わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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222 新生タワーダンジョン

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 ベリドート国にて、かつてノラ勇者リュウジがギフトで建てた試練の塔。
 千階というイカれた規模の天空のタワーダンジョン。
 上に行くほどにお宝ざくざく、ウマ味が増す仕様。でも百階前後にて難易度が跳ねあがり行方不明者が続出。そのせいでついには人喰いの塔とまで揶揄されて、社会問題化。
 ライト王子の伯母で、この国に嫁いでいたミランダさんより相談を受けて、この問題を見事に解決したのが、わたしことアマノリンネ。
 その際のお礼として、この国特産のガガガガの実という、カカオっぽい実を独占大量入手するルートを確立。現在のチョコレート生産体制を整え、絶賛荒稼ぎ中。

 今回はそんな繋がりのあるベリドートから正式に招待された。
 この度、目出度く新生タワーダンジョンがオープン。
 施設自体はもっと早くに完成していたらしいのだが、前回の失敗があるのでリュウジが念入りに時間をかけて調整。納得いくまで何度もテストプレイやデバック作業を重ねたとか。
 おかげで自信作が完成したと、招待状に添えられてあったリュウジの手紙に書かれてあった。
 そのオープンニングセレモニーにスペシャルゲストとして、わたしが呼ばれたのだ。
 とはいえ、わたしだけではまったくもって華がない。
 そこで華として、リリアちゃんとマロンちゃんを誘うと、二人はよろこんでついてきた。
 ずっとエタンセルさんに剣の修行をつけてもらっている彼女たち。いい機会だからちょっと腕試しにてダンジョンに挑むと意気込んでいる。

 王さまのどうでもいい演説から始まるセレモニー。
 一段高くなっている貴賓席から眺めてみれば、客の大半はアクビをかみ殺している。
 この手の話がツマラナイのはお約束。もしかしたら全次元共通なのかもしれない。
 まじめなリリアちゃんやマロンちゃんたちは、しっかりと前を向いて話に聞き入っているけれども、わたしは興味がないので膝の上にのせているルーシーと一緒に、もらったパンフレットをぱらぱらめくる。

「えーと、なになにダンジョンの種類と内容について……」

 小中大と並ぶ三つのタワーダンジョン。
 小ダンジョンは三十階建てにて、初心者や女性や子ども、家族連れ向けの難易度。武器防具レンタル有り。モンスターは弱体化。トラップ類はない代わりに、宝物類もなし。でも宝箱やモンスターを倒すと専用コインが手に入り、その枚数に応じて景品と交換してもらえる。わくわくの冒険がキミの挑戦を待っているぞ。
 中ダンジョンは六十階建てにて、中級者向け。階層の広さは小の三倍、トラップもあり、多彩な自然環境、大型ボスなども配備されており、イベントも満載。もしもクリアすれば確実にひと皮もふた皮もむけることうけあい。心を磨け! カラダを鍛えろ! そして魂は次のステージへ。
 大ダンジョンは九十階建てにて、上級者向け、ソロプレイ非推奨仕様。難易度は推して知るべし。最低限の生命保障はあるけれども、かなり危険。骨の一本や二本は覚悟しろ。そのかわりにお宝もウハウハ。目指せ一攫千金!

 渡されたパンフレットに書かれた各ダンジョンの特徴。
 お宝ウハウハか……、なんてステキな言葉なんだろう。これは、もう、突撃するしかないよね。
 だから、王さま、空気を読んで長話をとっとと終えろ。
 そんなわたしの願いが通じたのか、ようやく終わった。
 と思ったら、べつのえらい人の話が始まった。これがまた固苦しくてべらぼうに長い。
 明らかに会場の雰囲気が悪くなっているのに、どうして気がつかない。
 もちろんわたしもイラついている。
 するとうしろの席に座っていたミランダさんが「ふふふ、ごめんなさいね。でもこれも演出のうちなのよ、リンネちゃん」と小声で言った。

 うんざりするような時間が続き、会場内にもシラけた空気が漂う中、最後に檀上に姿をあらわしたのはタワーダンジョン施設総統括であるミランダさん。
 彼女を前にして「おいおいまだ続くのかよ」と観客ら全員の顔がそう物語っている。
 これらに怯むことなく、むしろそいつらをゆっくりと睥睨していくミランダさん。
 ちっともしゃべり始めないので、みんなが怪訝そうな表情を浮かべザワつきそうになった。そのギリギリのタイミングにて、彼女は拳を天に突き上げ声も高らかに叫ぶ。

「さぁ、冒険のはじまりだ! いつまでそんな腑抜けたツラをしていやがる。気合を入れろ! 腹に喝を入れろ! とろとろするな! お前たちの求めるモノはすぐそこにあるぞ。塔を駆けあがり、富と栄光を掴み取れ!」

 これまでの長々とした単調な演説とは打って変わって、鬼軍曹のごとき乱暴な叱咤激励。
 ミランダさんの言葉を受けて、シーンと静まりかえった会場。
 だがすぐさま会場内には勇ましい雄叫びが満ち、いままでのうっ憤を払すかのように最高潮のボルテージとなり、興奮もそのままに、ずっとお預けを喰らっていた客たちはこぞってダンジョン受付へと移動を開始した。

「なるほど。これが演出か。すごいなミランダさん。会場中のハートをわし掴みだ」
「はい。この効果を狙って、あえておえら方の演説には制限を設けなかったのでしょう。とんだ策士です。もうみんなの中にはミランダさんの印象しか残っていませんよ」

 わたしとルーシーが感心していると、リリアちゃんやマロンちゃんたちもパチパチ拍手しながら「勉強になります」「かっこいい」とベタ褒め。
 そして興奮のままに、さっそく自分たちもタワーダンジョンに行こうということになる。
 リリアちゃんたちは中ダンジョンをと希望したのだけれども、それは却下。
 ここは無難に小ダンジョンから。
 だって何だかんだ言っても、彼女たちは箱入り娘なんだもの。それに訓練と実戦はちがう。ゆえにまずは基本からじっくり取り組むのがよかろう。
 と、それっぽいことを言ってマイシスターたちを納得させてから、意気揚々と小ダンジョンの受付へと行ったら、何故だかわたしだけ入場を拒否された。

「なんで!」
「申し訳ありません。規則でして。パンフレットの注意書きにも記載されておりますから」

 あわててパンフレットをぱらぱら。
 禁止事項が羅列されてある巻末のページをガン見。
 するとそこには「譲り合いの精神を忘れずに」「横取り割り込みはいけません」「目に余るマナー違反は厳正に処罰します」などの注意書きに混じって「富士丸くん立ち入り禁止」「リンネちゃん立ち入り禁止」と掲載されてあった。目を凝らさないと読めないぐらいの小さな文字にて、ばっちりと。


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