わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
195 / 298

195 思惑

しおりを挟む
 
 それにしても異様に疲れた……、自分でも神経がすり減っているのを感じる。会場を出てからも、妙に頭の中が騒がしくて、こんな時は強めの酒で、記憶を消し去りたい気分になる。

「どうする? 須藤の車置いてく?」
「あー、そうだな、うちまで行くか」

 先に誠人の家へ寄り、車を駐車場へ止めると長谷部の車へ乗り込んだ。
「それにしても、この辺りいいよね」と周辺に空きの土地は無いのかと尋ねて来るのを聞き。

「やめてくれ、俺の店を潰す気か」
「この辺りならケーキショップもいいかなと思ってさ」
「ま、悪くはないな」

 確かに、この辺りは美容院やネイルサロンなど、女性を中心としたショップが多いので、長谷部の言うように、ケーキショップなどあれば流行るだろう。
 目の付け所は悪くないな、と感心していると、ふと笑みを零して、長谷部は誠人の方へ頭を少し傾けた。

「それに、昔は喧嘩ばかりだったけど、今なら上手く付き合っていけると思わない?」

 そんな風に言われて、確かに、今ならお互いの距離を上手く量れるだろうし、妙な勘繰りや下手な駆け引きもしないだろう。きっと、それは恋愛とは呼べないが仕事仲間の延長として、やっていける気がした。

「お前なら、いくらでも良い男捕まえられるだろ、何も中古品に手を出さなくても」
「ンー、中古の方が価値があって高いの知らないの?」
「人をヴィンテージ扱いするなよ」

 くつくつと誠人は微笑した。それに釣られることなく、長谷部は真剣な表情と口調で「失わないと価値に気が付かないもんなんだよな……」と呟く。

「俺さ、須……、誠人と別れてすぐ、違う男と付き合って、あー、こいつじゃない、って、すぐに別れて、それの繰り返しだったよ」

 昔のように、『誠人』と下の名を呼ぶ長谷部に、別れを切り出したのは長谷部からだったことを思い出して、少しだけ胸がざわつく。
 承諾したのはお互いのためだったし、今更、思い出して後悔するような出来事には感じなかったが、二度と同じ思いはしたくないと思う。

「過去は過去だろ、今はその日が楽しければいい」
「……そう思ってたけど、なんかなぁ……、あの子を見て取られたくないって思った」
「いやいや、取る取らないじゃなくて、そもそも海翔の方だって、その日限りを楽しむタイプなんだよ」
「あ、知らないフリするんだ? あんなのどう見たって俺を見て嫉妬してたのにな」

 長谷部の言っていることを認めたら、自分の中のブレーキが壊れそうで嫌だった。それをズバズバ言われて、誠人は一気に面白くない気分になる。
 軽く舌打ちして「他の男の話するなんて余裕だな?」と長谷部の太腿に手を置いた。びくっと一瞬、筋肉が硬直するのが分かり、そのまま上へと手を這わせ腰骨を撫で上げた。

「ちょ、運転中! 事故る」
「余計な話しするからだろ、ほら、しっかり前見てろ」
「あの子の代わりに抱こうとするから、ちょっと意地悪したくなったんだよ」
「……代わりなんて扱いするわけないだろ」

 長谷部の拗ねた様な言葉を聞いて、海翔の代わりなんているわけがない、と思わず本音を零しそうになる。
 少し間が空き、その間に誠人はホテルに予約を入れた。今日は休日で、しかも長谷部が相手なら、泊りがけになることを想定して、慣れ親しんだシティホテルへ予約を入れた。

「あそこのホテルなら、あとでカツサンド食べたい」
「あー、あれな」

 昔からルームサービスで、よく頼んでいた食べ物の話題に、ほっこりしながら、目的の場所に辿り着くと、長谷部を駐車場に残して誠人が先にフロントへ向かう。
 金子の所で働いていた頃は、よくここのホテルロビーで待ち合わせをしていたので、少し懐かしい気分になった。
 まだ駆け出しの料理人で、貧相な家に住んでいたから、声も出せず不完全燃焼なセックスになりがちだったことから、結果、ホテルを使うようになった。
 取った部屋はダブルベッドの中層階の部屋で、先に部屋に入ると、長谷部に部屋番号のメッセージを送った。ほどなくしてインターホンが鳴る。

「先にシャワー浴びていいぞ」
「……部屋開けるなり、それ?」
「ヤリに来たんだから当然だろ」
「違いない」

 長谷部は「じゃ、お先に」と言ってバスルームへ移動した。少々不満な様子だったのを察して誠人は、ルームサービスでシャンパンを頼んだ。
 長年の付き合いから分かる僅かな表情の変化を見て、ご機嫌を取る方法を実行した。シャワーを終えて長谷部がバスルームから出て来る。
 シャンパンが乗ったワゴンが見えた瞬間、満面の笑みを浮かべてグラスを手に取ると「やった」と子供のように喜ぶ。

「それ飲んで待ってろ」
「うん」

 素直な返事を聞き、誠人もシャワーを浴びることにした。慣れないスーツを着たせいか、首当りに汗がこびり付いてる気がして、何度も首を擦る。
 シャワーを終えて部屋へ戻れば、浮かない顔した長谷部に「電話鳴ってた」と言われ、着信を確認する。

「あー……、徹か、珍しい……」
「なに、なに、何処かの子猫?」
「違う、そっちじゃない方……」

 誠人は確認だけするとポンと携帯をテーブルの上に置いた。

「いいの?」
「どうせ大した用事じゃない、そんなことより、美味いか?」
「美味しいよ、誠人も飲めば?」
「ああ――」

 渡されたグラスを取ろうとしたが、誠人の携帯が鳴り画面を確認すると徹だった。

「は……、しつこいな……」
「出てあげたら? って言うか、そんなに頻繁に連絡取る仲?」
「いや、滅多に取らないな」

 それなら、急用なんじゃないの? と指摘されて、それもそうだなと誠人も思う。それでも、長谷部の潤んだ瞳を見れば、既に昂り始めているのは明らかで、身体を満たしてからで良いのでは? と欲望を先行させようと、頬に手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...