わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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216 勇者狩り狩り

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 夜中の絶叫で、目が覚める。
 闇を切り裂くのは野太いダミ声。
 アクビをしながら窓から外を覗いてみれば、月明かりの下で男たちが悶え苦しんでいた。
 かわいそうに……。みんな片足がひざ下あたりから、ばっくりと千切れて骨や生肉が露出している。大動脈も切れているらしく血もドバドバ流れており、あれではもう長くはあるまい。
 中にはあの人相の悪い木こりのおっさんも混じっていた。
 みんなルーシーがわたしたちの小屋の周辺にこっそり仕掛けた「トラバサミ(中)」にやられたのだ。
 なお小が通常の大きさにて足首あたりをザックリするやつ。大は下半身を丸ごとガッツリいく。強力なバネ仕掛けにて、特殊鉄鋼製のギザギザ構造が飢えたケモノのごとく、獲物を喰い破る。
 女日照りの辺鄙な村。
 こちらは若い娘二人にお人形さんが一体。
 これで何も備えなかったら、ただの阿呆であろう。
 おおかたわたしの溢れんばかりの魅力にとち狂い、理性を失い夜這いでもと画策したのだろうが、我ながらなんて罪作りな女であろう。だが野獣は死すべし。
 よって放置にて寝床に戻り、二度寝をしようともぞもぞしていたら、そばでマドカがギャンギャン吠えてうるさい。
 あんまりうるさいから、つい蹴飛ばしたら見事に鳩尾にクリーンヒット。「ぐふっ」とうめいて倒れるマドカ。ゴツンと鈍い音がしてようやく静かになった。



 新しい朝が来た。
 爽やかだけれども、希望の朝かどうかはちょっとわからない。
 でも本日は捕まっている人たちを救出する予定になっている。
 ということは、救われる人たちにとっては希望の朝そのもの。
 そしてそれを行うわたしたちにとっては、ゴミ掃除の日とも言える。
 あれ? そう考えるとなにやらテンションが……。
 いかんいかん。何ごとも気の持ちようだというのに。
 心機一転、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み深呼吸。
 わたしは「うーん」と天に向かって背伸びをして「今日もいい天気。きっといいことがあるよ」
 隣でルーシーも同じく伸びをして「そうですね。リンネさま」
 主従にて「今日もがんばろう」とにっこり。
 そんなわたしたちにマドカが叫んだ。

「あんたら! この惨状を前にして、よくもそんなのんきなことが言えるわねっ!」

 家の周辺には片足を失い、大量に血を流したせいで青っ白くなった男たちの死体がごろごろ。
 ニオイを嗅ぎつけたらしいケモノやモンスターらがそれらに群がり、ハフハフと朝食バイキングの真っ最中。
 さすがは自然いっぱいの森の奥、野生がとっても旺盛である。
 野郎ども全滅にて静かとなった村に、元気ハツラツな咀嚼音がよく響く。
 なんだか見ていたら、こっちのお腹まで「ぐぅ」と鳴った。

「さて、わたしたちも朝食を食べたら、出発しましょうか」
「了解です」
「……」

 すっかり黙ってしまったマドカ。
 食欲がないのか、せっかく用意したサンドイッチにもほとんど手をつけない。
 よくもそんな線の細いことで、ここまで旅をつづけてこれたものである。モグモグ。



 マドカに案内をしてもらい、賊どものアジトへと向かう。
 場所は森の奥の奥。でも岩山が目印なので、方角さえ把握していれば森に不慣れな者でも問題ないのか、とくに迷うこともなくサクサク到着。
 わたしとルーシーは双眼鏡片手に、様子を伺う。

「おうおう、いかにもな野郎どもがぞろぞろといるねえ」
「捕まっている人たちは、あの穴の奥でしょうか」
「ついでにお宝とかもため込んでるといいんだけど」
「だといいのですが……。出張費ぐらいは賄ってもらわないと」

 わたしと話しながら、ルーシーが亜空間より武器召喚したのは狙撃用のライフル銃。
 お人形さんは無造作にそれを構えると、次々と発射。
 パシッ、パシッ、パシッ、と小気味よいリズム。
 乾いた発射音がする度に、わたしが覗いている双眼鏡の中ではパタパタと賊が脳天をぶち抜かれ、脳みそをまき散らして倒れていく。
 わずか一分ほどで表にいた十五人全員の殲滅を完了したルーシー。
 あまりにも一方的な展開に、唖然としているマドカ。
 それにはかまわずわたしたちは、とっと岩山へと向かった。

 岩山は巨石がいくつか折り重なって、そこに土砂が堆積して小山となっていたモノ。
 穴は二つの岩がもたれあうことで生まれた空間だった。
 わたしでさえもが、少し頭をかがめなければ歩けないほどの低い天井。でも奥は浅く、入ってすぐに囚われていた人たちを発見。ざんねんなことにお宝の類は見当たらない。
 男一人に女が三人にて、全員が異世界渡りの勇者。猿ぐつわをされており腕の拘束具でチカラを封じられているせいか、ぐったりとして目を閉じている。
 穴の奥は狭く、どうにも動きづらいので、いったん全員を表に運び出してから解放することにする。
 全員を運び終えたところで、うっすらと目を開けたのは男の虜囚。
 急にモゴモゴと言って、不自由なカラダにてじたばた暴れだす。
 何ごとかこちらに訴えたいことがあるらしい。そこで猿ぐつわをとってやったら、男がいきなり叫んだ。

「うしろっ! うしろっ!」

 とっても焦っており緊迫した様子。
 だから、わたしはこう言ってやったんだ。

「心配しなくても、ちゃんとわかってるから」

 途端に背後で不穏な動きをしていた気配がぴたりと止まる。

「いつから気がついていた?」

 これまでの口調とは打って変わって、ドスの利いたやや横柄なしゃべり方になったマドカ。
 彼女の問いに、わたしとルーシーは互いに顔を見合わせて「最初っから」と答えた。
 だって怪しいお手紙に、怪しい行き倒れに、怪しい村に、怪しい住人たち……。
 何もかもが胡散臭すぎる。
 ウインザム帝国の引退皇帝からも謁見した際に、「あんまり油断するなよ」みたいなことを言われていたし。
 というか、タネを明かせば、手紙をもらった時点で村については、すぐに調べた。
 そしてその調査の過程で、付近の森でうろついている不審人物らの存在も確認。
 あとをつけてみれば囚われの勇者たちも見つけた。
 けっこうな規模の勇者狩りの賊を率いている女首領がいることも、そいつが勇者のくせに勇者を狩って、裏のオークションに流して荒稼ぎをしていることも芋づる式に判明。
 ついでにマドカたちが頼みにしている運び屋の飛竜は来ない。
 裏ルートのモノやカネの流れについてはギャバナのライト王子に教えてもらった。話を聞くなり王子は「さらった勇者らを運ぶのならば空輸だろう」と断言。
 ノットガルドにて空輸といえば、真っ先に思い浮かぶのが飛竜。
 飛竜といえば空の大国カーボランダム。
 そこの若い王さまはわたしにメロメロ。そこに居候している勇者ツバサはルーシーに平身低頭。よって頼んで調べてもらったら、すぐに運び屋の素性も判明。
 空賊崩れにて、カネさえもらえれば何でも運ぶと評判の男。身柄はすでに空賊たちに抑えられている。誇り高き空の男たちは、この手の存在をむちゃくちゃ嫌うから、今頃はボコられて相棒の飛竜を取り上げられて、空の藻屑となっていることであろう。

「ウインザムにギャバナにカーボランダムだと。あんたはいったい……」

 次々と飛び出す大国の名に、マドカはおもわず生唾をゴクリと飲み込む。
 しかし諦めが悪いのが悪党というもの。
 マドカは唇に指を当てると、ピューッと口笛を鳴らす。
 とたんにバサリと暗色系の迷彩柄のマントを翻して、賊の伏兵たちが姿をあらわした。


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