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200 二百三十六番目の死
しおりを挟む「えっ、アレは何!」
驚愕の表情を浮かべて、わたしは首をぐりんと明後日の方に向けた。
つられて五人のイブニールまでもが一斉にそちらを向く。
その隙に左腕の手首がパカンとなって、ロケットランチャーを発射。
五人まとめてドカンと吹き飛ばす。
直撃を喰らった連中の肉体はバラバラとなった。
女優魂全開による改心の名演技。
「ふふん、男なんてチョロイぜ」と鼻高々だったのだけれども、飛び散った五人の残骸がまたしてもシュワシュワと泡となって消えていく。
「くそっ、またハズレだらけか」
地団太踏むわたしの前に、三度ぞろぞろと姿をあらわした猫背の小男たち。今度もやっぱり五人組。
「キシシシ、次から次へといろいろ楽しませてくれるねえ」
「そっちこそいい加減に打ち止めにしてくれるとありがたいんだけど」
またしても対峙することになるイブニールたちとわたし。
すると背後からルーシーの声。「どうやら彼は一度に五人までしか分身体を造りだせないようですね」
「それで、やっこさんの攻略法は?」
「とりあえず出たはしから潰していけばいいですよ。だってソレを造り出すのだって魔力やら気力体力が相当かかるはずですから」
これが戦いが始まる前にわたしがルーシーにお願いしていたこと。
でもまさかズブズブの泥仕合を推奨されるとは思っていなかった。こっちとしては弱点を発見してズバッと倒すつもりだったのに。
そして不本意ながら始まる泥仕合。
消したはしからにょきにょき現れるイブニール。
序盤こそは、こちらの思惑通りにだまし討ちやら不意打ち、まとめてドカンといけていたけれども、それも中盤以降になると通用しにくくなる。
なにせ攻撃をくり返すほどに、こちらは手札をどんどん切る形になるので、戦い続けるほどに向こうにもこちらの手の内が把握されていっちゃうから。
六十五人目のイブニールの額を左人差し指マグナムで撃ち抜く。
「いい加減にしてよね! しつこい男はモテないんだぞ」とわたしが叫べば、「お前にだけは言われたくねえよっ! そっちこそいい加減にしやがれ」とイブニールが叫びかえす。
反射能力にて加速し、ぴょんぴょん高速で飛びまわるイブニールらを、「どらぁ」と気合一閃。前腕式警棒にて殴り倒す。バッティングセンターならばホームラン確定のジャストミート。
「とっとと死んで!」とわたし。
「おまえが、とっととくたばれ!」とはイブニール。
ついに大台の百に到達。
記念に五人まとめて右人差し指による火炎放射器で、人間たいまつにしてやった。
百十五人目のイブニールの口に手を突っ込んで、直接毒ガス注入。
百三十人目のイブニールには、つま先から隠しナイフを出してからのスコーピオン断罪トゥーキック。菊門をブスリ。
百五十から百五十五人目のイブニールたち。かつてない反射能力による高速移動と連携攻撃にてこちらを激しく攻め立てるが、この頃になるとなんだか目とカラダが慣れてきたみたいで、ひょいひょいかわしてから順繰りにアイアンクローからの手の平式スタンガンを全開でぶちかます。
百七十人目のイブニールと接近戦にてキンコンカンと殺り合っているとき、ちらりと後ろを見たら、ルーシーさんが折りたたみイスをとり出し、これに腰かけ、お茶をしながら優雅に小冊子みたいなのを読んでいた。「あぁ、これですか? オスミウムの秘密の花園の追加報告書です。なんでも新展開があったとか。ワタシはこれを読んでいますからお気遣いなく。どうぞごゆっくり」
ちょっとソレ、わたしも読みたいからあとで貸してよね!
やがて殺したイブニールの分身体の数が二百を超えた。
ここまでいくと相手の癖とか動きや考えがそれとなくわかるようになり、サクサクと流れ作業じみてくる。気分はベルトコンベアーで働くパートのおばちゃんだ。
だが二百二十人目を倒したあたりから、ちょいと流れがかわってきた。
これまでは五人倒せば五人が即座に新たに顔を出していたのに、ここにきて四人に減り、三人に減り、二人に減っていき、倒すこと総勢二百三十五人目。ついにイブニールの姿は一人のみとなる。
こいつを容赦なくぶち殺したところで、ついに分身体の出現が止まった。
「あらら? ようやく打ち止めかしらん」
先ほどまでのドンパチと騒がしかったのがウソのように静かになったところで、ルーシーがやおら席を立ち、テキパキとイスやら冊子を亜空間に放り込む。
「終わったみたいですね。どれ」
しばし周囲をキョロキョロとしていたお人形さん。
やがて何かを見つけたらしく、そっちへ向かって歩き出す。
わたしもあわててついて行く。
青い目をしたお人形さんが向かったのは資材の陰となっていた場所。
広げられてあった一枚布をめくると、そこにはうつ伏せにて地面に倒れている小柄な男の姿があった。
「気配の消し方が巧妙にて、ちっとも尻尾を掴ませなかったのですが、さすがにこの状態ではムリだったようですね」
ルーシーが横っ腹を蹴飛ばしてくりんとすれば、イブニールその人。
ただしすっかりシオシオにしおれており、干物のようにて半死半生のあり様。白濁した目だけをどうにか動かし苦しげにこちらを見上げて、口をパクパクする姿は、まるで陸にあげられて長時間放置された魚のよう。
「魔力切れおよび、文字通り精も根も使い果たした状態ですね。限界を超えて能力を酷使し続けた反動ですよ。そもそもな話、聖騎士どものトリプルチートは圧倒的である反面、負担もまた尋常ではないハズだとは思っていました。神々が異世界渡りの勇者たちにギフトとスキルの二つのみしか与えない理由が、おそらくはこれなのでしょう」
ルーシーは亜空間より愛用のショットガンを武器召喚すると、銃口をイブニールの額へと押しあてる。
「このまま放っておいても勝手に野垂れ死ぬんでしょうけれども、それだとこれまでにあなたにオモチャにされた者たちの魂が浮かばれないでしょうから」
そう告げて、青い目をしたお人形さんは引き金を引いた。
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