のある黄色いオッサン。
あまりのことに驚いていたら、その隙に各々がちがう方向へと走り出し、まんまと闇の中へと紛れて消えてしまったという。
じつはこれと似たようなケースが多発していたことがのちに発覚。
ケースその一。
将軍夫人であるユーリスさん。彼女が自宅のお庭で洗濯物を干して居たら、敷地内にてぼんやりと立っていた見知らぬ黄色いオッサンを見かける。「どなた?」と声をかければ、「出処進退、しゅっしょしんたい。いいひとからさきにぬけていくー」と言いながら、丸出しでずんずん向かってくるもので、たまらずユーリスさんが「きゃあ」と悲鳴をあげた。
愛妻の悲鳴を聞きつけて、二階の窓から躍り出たのは夫のゴードン将軍。愛用の巨剣の横面にて不埒者を問答無用でズバンと天誅。
すると黄色いオッサンが三つに分裂して、わきゃわきゃいいながらどこぞに逃げていってしまったという。
ケースその二。
とある娘さんが鼻歌まじりにてご機嫌でお風呂に入っていたら、なにやら窓の方から視線を感じた。
てっきり、またスケベなカネコがのぞいているのかと思って見てみれば、そこにいたのは黄色いオッサン。「栄枯盛衰、えいこせいすい。ぴちぴちぎゃるもいずれしわしわー」
乙女の悲鳴に、ご近所の男衆が駆けつけ「ふてえやろうだ」と、かこんでボコボコ。
すると大人から子どもサイズにて、六つに分裂した黄色いオッサン。「ケケケ」と不気味な笑い声をあげながら、散り散りに逃げていったという。
ケースその三。
共働きのご家庭にて、夕暮れ時のこと。
なかなか帰ってこない両親を待ちわびていた女の子。家の前で一人、地面に絵をかいて遊んでいたら、いつのまにやら自分を見下ろしている黄色いオッサンがいた。
「いっしょにあそぶ?」と声をかけるも黄色いオッサンは無言。だったらと「コレ、食べる?」と幼女が差し出したのは一枚のクッキー。本日のオヤツの残りをとっておいたモノ。
黄色いオッサンはこれを受け取り、ごっくん丸呑み。そして「天真爛漫、てんしんらんまん。いっぱいたべておおきくなれよー」と言い残し、いずこかへと消えていったという。
と、まぁ、このようなケースが主都内に続発し、報告書が山と積まれることになる。
実害があるようで、ないようで、やっぱりあるのか? 首をかしげつつ、とりあえず取り締まるべきであろうと上が決めた時には、すでに手遅れ。
街はご覧のありさまとなっていた。
「捕まえても、捕まえても、キリがないんです。ようやく捕まえて閉じ込めても、いつの間にか、見張りの目を盗んで逃げ出してるし。かといってヘタに刺激をしたら余計に増えるし」
タメ息まじりにぼやくエタンセルさん。警邏隊の隊員らは対応に追われて、ろくすっぽ睡眠や食事をとる暇もないほど大忙し。「それじゃあ、自分は職務に戻りますから」とふたたび鬼ごっこへと帰っていった。
「慇懃無礼、いんぎんぶれい。どげざはさいきょうなりー」
「切磋琢磨、せっさたくま。ものになるのはかたっぽだけー」
「満身創痍、まんしんそうい。けがあぴーるちょううぜー」
「捲土重来、けんどじゅうらい。いうだけはただー」
「厚顔無恥、こうがんむち。よのなかいったもんがちー」
いつの間にやら、わたしたちの周囲にて小さな黄色いオッサンがぐるぐる、元気よく駆けている。
背丈は子ども、顔と中身がオッサン。その組み合わせが絶妙にて、こちらの琴線を刺激してくる。もちろん悪い意味で。
「なぜに四字熟語? あと地味にイラっとくる」
おもわずブン殴りたい衝動にかられそうになるも、そんなわたしの腕を抑えたのは小さなお人形さんの手。
「いけません、リンネさま。ここはガマンのしどころです」
ルーシーに諭され、ぐぬぬとわたしはこらえる。
一度、深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、命じる。
「しようがない。ここはわたしたちも鬼ごっこに参加しよう。まずは一匹残らず捕まえる。処置に関しては、あとで考えよう」
かくして手の空いているリンネ組の面々が加わり、リスターナの主都を舞台に、おそらくノットガルド史上初にして最大規模の鬼ごっこ大会が幕を開けたのである。
1
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる