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234 人形使いと最凶
しおりを挟む勇者の国の領内に足を踏み入れてからの、まさかのロボット三連ちゃん。
いろんなギフト持ちがいるから、めんどうくさいことになるかもしれないとは考えていたけれども、今のところこちらの予想の斜め上を突き抜けている。
やれやれ、いきなり敵の本陣へと闇雲に突っ込まなくって正解だったよ。
大混戦の最中に、あんなデカいのに暴れられたら、それこそ収拾がつかなくなるところであった。
遭遇した順にサクっと撃破して、男二人に女一人の捕虜を確保したものの、全員が全員、完全にのびてしまって、ピクリともしやしない。ルーシーによれば「だいたいよくなるポーション」でもダメっぽいとのこと。
召喚術を酷使した反動らしいのだが、おかげで肝心の情報がちっとも得られずに、お荷物ばかりが増えていく。
邪魔なので鬼メイドのアルバに命じて、捕虜を亜空間内に収監してもらい先を目指す。
しばらく進むと十人ほどの黒服姿の男性たちにかしずかれている一人の女性が、岩の上に腰かけていた。
片ヒザを立て、そこにアゴを預けるようなポーズで、なんとも物憂げ。
やたらと雰囲気のある女だ。
「あら、なにやら騒がしいから、てっきりあのロボバカトリオが、またはしゃいでいるのかと思っていたら、侵入者だったの? ったく、見張りをサボって何をやっているのよ。本当に使えない連中ね」
女は、ものすごく高飛車だった。
目鼻立ちがくっきりとして、彫りが深く、ハーフらしい。しかもいい塩梅の。
生まれながらの勝ち組。種としての格差をまざまざと見せつけられる。わたしの中の「ひがみちゃん」がムクリとかま首をもたげて立ち上がり、シュッシュッとシャドーボクシングを開始。「やってやんよ」とガンを飛ばす。これに倣いわたしも「上等だ」とガンを飛ばす。
同性から向けられるそんな嫉妬混じりの視線や態度にはすっかり慣れっこなのか、女は「はん」と鼻を鳴らした。
「それにしても、もしかしてそこの見すぼらしいお人形さんがアナタの能力なの? よくもまぁ、そんなしょぼいギフトで今まで生き残れたものね。うちの子たちとはおおちがい」
わたしとルーシーに、あからさまに蔑んだ視線を向けてくる女。
彼女の言葉が終わるのに合わせるかのようにして、周囲の黒服たちが音もなく立ち上がる。
全員が高身長にてスラリとして、ほどよく引き締まったモデル体型。
ただし彼らの首から上には、あるべきはずの顔がなかった。
みんながみんな、つんつるてんの、のっぺらぼう。
よくよく見れば、黒服姿の男たちは等身大の木偶人形であった。
「どう、うちの子たちはステキでしょう? これがミヤビのギフト『ドールズ』なの。そしてスキルは『マリオネット』よ。仲間たちはミヤビのことをソロ・アーミーと呼ぶわ。わかる? 一人軍隊って意味なの。わかったら、とっとと降参しちゃいなさい。さもないと……」
ミヤビが指をパチンとかっこよく鳴らす。
十体ほどの黒服たちが、いきなり倍の二十に増えた。すべての個体の手には剣やら槍などの武器が握られてある。
彼女は一度にたくさんの木偶人形を召喚し、これを自在に操れるようだ。
これを見て、わたしも対抗し指をパッチン。
すると亜空間よりルーシーの分体らがゾロゾロ出現。その数、本体を合わせて三十一。
数で上回り、「ふふん」と得意げな顔をみせたら、ミヤビの目つきが険しくなる。彼女は無言でふたたび指を鳴らす。
黒服が二十から四十に一挙増量。
でも、わたしもすぐさま指を鳴らし返し、ルーシーズを再投入。計五十体を召喚。
対抗してミヤビが更に増量をすれば、すかさずわたしも増量してコレを上回るを延々と繰り返す。
百を超える辺りまでは、まだまだ余裕の表情であったミヤビだが、二百を超えたところで顔色がめちゃくちゃ悪くなってきた。おそらく魔力が枯渇してきたのであろう。
なにせ召喚を行っている際は、たえず魔力を消費するからね。いくら使用しても減らないインチキなわたしとはちがいミヤビは有限。むしろここまでよくがんばったほうであろう。
だが、がんばり屋のミヤビはあきらめない。
歯を食いしばり、脂汗をだらだら流し、目を充血で真っ赤にし、ちょっと鼻血を垂らしつつ、ヒザを産まれたての小鹿のようにぷるぷるさせながらも、踏ん張り続けた。
パチン、パッチン、パチン、パッチン、パチンパチパチ。
ひたすら二人の女の指の音が鳴り続ける現場。
ミヤビのガッツに敬意を表し、わたしはドドンと五百体のルーシーの分体たちを出し並べる。
だが、もうミヤビが指を鳴らすことはなかった。
彼女の出した木偶人形。その総数は三百と三十三体のゾロ目。これがいまの彼女の精一杯。
せっかく召喚されたそれらだが、何もしないままにさらさらと崩れて塵へと還っていく。
魔力の供給が完全に途絶えたせいだ。
ミヤビは立ったまま、白目をむいて気を失っていた。
まさかの弁慶の立ち往生! こんなステキに珍しいモノが拝める日がこようとは。
おもわず「ありがたやありがたや」と手を合わせるわたしとルーシーズのみんな。
やがてすべての木偶人形は消え去り、あとに残るはミヤビただ一人。
部下たちが去るのを待っていたのか、このタイミングで彼女のカラダがぐらり。
倒れそうになったその身を、わたしはあわてて駆け寄り抱きとめる。
「ミヤビ、わたしはあんたのことを誤解していたよ。派手な見た目やナマイキな言動で、マジでむかつく女とか思っていたけれども、その根性だけは認めざるをえないね。こんなになるまでがんばるなんて……。あんた、とんでもない負けず嫌いだよ。あと乳、けっこうあるな」
かくしておそるべき? ソロ・アーミーは倒れた。
そしてわたしはつくづくこう思わずにはいられない。
「召喚系のギフト持ちって、適当に逃げ回っていたら、勝手に魔力切れを起こして自滅するんじゃないの?」と。
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