わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
167 / 298

167 波紋

しおりを挟む
 
 宇宙戦艦「たまさぶろう」がゆるゆる向かっている先は、トカード国。
 運んでいる荷物はメスライオンこと炎の魔女王。出張ついでにリスターナに立ち寄った彼女とオセロで賭けをして負けたわたし。
 コテンパンにされて、そのペナルティとしてジャニス女王の運搬係を仰せつかることになった。
 行き先のトカードは中堅どころの国。
 タツヤを筆頭にヨシミ、アイ、カズキ、リクの五人の勇者を保有している。
 リスターナが先の騒動後に最初にお詫び行脚へと赴き、リリアちゃんが華々しい外交デビューを飾った地でもある。
 アイさんとはラグマタイトでの国際会議のおりに顔を合わせたけれども、それ以外のメンバーとはひさしぶりの再会となる。仲良し五人組の異世界青春白書に、いかなる進展があったのか。話を聞くのが、いまからとっても楽しみ。

「わたしとしては、カズキとリクのカップリングもありだと思うんだよねえ」
「カズキはアイへ。リクはタツヤへ。互いに一方通行の届かぬ想いを抱えた者同士。それが傷を舐めあうのですね? なかなかに熱い展開です」
「片や清く正しいピュアなじれじれラブストーリーが展開する一方で、裏ではどろどろ。なんてメロドラマチック!」
「心の溝を埋めようと、いっときの快楽に身をゆだねる。でもあとに残るのは虚しさばかり。それでもやめられないとまらない」
「そして新たな感情まで芽生えて、より五人の関係は複雑怪奇なモノへと……」

 トカードの五人について、勝手な妄想をわたしとルーシーがくっちゃべっていたら、ジャニス女王が「いったい何の話だい?」と会話に参加。そこで五人の関係なんかをかいつまんで教えてあげた。
 あーでもない、こーでもないと盛り上がるわたしたち。
 そうこうしているうちに早やトカードの主都上空に到着。
 ルーシーをわたしが抱いて、そんなわたしたちをジャニス女王がひょいとお姫さま抱っこ。
 そのままたまさぶろうの甲板から宙へダイブ。
 足から炎を噴き出しながら、空をぶーんと飛ぶ炎の魔女王。
 簡単そうに空を飛んでいるけれども、これっておそろしく高難易度な技。高出力の炎を巧みに操り、魔力の調整、姿勢制御、空気抵抗、風の流れ、その他もろもろを同時にかつ息をするかのごとく自然に行うことで、初めて成せること。通常の飛行魔法とはまるで別物にて、瞬間的な飛行速度や機動性ならばセレニティ・ロードたちに迫るものがある。
 それを小娘と人形を担いで平然と行っている。
 あいかわらずとんでもねー。
 あと、この人はぜったいに産まれてくる種族と性別を間違えているね。男じゃないのがつくづく残念だ。
 とか考えているうちに、すぐにトカードのお城に到着。
 飛竜用の発着場に降り立つ勇姿を、付近にいた面々らがみな目ん玉をひん剥いてガン見していたよ。

 あたふたと迎えにきたえらい人たち。
 案内されるままにわたしたちは城内の客室へと通される。
 ジャニス女王は「仕事を先に片づけてくる」といって、すぐに部屋を出て行った。
 わたしの方は振舞われたお茶を飲み、焼き菓子をボリボリ貪って、まったり過ごす。
 そうこうしているうちに、じきに戻ってきた女王さま。
 でも何故だか、その腕にはヨシミさんの姿があった。まるでツルのごとく腕を絡ませて、ひっしと掴まっている眼鏡隠れ巨乳ヨシミ。
 これにはジャニス女王もいささか困り顔で「参ったな」
 背後にはなんともいえない複雑な表情をしたタツヤ、アイ、カズキ、リクたちもいる。

「えーと、みなさんお久しぶり。それでこれはいったい何ごと?」

 わたしが事情の説明を求めたら、ジャニス女王が「じつは」と語り出した。

 時を少しばかり遡る。
 トカードへと来訪したジャニス・ル・ラグマタイトはすぐさま王へと謁見をしてから、そのままサクサクと用件を片づけていく。
 いちいち後日改めて席を設けるなんて回りくどい真似はしない。それに晩餐だのパーティーなんぞは、ひと仕事を終えてからの方がのんびり楽しめるもの。
 彼女のせっかちな気性をよく知っているトカードの王。客人の好みに沿う形でコレにつき合う。
 そんな場面に立ち会うことになったのが、五人の勇者たち。
 壁際にて静かに見守っていたのだが、彼らのところへと会合終わりにジャニス女王がツカツカ颯爽と近寄っていく。

「きみがタツヤか。なるほど真っ直ぐな、とてもいい目をしている」
「アイにはまえに会ったな。その分ではきちんと剣の修行は続けているようだな。えらいぞ」
「そっちの二人がカズキとリクか。話はリンネから聞いている。いろいろあるそうだが、まぁ、がんばれ」
「あとは……」

 すっかり気圧されてドギマギしている五人の若者たちに、順番に声をかけていくジャニス女王。
 最後にヨシミへと向かい合ったところで、手をのばし、ひょいと彼女のかけていた眼鏡を外した。
 いきなりのことに「えっ! あっ!」と混乱するヨシミ。
 そんな彼女の顔をしげしげと眺めてジャニス女王は言った。

「ふむ。なるほど。リンネやルーシーが言っていた通りだな。じつに愛らしいお嬢さんだ。だがこの眼鏡がいささか無粋だな。せっかく可愛いらしいのにもったいない。なんなら、わたしの知り合いの治癒師を紹介してやろうか? やつならばヨシミの眼もきっとよくなるだろう」

 長身で凛々しい金髪のメスライオンからそう言われたヨシミ。頬をほんのり染めてすっかりぽーっとのぼせてしまう。
 そして彼女は誰もが予想だにしない大胆な行動に出た。
 なんと! そのままジャニス女王の腕にヒシとしがみついてしまったのである。
 幼子が好きな幼稚園の先生とかに抱き着いて離れないことがあるだろう? あんな風に。
 これに驚いたタツヤたちが引き離そうとするも「いやいや」と駄々をこねる。どうやら感情が急激に沸騰、好きという気持ちが高じて、幼児退行っぽくなってしまったらしい。
 まさかの展開、四人の仲間たちがあわてたのは言うまでもあるまい。
 愛に生きている女の代表格のようなジャニス女王。
 恋する乙女の気持ちは痛いほどによくわかる。だからこそあまり無下に扱うわけにもいかずに、ついズルズルと……。

 事情を聞き終えたわたしは言った。

「いきなり眼鏡をとって、アゴくい、そこから目を見つめて『あんた可愛いな』とか。なんだよ、その悩殺トリプルコンボ! あんたはどこぞの少女マンガの王子さまかっ! 初心な乙女になんてことをしやがる。男前にそんなことをされたら、そりゃあ舞い上がってホの字にもなるわ」
「いや、ちょっと待て。男前って、わたしは女なのだが」とのジャニス女王の抗議の声はツーンと無視する。

 事情を聞き終えたルーシーは言った。

「よくも、まぁ、乙女が密かに夢見る憧れのベタなシチュエーションを、それだけナチュラルにぶちかませたものです。とんだ乙女キラーですよ。この空飛ぶ破廉恥」
「えぇっ、ハレンチって、ちょっとひどくない!」とのジャニス女王の抗議は、やはりツーンと無視して「きこえなーい」

 こんな調子でわたしとルーシーがジャニス女王をおちょくっていたら、その側ではタツヤとアイが軽い錯乱状態にて「オレのヨシミが―っ」「わたしのヨシミがーっ」と泣き叫んでいる。そしてこれに引きずられてカズキとリクもおろおろ錯乱状態に突入。
 ヨシミさんはあいもかわらずギュッと抱きついたまま、一人うっとり。メスライオンは「なんとかしてくれ」と懇願。
 なかなかのカオスっぷりにて、ちょっと収拾がつかなくなってきたところで、「しゃーないなぁ」とわたしが動く。
 ヨシミさんの首筋にソフトタッチ。ピリリと手の平式スタンガンを発動。
 威力はかなり抑えてあるので、コテンと気を失う程度。珠のお肌に焦げ跡もつかないからとっても安心安全。
 正気を失っている四人には「とりあえず落ちつけ」と順繰りに脳天にチョップをかます。

 ぐったり気を失っているヨシミさんを囲んで、みんなでガッツリ円陣を組む。

「いいか? すべては夢だ。ジャニス女王は『アゴくい』なんてしていない。『トリプルコンボ』なんて決めてない。ごくふつうに挨拶をして、タツヤさんたちもそれに応じた。ただそれだけのこと。それで押し通せ」

 すべては乙女の妄想が見せた淡い幻。
 全員の口裏を合わせてなかったことにする。
 わたしの提案に「しかしヨシミをダマすのは」とか「ヨシミに嘘をつくだなんて」なんぞという甘っちょろいご意見には「おだまり!」とピシャリ。
「このままだとヨシミさんがラグマタイトへ亡命することになるぞ」と言って黙らせた。
 話がまとまったところで、タツヤがヨシミを背負い、揃って引き上げていくトカードの勇者たち。
 とりあえずヤレヤレである。
 半ば強引に急場はしのいだが、はたして乗り越えられるかどうかは不明。
 ジャニス女王が起こした波紋が、五人の異世界青春白書にどのような変化をもたらすのか。
 こりゃあ今後とも目が離せそうにないぜ。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!

クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』  自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。  最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...