わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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211 カネコの乱

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 体長二メートル前後のネコ型種族カネコ。
 一つ目と立派な出っ歯がチャーミングポイントにて、かつて絶海の孤島でのほほんと暮らしていたのだが、その島が沈んでしまい辺境の小国リスターナへと島民そろって移住することとなる。
 性格は怠惰。彼らの辞書に「労働」「生産性」という文字はない。揃いも揃って「働いたら負け」だと考えている。
 豊かな自然の恩恵に寄りかかり、太陽の温もりにひっくり返って腹をみせ惰眠を貪り、ときに他人さまの食卓に紛れこんでは、我が物顔でガツガツ喰らう。
 たまにうっかり度が過ぎて「このドロボウカネコ!」と怒られ、目くじらを立てたご婦人に追いかけられたりもするけれども、だいたいが「しようがないなぁ。カネコだし」で済まされる得な体質。
 体質といえば、彼らはカラダから特殊な成分を発しており、これが害虫駆除の働きがあり、ウロチョロしているだけで地域の衛生状態が向上する。
 爪や毛からもその成分が抽出されることが判明してからは、定期的にこれを国に提供することで納税としている。
 魔法で空も駆けられるし、姿も消せる。夜目も効き、耳をいい。
 ノットガルドに住む他の種族と比べても、優れた点は多々ある。ただ惜しむらくはそれらを活かす精神性が皆無ということ。

 現在、リスターナに住むカネコの総数三千と二百二十九。
 それらが一堂に会している。納税の日でもないというのに。
 ざわつく現場にて、鉛色の雲のような毛色をしたカネコが声高に叫んだ。

「いまこそ立ち上がるときにゃ! これ以上の横暴を許すにゃ!」

 その声に賛同する「そうにゃ」「許すにゃ」「権利を主張するにゃ」との声があちこちで起こり、騒ぎがどんどんとおおきくなっていく。
 それらを率いるかのように先導して、鉛色のカネコが歩きだすと、皆がこれに従っての大行進が始まる。
 それらが向かった先は……。



 リスターナの主都、下町にほど近い通りに面したカフェの軒先、午後のティータイムをテラス席にて楽しんでいたわたしことアマノリンネ。
 本日はお供なし。いい女を維持するには、たまに一人でお出かけをする時間も必要なのだ。
 なのに気がついたら、視界一面がカネコだらけになっていた。
 わたしはとっさにお茶請けのカップケーキの乗ったお皿を庇うかのような仕草をとる。
 だって、カネコたちってば油断も隙もありゃしないんだもの。
 それを見たカネコらの集団より「リンネはケチにゃん」「ひと口よこすにゃ」「そんなんだからいつまでたっても胸がしみったれにゃんよ」との誹謗中傷が飛んでくる。

「うっさい! それよりみんな揃っていったい何なのよ? いくら数で圧力をかけても、こいつはぜったいに渡さんからな」

 断固とした意志を示すわたし。
 集団とガルルルとにらみあっていると、その中からのそりと姿をあらわしたのは、鉛色のカネコ。
 鉛色のカネコは「今日の用件はカップケーキではないにゃ。我々はリンネの横暴を質しに来たんだにゃん」と言った。
 いきなり名指しでクレームを突きつけられ、わたしはキョトンとなる。
 海中へと没する島と運命を共にするしかなかった彼らを救い出し、リスターナへと移住させ、国や住人らとの仲をとりもち、彼らが自由に行動できるようにと数多の便宜をはかってきた。
 そんなわたしに文句があるという。
 まるで意味がわからない。
 まぁ、彼らの故郷のギガン島が沈んだ原因の八割強ぐらいは、ウチの富士丸くんのせいなんだけど……。
 またぞろ、その話を蒸し返すつもりなのだろうか。
 わたしが黙って密かに身構えていると、それをおとなしく要望を聞く態度だと勘違いした鉛色のカネコが説明をはじめる。

「我らは国に税の対価として、爪や毛を定期的に納めているにゃ。こちらとしてもそれについては文句ないにゃ。問題はその納付会の際に、我らに断りもなく、カネコ種族を模した各種グッズでリンネが大儲けしていることにゃ。これはれっきとした肖像権の侵害にゃ」

 よもやカネコの口から「肖像権の侵害」なる言葉が飛び出すとは! こいつは予想外にて、わたしは大いに驚く。どこの誰だか知らないが、いらぬ知恵を授けたヤツがいるようだ。
 おのれ、余計なマネを。これにはおもわず舌打ち。
 ちっ、ついにバレたか。
 納付会をイベント化して、カネコ愛好家らをカモにしての荒稼ぎ。
 たい焼きを模した「カネコ焼き」や手の平サイズのカネコぬいぐるみを筆頭に、いまやそのグッズの数は二百に迫ろうとしている。
 イベントは毎回大盛況にて、収益はウハウハ。そろそろ国外進出も視野に入れるべきかと目論んでいた矢先だというのに。
 だがバレてしまったものはしようがない。

「わかったよ。これからはあんたたちにも、きちんと分け前を渡す。それでいいよね?」

 わたしはあっさり降参。
 全員を揃えて勢い込んで押しかけたものの、こちらがあまりにもあっさり折れたものだから、すっかり肩透かしとなった鉛色のカネコ。怪訝そうな表情にて戸惑いつつも、しぶしぶ「なら、いいにゃん」とうなづいた。
 それを見てわたしは内心にて、してやったりとほくそ笑む。
 だってわたしが確約したのは、あくまで「これから」のことなんだもの。過去の収益に遡って支払う義務がこの時点で消滅した。交渉としてはまずまずの成果であろう。
 そしてこのことに連中が気づくまえに、とっとと話題を変えてしまおう。

「でも、分け前を渡すにしても、あんたたち、おカネとかいらないじゃない。もらったところでヘタをしたらその辺に穴を掘って適当に埋めておきそうだし。そうなったら死に金になっちゃうよ。うーん……、そうだ! なにかして欲しいこととか、作って欲しい施設とかない? それで肖像権の使用料はチャラにするってのは、どうかな?」

 秘技「話題そらし」
 別の話題を提供することで、思考を一か所に留まらせることなく、不都合な真実を煙に巻く術。よくよく考えたら「あれ?」となるはずなのに、それをさせない詐欺師どもの常套手段。
 これにまんまと引っかかったカネコたちは、その場でやんやと協議を始める。
 それを尻目にわたしは優雅にお茶を再開。
 だが、三杯目のおかわりを飲み干し、とっくにカップケーキも平らげ終わったというのに、肝心のカネコたちの話し合いがまだ終わらない。
 というか、みんな好き勝手なことを発信するものだから、収拾がつかなくなっていた。
 本来ならばみんなをまとめるはずの古老たちは、鼻ちょうちんにてグースカ寝てるし。
 半分ぐらいの連中もアクビをかみ殺している始末にて、たぶんもう飽きてる。
 そしてわたしも待ちくたびれたので、ここいらで助け船を出すことにした。

「それじゃあ、こういうのはどうかな」

 わたしが提案したのは、カネコたちがフリーで利用できる休憩所の設立。
 いつで好きなときに立ち寄れて、快適な環境にてのんべんだらりと過ごせ、食事やお茶も楽しめる。
 係員が常駐しており、ブラッシングもしてもらえる。もちろんお代はタダだ。それらの運営費用はイベントの収益からあがる彼らの取り分を当てる。
 この話にカネコたちは大喜び。
 先ほどとは打って変わって「リンネは最高にゃん!」「やれば出来る子だと信じていたにゃん!」「胸はないけど器はデカいにゃ!」「カラダはしみったれだけど、心は太っ腹にゃ!」などという賛辞? が飛び交う。
 わたしは「まあまあ、静粛に静粛に」といいつつ、やはり内心でほくそ笑む。
 しめしめ、これでカネコカフェがオープンできるぜ。


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